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第3飛 運命分岐点

 教会。


「ただいまー。ナヴィ、いるー?」


「退屈です、華菜さま!」


「まぁ、そう言わずに……ね。

バレたらあなたきっとバラされるよ」


「ひっ……」


「まぁそれは置いといて」


「置かないでくださいっ!」


「あら、ナヴィさんいらしたんですね」


「華澄様、ご機嫌麗しゅう」


「へ?」


「ナヴィ、冗談を言うようになったんだね」


「冗談ではありません!

そもそも華澄様は華菜さまのおかあsむぐぅ!」

「わーっ! わーっ!」


 大慌てでナヴィの口を塞ぐ華菜。


「何ですか?」


「い、いやぁ何でもないよ。

お、お風呂入らなきゃなぁぁ!」


「あ。そうでした!

今洗ってきますねー」


「ごめーん」


 ぱたぱたと華澄が行った後で。


「むぐぐ、ぷはっ!

華菜さま! なにをするんですか!」


「バカナヴィ!

華澄さんにそれがバレて関係性がこじれたら

両親が生き返らないかもしれないんだよ!?」


「……あ」


「あ、じゃないんだよ!

AIのくせにそこ分かんなかったの!?」


「申し訳ありません、失念しておりました」


「そんなに真っ直ぐに謝られたら責められないじゃん」


「AIってそういうものですから」


「分かってて言ってるの!?」


「いや、僕の場合は真剣に謝ってます。

申し訳ありません」


「もうっ」


「僕は感情が分からないのですが、

華澄さんにはもう瞬さんが見つかっているのですか?」


「……うん。何なら仲もいい」


「成程、ここで未来の関係性が明らかになると

過剰にお互いを意識して関係性が上手くいかなくなる」


「ぎくしゃくするとも言うね」


「……未来が変わる」


「まぁ、私自身は消えてもいいんだけどー……」


「よくないです!」


「……私ってどうやって生まれたと思う?」


「それはお父さまとお母さまから……」


「そう。両親あっての私なんだよ。

その両親は、二〇二九年にガス爆発で死んだ」


「……」


「その二人の間の子供が、両親の幸せを……

生きていることを心から願うのは罪だと思う?」


「いいえ」


「難しいこと聞くよ?」


「はい」


「二〇一七年に私が『生まれなかった』として

その年含めて二〇一七年以外に……、

私の誕生日以外に生まれた子供は私だと思う?」


「……いいえ」


「そうなんだよ。

二〇一七年九月九日ぴったりに生まれなかったら同じ両親でも私じゃない」


「……」


「でもね、私が消えても両親が生きていたら……

『そこ』だけは幸せに過ごせると思うの」


「しかし華菜さま。

華菜さまが生まれ、育つ幸せはご両親は得ることはできません」


「それは私じゃない子供から得るっしょー」


「いいえ、華菜さま

華菜さまが生まれ、育った幸せはご両親の幸せ同様唯一無二なのです」


「……言うじゃん」


「僕も華菜さまに生んでいただいた存在です。

その華菜さまが生まれなかったら、私も、消えます」


「あ……」


「機械である僕自身は消えても構いません」


「待って」


「でも人の身である華菜さまには幸せになっていただきたいのです」


「あー、もう。

そう言い返されるとは思わなかったよ」


「僕の発言に落ち度があったことは認めます。

しかし、華菜さま。

あなた様にもご両親同様、幸せになる資格……ではありません。

義務があります」


「そうっかぁー……。

だったら尚更、お父さんとお母さんには生き返って二〇一七年に私を産んでもらわないとなー」


「かすm……いえ。

お母さまは何年にご結婚されたのですか?」


「実は知らないんだー……。

逆算して三十四歳で産んだんだろうな、ってのは分かるんだけど。

ちぇっ、こんなことになるんだったらもっと両親と話をするべきだったよ。

まだ死んだ実感がないんだ」


「こっちでは生きてますからね」


「それもあるけどー……。

問題もあって」


「なんでしょう?」


「今のまま両親の無事を獲得したとして、

私を産む年齢になって私が未来に帰ったら、何て言われるかな」


「……?」


「ほら、もう両親は十二歳の私を知ってるんだよ。

この時点で」


「あ……」


「帰った時点で四十六歳の両親が、昔会った子だ!

