第4飛 時代錯誤
学校。
「おはよー」
「おはよー」
「あれ?」
「瞬君、おはよ。どうしたの?」
「あ。華菜さんおはよう。
何か下駄箱に手紙が入ってて」
「お。(華澄さんやるじゃーん)」
「おはようございます。
どうしたんですか? 瞬君」
「あれ? 華澄さん?」
「はい、一緒に来ましたよ?」
「あれ?」
「おはよう華澄さん。
なんか可愛い手紙がここに……」
「あら。ラブレターかも知れませんよ?」
「……? (華澄さんじゃないの……?)
中は? なんて書いてあるの?」
「華菜さん、流石にそれは言えないよー」
「あ、そっか……」
算数の授業中……。
「で、この数字はー……」
「どうしよ、全然先生の話が頭に入ってこない」
ちらりと華澄の方を見る。
「……普通に先生の話を聞いてるんだよねー」
「華菜さん、どうしたの?」
「あ、うん。瞬君、なんでも……」
「何かずっとそわそわしてない?」
「手紙が気になって……、あはははは……」
「これ、そんなに気になる?」
「あ。言えないんだよね、ならいいんだ」
「ひょっとしてこれ、華菜さん?」
「え? 違うよ?」
「誰だろう、送り主が書いてなくて……。
心当たりがないんだよね」
「……。(心当たりないの!?)」
「では、華菜さん。ここ分かりますか?」
「あっ、あっ……なんだっけ、円周率?
半径1の円に内接する正六角形の周の長さは6であるが、
円周率を3と仮定すると半径1の円の外周を計算する場合は6となり、
図形としては明確に異なる内接六角形と外接円の長さが一致する故に
数学的には一致と証明されない」
「……? 華菜さん、円周率は3.14ですよ?」
「しまったー! この時代は3.14か!」
「この時代?」
「うわーっ!
3.141592653589793238462643383279……」
「華菜さん! 大丈夫ですか!?
何気に円周率合ってますし!」
どっと教室が笑いに沸く。
「あ、あはははは……、大丈夫でーす……」
真っ赤になって華菜が着席する。
「華菜さん、習ったばっかりなのに
3.14以降の円周率の桁をもう覚えてるの?」
「タイムマシンの計算に必要で……、ってこらーっ!」
「タイムマシン?」
「そんなもの、あったらいいね!」
「うん? 出来たら凄い話だよ」
「凄い話だね、うん」
歴史の授業中。
「では華菜さん、鎌倉幕府の創設年は?」
「いいヤゴ飼おう鎌倉幕府! 一一八五年!」
「ヤゴ?」
「だーっ! ハコだったー!
いいハコ作ろう一一八五年!」
「は、はこ?
源頼朝が征夷大将軍になったのは……」
「あーっと! 今は一九九五年やないかーい!
いい国造ろう鎌倉幕府だったー!
残念! 一一九二年!」
またもどっと笑いが沸く教室。
「華菜さん、本当に大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫です。大丈夫……」
「六四五年に起きたことは?」
「乙巳の変!」
「へ?」
「おーっと! 今はまだ分かれてないのかー!
蘇我氏を虫殺し、大化の改新!」
「では、華菜さんに難しい問題を。
最古の人類は?」
「サヘラントロプスチャデンシス!」
「え?」
「うわーっ! まだ見つかってなかったー!
アウストラロピテクス!」
「せ、正解です……。
全然違うページなのによくすぐ出てきましたね……?」
「習ったので!」
「いつ?」
「私、こう見えてページめくるの早いんです!」
「は、はぁ……」
大汗かきながら着席する華菜。
「あー、恥ずかしかった」
不思議そうな顔をした瞬が語り掛ける。
「華菜さん、何者……?」
「そ、その辺にいる女の子?」
「絶対いなさそう」
下校時刻。
瞬の後をつける華菜。
「お相手は……、華澄さん……?
確かめなきゃ。
瞬君、校舎裏に入ってったな」
「瞬君!」
「来た! ……誰?」
来たのは華澄ではないようだ。
「~~~……」
「っ! ~~……」
「き、聞こえないな……」
身を乗り出そうとしたら、ドンッと誰かにぶつかった。
「~~~っ」
半分顔を押さえた女の子が走り去って行った。
「あ。華菜さん、見てたの?」
「やば」
「気になるなら結果を明日、こっそり話したのにー」
「ごめーん」
「って言っても僕もよく知らない子でね……」
「断っちゃったの?」
「好きって言ってくれるのは有難いんだけどー……、
気持ちがないまま付き合う方が失礼かなって。
断っちゃった」
「……瞬君、好きな子いるんだ?」
「え?」
「んー、何となく?」
「女の子って鋭いなぁ……」
「誰かは聞かないよ?
