魔法学校①
魔力のある貴族は魔法学校にはいる。
通常12歳から6年間通う学校に、モリーは3年間だけの在籍となった。
15歳で、第二王子の婚約者に指名されたからだ。
ひとつ歳上のヨシュア様は、モリーが入学した時には飛び級して4学年のクラスに居た。13歳の王子は変わらずキラキラと輝き、潑剌として、男女問わず人々を魅了していた。
モリーは周りの令嬢たちと共に、ヨシュア様と同じ時期に学校に通えることを幸運と喜び、ヨシュア様を見かけてははしゃいで大騒ぎした。
ヨシュア様のお兄様であられる王太子殿下は魔術が得意と言われていたが、ヨシュア様も魔術に特性がありそうだった。けれど、ヨシュア様は魔術師ではなく魔法騎士を目指すクラスに所属していた。
ディバレイド王国において、王宮魔術師は花形職業であるが、年頃の令嬢たちは騎士に憧れる。
細く華奢な身体でさらりと馬に跨る姿に見惚れ、歳上のクラスメイトたちに混じって剣を振る姿にうっとりとする。
自らの身体よりも大きな鉾を魔法で操りながら馬を駆る姿はいつまででも見ていられた。本当に、ヨシュア様の魔力は美しい。モリーは無意識にヨシュア様の魔力を追ってしまう。
ひとりで図書館にいる時に、モリーはヨシュア様の魔力に気がついた。
自習卓に幾らかの本を積んで、集中して本を読んでいる。そのヨシュア様が、ふと視線を上げてコチラを見た。
ヨシュア様がにっこりと綺麗に微笑んで、手招く。
「え?」
モリーは思わず振り返って、周囲を確認した。
「モリー、おいで」
名を呼ばれて、やはり自分が呼ばれたのだと気がつく。
幼い頃には何度となく遊んでいたものであるが、学校に入ってからのモリーは、王子にとって「その他大勢」に過ぎないと思っていた。
学校内で会っても、微笑むばかりで声をかけられた事はない。
モリーからは、恐れ多くて近寄ることもできなかった。
「誰もいないから、大丈夫」
ヨシュア様はそう言って、モリーの手を引く。
「モリーは魔術師のコースにいるだろう?」
そう言われて、卓の上を見れば、魔術師コースでも使われる教科書が積まれていた。
「本当は飛び級ではなくて、複数のコースを受講できれば良いのだけど」
王太子殿下に遠慮されて騎士コースに行かれたと言う噂が頭をよぎる。
「使役の魔法陣を覚えておきたいんだよ。魔法騎士のコースには何故か無くてね。妖魔が出た時には絶対に使えると思うのに」
「ないんですか?騎士コースに?」
「妖魔は使役するのでは無くて倒せと言うことなんだろうけどね」
たしかに、使役の魔法陣は家畜に使用することが多い。触れて魔力を流し込む必要があるため、妖魔に使うのは危険なのかもしれない。
「私はあまり成績は良くありませんけど」
モリーは魔法操作が得意ではない。けれど、魔法陣の意味ならある程度分かる。
そこにある資料を開きながら、いくつもある使役の魔法陣のうち、代表的な物、組み合わせて使う物などを説明してゆく。
「凄いな、誰が作ったんだろう。この作りなら、絶対に人に使えない。こんな物、人に使われたら恐ろしいけど」
昔、先先代の王が倒された時に使われた魔法は、これとはまた違った物だったのだろう。
「でも、妖魔にも使ってはいるはずなんだよ。今だって、国境で運用してるから。でもあれ、こっちには来ないだけで、近づけば襲われるからね」
「新しく作るのですか?魔法陣を?」
それはとても難しい事だ。
「僕が作らなくてもいいんだよ。必要なら、それが得意な研究者にやらせればいい」
王子の指が、資料に描かれている魔法陣をなぞる。
「だけど、仕組みをわかっていないと、説明されてもわからないからね」
そのために、知識は必要なんだ。
憧れが尊敬に変わったのは、このときだった。
モリーは密かに、ヨシュア様に忠誠を誓った。




