第5飛 パラレルリング、発動!
こうして時代に慣れない華菜の学校生活は始まった。
「華菜さーん、朝ですよー」
「ねむーい……」
「温かいキャベツとモヤシのお味噌汁と炊き立ての白いご飯、お漬物があります」
「起きる。今すぐ食べたい」
「華菜さんは可愛いなぁ……」
登校中。
「まだまだ寒いですねー」
「二月だからねー。
機械を直してる時、手がかじかんでさー」
「機械は直ったんですか?」
「これ!」
右手の中指にはまっている指輪を見せる華菜。
「スマートリング……、でしたっけ」
「うおっとぉ!
もう数十年は早……、もういいよこのネタ。
これに色々仕込んでるんだー」
「ネタだったんですか?」
「流石に飽きたでしょ」
「面白いからいいと思いますけど」
「面白いんだ……。
ウケ狙ったわけじゃないけどウケてるならいいか」
「車も結構走ってるねー」
「地面が凍ってますね、滑って来ないといいですが」
ザーッと車がスリップしてくる!
「華澄さんっ! 危ないっ!」
「……え?」
カアッ! とリングが強く輝く。
車は華澄をすり抜けるように大きくスピンし、
さらに滑ってそのままガードレールに激突する。
「……あ、あれ?
何が、起きたんですか?」
「華澄さん、大丈夫!?」
「なんか一瞬意識が途切れたような……、何でしょうか」
「無事でよかったー……、警察呼ぶ?」
スマートフォンをちらつかせる華菜。
「あ。すまほ!」
「ちっがーう!
これに電波が来るわけないんだよ!
まだ基地局は立ってないって!」
「あははははっ!」
「運転手さんは無事だね。
華澄さんに当たってないし行こうっか?」
「でも、その現場検証とか」
「まぁまぁ」
戸惑う華澄の背中を押す華菜。
家について華澄が寝静まったころ。
「……ってことがあってさ、ナヴィ」
「僕の搭載したひとつの機能が発現したようですね」
「これ時間操作と並行励起世界のナントカだけじゃないの?」
「ナントカではなく行き来です」
「それ、私以外も対象なの?」
「そうですよ?」
「私は車が外れろーって思ったんだけど……」
「一瞬ですが、華澄様のお身体をパラレルに放り込んだからですね。
ただ、パラレル操作に慣れていない華菜さまが完全に華澄様の関連を切ってしまうと
存在自体が危ぶまれる可能性があります。
ですから、セーフティが働いて現世の関係性を切らない形ですり抜けたんですねー」
「意識だけ残ってたの?」
「意識も向こうに飛んでるはずですね」
「あ、そっか。
だから一瞬意識が途切れたようなって言ってたのか。
意識も肉体もここのパラレルを離れるのに、存在は残せるの?」
「言葉、思考等で存在を証明できうる限り、存在自体は残せますね。
かと言って切り離すことが困難というわけではありません。
華菜さまが慣れてくれば、存在を含む全てをパラレル移動することも出来ます。
これもまた先ほど同様、向こうの存在を証明できる限り消滅を免れることができますね」
「すっごい理論だねぇ」
「そもそも時間を触ること自体が神の所業を超えていますからね」
「私、死んだら神様に怒られるのかなぁ」
「怒られないと思いますよ?」
「なんでそう言い切れるの」
「怒られるならもうあらゆる手段を講じてでも
イレギュラーである華菜さまの存在消滅をかけられていると思いますので」
「あ、そっか。
私、二〇一七年生まれなのに一九九五年にいるんだもんね」
「そうですね。
無いということは、神には『未来』が見えているのでしょう」
「……瞬さん、華澄さんが助かるといいなぁ」
「そのためのパラレルリングですから」
「ちょっと待って。
今日華澄さんが死にかけたんだよね。
これって本筋のパラレルでは『起きた現象』なんだろうか」
「と、言いますと?」
「私がこの世界に関与した『反動』で起きた事故ってことはない?」
「計算しましょうか?」
「おねがーい」
「カタカタカタカタ……」
「随分アナログな音出すじゃん」
「出ました。
結論から言いますと、亡くなられた華澄様にも起きた事故のようです」
「あー、そうなんだ。
特別私が関与したから変わった運命じゃないんだね」
「ただ」
「ただ?」
「華菜さまが関与しなくても助かった事故の可能性が非常に高いです」
「あれで?」
「恐らく寸前でしたスピンで華澄様だけ綺麗に躱した稀有な可能性が考えられます」
「はぇー……」
「これって願うだけで発現するの?」
「そんなチープなものではありません」
「私の願いがチープとか……」