言わないから教えてって言ったって次の瞬間にはバレてるのが子供の恋愛だからね」
「へ? 華菜さん?」
「あ、いや、そういうこともあるんだろうなって……」
「随分と大人びたことを言うんだね?」
「い、いやぁ……あはははは」
「華菜さんならバラさなそう」
「いや、信じないでよ」
「そういう人が一番信用できると思うんだよ」
「そうかなー」
「だから……、華菜さんが気になったのかな」
「……うん?」
「華菜さん、実は」
「おーっと! ちょっと、ちょっと待っておくれ!
流れが変わってきてないかい!?」
「僕の好きな人は華菜さんだから。
ほら、バラさないでしょ?」
「うぉぉい!? 私かーい!」
「華菜さん面白いし、可愛いし?」
「いや、まずい! 私はまずい! 色々とまずい!」
「あれ? まずいって?」
「何だろうね! もっと可愛い人いるよ!
まさか私と来るとは思わなかったよ!」
「……好きな人いるんだ?」
「いや、何て言ったらいいのかな!?」
本当の事なんて、血が繋がってるなんて言えない。
「ほら、私じゃなくて!
私にそっくりな可愛い子! 華澄さんとか!
気が利く可愛い子だと思うんだよ!」
「女の子の言う可愛い子は信用するな?」
「そこはこの時代にそういう考えで通るんかーい!」
「華菜さん、華澄さんと姉妹ってことを隠してるの?」
「あ。本当に姉妹じゃないんだよね。
ただ、なんだろう。
華澄さんの現身みたいのが私でね。
いずれ私は遠くに行っちゃうかもしれないから。
気持ちは嬉しいんだけど。」
「振られちゃった、なぁ」
「華澄さんは? 好きになれない?」
「……華澄さん、とても可愛いと思うんだけど
もう好きな人いるっぽいんだよ」
「お前だーっ!」
「へ?」
「ちっがーう! そうじゃない!」
「華菜さん、とても面白いんだけどなぁ」
「あー。そろそろ真面目に話そうか、うん。
別にさ、私に振られたからって
私に似てる華澄さんを好きになったって、
乗り換えたとか全然思わないよ。
ガチでここだけの話だし、ノーカンノーカン。
むしろ私は瞬君を応援したいかな?
瞬君、恋は多いかも知れないけど好きが一致したら
その人しか見ない一途な性格してると思うんだよね」
「……ど、どうして?
確かに惚れっぽい性格はしてると思うんだけど、
好き同士になったら浮気は絶対にしないって決めてる。
なんでそれを知ってるの?」
「ふふ。私、乙女だから」
「華菜さん、素敵なお嫁さんになると思うよ」
「全然。瞬君こそいい旦那さんになると思うよ」
「ありがとう」
「ふふ、いいよ」
「……華澄さんにアタックして、いいのかなぁ」
「なーにヘコんでるんだよっ!
私としては瞬君と華澄さんがくっついた方が見てて嬉しいよ!」
少し俯き加減の瞬の背中をぱしん、と軽く叩く華菜。
「そう?」
「そうそう、推しだからね!」
「推しって?」
「この意味ではまだ生まれてない言葉か。
応援したい、そんな存在!」
「でも華菜さん……」
「男なら振られたくらいで気にするなよ!
その私がいいって言ってるんだ! 切り替えていけ!
案外、華澄さんの好きな人は瞬君かもしれないよ!」
「そうかなぁ?」
「……自覚ないのか。」
「ん?」
「無自覚に優しいんだね、瞬君。
罪づくりな男だよ、あなたは。あははははっ!」
「底抜けに明るいね、華菜さん」
「いやー、両親のお陰じゃないですかねぇ。
……ねぇ?」
「ん?」
「ふふ。その真面目さは華澄さんだって見抜いてるよ!
女の子ってそういうところあるから、さ」
「華菜さん、本当に十二歳……?」
「恋愛はしたことないけどね!」
少し話をして校舎裏を出たけど、誰もいないよね……?
一瞬私が好きって言われてビックリしたけど結果オーライかな。
ほらね、私いらないこと言ったかもしれない。
余計なことしなきゃいいのにさー。
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