魔力
王女エスティア様は18歳になられ、メルト公爵家の子息サイード様と婚約されていた。
王女と同じ年の公爵令息は、王家の教育を受けたエスティア様の隣に居て、少し幼く見える。
魔法陣の書き換えは王宮の地下で行われるが、地下に立ち入ることができるのは、王宮魔術師たちと、王の血を引く親族のみ。
王家に連なるものたちは、魔法の光が灯されている6つの塔の先端が見える、王宮の中庭で書き換えが終わる時を待っていた。
魔法の光が、目に見えて変化する。
黄金色には違いがないが、その魔力の主人が変わったのだ。
ほぅ、と息をついたのは、モリーを含めて数人だった。
王妃になられたリーフェリア様、エスティア様、その婚約者であるサイード様、筆頭魔術師のバーバーリイ師、そしてモリー。
父である宰相や、ラディオス副将軍、プリシア様や、その他の大臣たちや王宮文官たち、護衛の勤めを果たしている近衛兵たちの殆ども、光の変化に気がつかれていない様子だった。
もしかしたら、日常で、当たり前のように魔力を感じていたのは、皆同じではなかったのだろうか。
モリーはようやく思い至る。
書き換えを終えた新王セヴァリウス陛下が魔術師たちと共に報告に現れる。
王の後ろに控えた魔法爵は、いつものようにローブを頭からかけていたが、さらにその口元を黒いヴェールで覆っている。
モリーはそれをみて、少し安心する。
モリーの隣にいるプリシア様の目に、若い姿のグレイシア様を見せたくはなかった。
セヴァリウス陛下の報告に、皆が口々に言祝ぐ。
務めを終えた魔術師たちが引き上げようしたとき、通りすぎるグレイシア様の手を、あろうことかエスティア様の婚約者サイード様が掴んだ。
「お離しくださいませ!」
鋭く制したのは。グレイシア様に付き添っていた女魔術師だった。
「何故顔を見せない?」
サイード様は、魔法爵の存在をご存知なかったのだろう。
公爵と並び王家に準ずる立場であられる魔法爵の手を掴むなどと、不敬極まりない。
無知が、彼の足元を掬った。
女魔術師の捕縛の魔法陣がサイード様を捕え、近衛兵たちに連れてゆかれる。
モリーは腕を掴まれた。プリシア様の手が、大きく震えていた。