「申し訳ありません、そういう意味ではなく……」
「分かってて言った」
「意地悪ですね」
「あはは」
「割と強く願わないと発動しません。
息が詰まるような、血の気が引くような、背筋に冷たいものが下りるような……
その辺の感覚まで行かないと発動しません」
「なんだぁ。
先にテストの結果だけ知って楽しようと思ったのにー」
「神に許されたひとつの力をそんなショボいことに使わないでください」
「授業で恥しかかいてないんだけど」
「それは主に華菜さまの注意散漫なせいかと」
「三十四年も前に来てるんだから、慣れないよー。
スマホとかさー、あ。充電切れそう」
「スマホ、充電します?」
「出来るんだっけ?」
「僕を何だと思ってらっしゃるんですか。
万能ナビゲーションAI、ナヴィですよ?」
「あなたって放り込んだエネルギーを動力に変換できる装置を積んでるけど、
スマホの端子なんて持ってたっけ? Type-Cだよ?」
「何でスパナやドライバーを内蔵している僕が
スマホの端子如きを持っていないと思われるのか……」
ぱこん、とお腹を開けるナヴィ。
そこからケーブルを引っ張ってくる。
「どうぞ」
ケーブルをつなぐと、ポン。という音と同時に充電が始まる。
「ありがと。
ナヴィ、エネルギーはどうやって取り込んでるの?」
「あれ? 僕、華菜さまと華澄様と3人で一緒にご飯を食べてるじゃないですか」
「……あまり考えたくないんだけど、
エネルギーを絞った後の食べカスはどうしてるの?」
「油カスにしてベランダのミニトマトの肥料にしてますけど」
「……そんな機能つけてたっけ?」
「ここまで優秀に作っていただいたので自己改造できますね」
「あ。褒めてくれる感じー?」
「よっ、華菜さま天才っ」
「……あなた、そんなことも言えるんだね」
「天才に作られたものは天才になります」
「あなた自分が優秀って言いたいだけじゃない?」
「まさかー」
「なんか腑に落ちないなぁ……」
「華菜さま、話は変わりますが……」
「逃げたな?」
「違います。
明日は二月十四日、バレンタインですよ」
「バランテイン?」
「バレンタインです。
まったく、未来人の発言とは思えませんね……」
「まーったく、訳の分かんない日にちなんか作ってぇ。
いつから始まってるイベントなのさー」
カコカコカコ、と華菜がスマホを叩く。
「電波来てないんだった、いい加減早く慣れたいな」
「一九五八年ごろですよ、華菜さま」
「そんな昔なの?」
「女性が男性に対して、親愛の感情を込めてチョコレートを差し上げる。
そんな日本型バレンタイン文化が根付いたのは一九七〇年後半と言われていますね」
「ナヴィ、チョコ欲しい?」
「欲しいです」
「あなた、素直で真っ直ぐだね。
モテたいんだ?」
「僕も一男子でありますので」
「華澄さんには『可愛い』って言われたのに」
「可愛く作ったのはどこの誰ですか」
「おっと、そこを踏まえて自己改造しなかったのは誰かな?」
「むむむ……。
……おっと、言いたいのはそれではなくてですね」
「どうしたの?」
「……察しが悪くて悲しくなります」
「……? あ。華澄さんがチョコを誰にあげるかって話?」
「そうですね。
瞬様にあげられなかった場合におかれまして、
我々のやってる事の意味全てが一気に危険水域まで引きあがります」
「……やっべ。私、呑気に瞬さんにチョコあげようと思ってた」
「華菜さま、義理ですよね?」
「何のためにこの時代に飛んできたと思ってるのー?
自分の親を誑かして何になるのさ」
「先日振られたばかりですのにこんなことされたら男子としては複雑ですね」
「あなた感情分かんないんじゃなかったの……!?」
「一般論です」
「たまにナヴィがよく分かんない」
「華菜さまも女性らしくデータベースにない行動をされますね」
「絶対貶してるでしょ」
「女心と秋の空」
「バラすよ、あなた。
丁度どこを改造したか知りたかったし」
「ひっ! や、やだなぁ……。
優しい華菜さまはそんなことしません。
……しませんよね?」
「いいよ、もう。おやすみっ」
「おやすみなさいませ」
そうか、明日バレンタインデーだったんだ。
自分、恋愛したことないから視野に入ってなかったな。
華澄さん用意するのかな。
するとしたら誰に?
ぐるぐる思考が回って寝付きにくい夜を過ごした。
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