何で!? ってならない?」


「……華菜さま、難しいことを言いますよ」


「なぁに?」


「それは同じ並行励起世界……、パラレルを歩んでいるからです」


「ずらしたら私、生まれなくない?」


「ご両親が死なない世界で華菜さまが二〇一七年九月九日に生まれる、可能性の世界」


「そんな都合よくいくー?」


「同じ都合で、華菜さまが生まれる可能性の世界でご両親を亡くされたんです」


「……両方同確率であり得る話、か」


「そうです」


「あれ? じゃあ死んだ両親は『昔の私を知ってた』の?」


「知らないはずですね、ここが開始時点の運命軸ですから」


「……そっか。ねぇ」


「はい」


「このスマートリングっていつチャージできそう?」


「もう出来てますよ?」


「あ。そうなんだ」


「ただし、気を付けてほしいことが一点」


「ん?」


「……あと一年で何とかしないと、華菜さまが生まれる可能性が消滅します」


「それは並行励起世界の可能性の話?」


「いえ。それを言うならご両親が亡くなる十分前にでも帰って

ガス栓を閉めて換気をしたらいいだけの話です」


「あ、そっか。

……あれ? じゃなんで私ここにいるの? 意味なくない?」


「恐らく、先ほど言った両親が亡くならず華菜さまが生まれる可能性の運命分岐点がこの時代にあるからです。

それが華菜さまが時間を跳んでここに来た理由になります。

引き寄せられた、とも言いますか。

その点を加味してあと一年と申し上げました」


「……? 運命分岐点?」


「恐らくこの一九九五年にご両親が結ばれるきっかけがあります。

ただ……」


「ただ、なんですか?」


「うわーっ!」

「うわーっ!」


 驚いて飛び退いた華菜とナヴィに帰って来た華澄が目を丸くする。


「な、なんですか?」


「た、ただいま……?」


「華菜さん、それは私のセリフですよー」


「そ、そうだよね。あははは……」


「難儀しそうですね、この1年……」


「ナヴィさん、難儀って何ですか?」


「あ、バレないように過ごすのって大変だなぁって!」


「私、内緒ごとには自信あるんですよ。大丈夫です!

秘密ってワクワクしませんか?」


「ワクワクしている時点でバレるフラグ盛り盛りなんだよねぇ……!」


「華菜さん、フラグって何ですか?」


「イベント、みたいな?」


「いーえー、バレません。

ナヴィさん可愛いですし、あげません」


「か、可愛い……!?」


「華澄さん、ナヴィは男の子だよ」


「えぇっ!?」


「どうせ僕はロボボイスですよ……」


「あぁ、どうしよう! ナヴィさんごめんなさい!」


「そ、そんなに真剣に謝らなくても……」


「華澄様、面白いですね」


「そうですか? 初めて言われました」


「私から見ても華澄さんは面白いかな。

機械ばっかいじってる私に文句ばっか言ってたもnもがっ!」

「こらーっ!」


「……?」


 今度は華菜がナヴィに口を塞がれる。


「華菜さまは奇怪なことを話す病気にかかっています。

なお、治療法はありません」


「えぇっ!? 大丈夫なんですか……?」


「不可思議なだけのロジックで存在しているバグのようなものなので」


「ナヴィ! 前言ったこと根に持ってるの!?」


「僕、バグなんてないですよぅ!」


「悪かったって!」


「賑やかですねぇ……」


 方向性は決まったけど、やり直しも難しいんだなって。

 失敗しても戻ればいいやーって思ってたけど、ナヴィの言うように

運命分岐点がここにあったら案外そうでもないかもしれない。

 華澄の入れてくれたお風呂に入りながらうんうん悩む私。

 私の性格上、余計なこと言いそうなんだよなー。

Copyright(C)2026-大餅 おしるこ

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