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第18話

「ええっ。いっきにキナ臭い話になってきちゃったなあ」

 翌日、ヴァルナードは、魔法の先生として公爵邸を訪れたアルノーをつかまえた。

 二人はヴァルナードの自室に移動した。

 ヴァルナードはアルノーに、アルベルトの遺品を見せながら、昨夜、手帳に書かれていたことを伝えた。

 アルノーはとても驚いている。

 あたり前だ。ヴァルナードもまだ信じられない気持ちでいた。


「アルベルトのノートや手記は、お前が持っていた方がいいだろう。

 だが、気を付けてくれよ」

「やだなあ、これでも魔法院の魔法使いだよ、レアな物の取り扱いは心得てるって」

「そうじゃない。お前の身の危険のほうの話だ」

「ああ。そっちか……」

 アルノーは急に真面目なトーンになって言った。

「アルベルトを事故に見せかけて殺すだなんて、相当手練れだよね」

「我が家に押し入った誘拐犯たちも、訓練されていた。

 結局、口を割らせることが出来ず、憲兵に引き渡すしかなかった」

「手練れを雇えるとなると、お金や権力があるってこと?」

「そういうことになるな」

「ふーん」


「エリアを誘拐しようとした者たちが、殺害したかったのか、利用したかったのかもわからないしな」

「でも、かわいそうだけど殺そうとするならその場で出来たんじゃないの?」

「なにか、聞きだしたいことがあったとか、確かめたいことがあったとか、そういう可能性もある」

「うーん、そうか」

「騎士団長の養女誘拐未遂のほかに、王立魔法院の上級研究者を殺害したとなれば、話は大きくなるな。

 まあこれらがつながっているのかも現時点ではわからないが――」

「うん。あれだけ大きな魔法なら、あちこちから狙われてもおかしくないね」

「王宮内の誰が味方で、誰が敵なのかわからないのが厄介だな」

「ほんとだよね~。迂闊に動けないね」


「慎重にやるしかない。

 お前にも護衛をつけよう」

「え、いいよ、俺自分のことくらい守れるし」

「アルベルトも魔法使いだったのに事故にあったんだぞ」

「まあ、そうだけど。アルベルトは研究の専門家、俺は実戦の専門家だよ。

 心配ならこれを見るといい」

 そう言うと、指を伸ばし、腕をなめらかに動かした。

 すると、緑色の妖精たちがアルノーの周りに現れた。


「ほら、これが俺の護衛。

 ナイフや矢が飛んできても、絶対当たらないさ」

「こんなことが出来たのか」

「うん、でも少量の魔力をずっと出し続けてるわけだから、魔力消費が地味に効いてくるんだ。俺は魔力量が無駄に多いからできるけど、滅多にやる人はいないよ。

 俺が枯れ切って倒れる前に、解決してくれることを願ってるよ」

「努力しよう」

 と、ヴァルナードは言った。


 そして、

「そっちはなにか分かったか」

 と、話題を変えた。

「それそれ!

 ちょっと気になる記述を見つけた」

 アルノーによると、100年前のアルディア国との戦争前に、ライゼリア王国の第4王子がアルディア王国に留学に行ったそうだ。

「ほう、国交があったのか」

「そうみたいだね。まあ別に鎖国してたわけじゃないから、不思議じゃないけど。

 でも留学なんて仲良さそうなところから、なんで急に戦争?って思うよね」

「そこでなにかあったのかもしれないな」

「うん。あとはアルベルトのノートと本を読んでからかな」

「頼んだ」


「あと、調べてほしいことがあるんだけど――」

「なんだ」

「アルベルトの遺品、寄贈されたものが木箱3箱だったんだよね?」

「そうだ」

「それがちょっと少ないなと思ってさ。

 誰かほかの研究者が持って行ってるかもしれないけど、アルディア王国と王家が、閲覧制限かかるような機密扱いなら、堂々と調べてる人間はいないんじゃないかな~」

「つまり、こっそり調べてる者がいるか、王家に処分されたかどちらかだということか」

「そういうことを疑っちゃうよね~」

「倉庫の管理官に記録を調べてもらうか」

「よろしくね~。じゃっ俺はエリアとデートしてくる~!」

 アルノーにわざとらしく嬉しそうな顔をされて、ヴァルナ―ドは無表情で対応しようとしたが、眉間にしわがよってしまった。


 アルノーが出て行ったあと、ヴァルナードは、昨日の遺品の外套を眺めた。

 昨夜は、手帳とノートを読むことで朝になってしまった。

 手に取ってポケットを確かめると、ハンカチに包まれたペンダントトップが出てきた。

 白金の台座にきれいな石がはめ込まれているものだった。

 これもアルディアに関するものか、と思ったが、ポケットに無造作に入れられているところを見ると、急いで買ったお土産だろうか。

 何も書いていないのでわからない。

 どちらにしろ、アルノーに確かめてから、エリアに渡そうと思った。


 お昼前に、エリアたちが屋敷に戻ってきた。

 エリアの顔が真っ赤になっていた。

「どうした」

「はい……たくさん……走りました……」

 まだ少し息が上がっていた。

「魔法は体力からってね」

 アルノーが、けろりとした顔で言ったので、ヴァルナ―ドは睨みつけた。

「ごめんごめん。でもヴァルが魔法制御できるようにって言ったんだからね」

 確かに、早急に体力をつけないと、あふれる魔力が命にかかわるという話は期かされたばかりだ。

 かわいそうだが、頑張ってもらうしかない。

 普段、いくら部下を鍛えても心が痛まないヴァルナードだが、エリアのこととなると感じ方が変わるのを不思議に思った。


 エリアがリナにつれられて、お風呂へ行ったのでアルノーにペンダントトップを見せた。

「これを見てくれ」

「ん?なんだろう。魔石……?星晶石かなあ」

「アルベルトの外套に入っていた」

「となるとアルディア王家に関するものなのかも」

「エリアに渡しておこうと思う」

「いいんじゃないかな、危ないものには見えないし」


 昼食後、ヴァルナ―ドは、アルベルトの遺品を預かった、ということにしてエリアにペンダントトップを渡した。

 エリアは両手でそっと受け取り、切なそうな顔でそれを見つめた。

「あの人の……」

「ああ、アルベルトがハンカチに包んで持っていたものだ。お前に渡しておく」

「大事にします」

「そうしてやってくれ」


 倉庫の管理官に記録を見せてもらうため、ヴァルナードは王宮へ向かうことにした。

 アルノーも一緒に行くという。

 そういえばエリアは、ペンダントトップをしまう宝石箱も、ペンダントにするチェーンも持っていないはずだ。と、ヴァルナードは思った。

 それに、本を買う約束をまだ果たせていない。

「エリアも連れていく。リナ、ハンス、支度を」

 二人は会釈をした。

「えっ」

 エリアは不思議そうな顔をした。

「王宮に寄ったあと、街へ行くぞ」

 ヴァルナードの言葉に、エリアは目を輝かせた。


 王宮魔法院の倉庫管理官によれば、詳細な記録の確認には少々時間を要するとのことだった。

 ヴァルナードは待機する間、エリアの午前中の運動がいかに大変だったかを聞いた。

 しばらくして、先ほどの管理官が姿を現した。

「お待たせいたしました。アルベルト・クルーゲ様の遺品についてですが……」

 管理官は言葉を濁し、わずかに顔を曇らせた。

「どうした」

「台帳を遡りますと、当初運び込まれたのは五箱だったようでして……」

「五箱だと」

「はい。残りの二箱は……どなたかが持ち出したようなのですが、肝心の記録が残されておりません」

 記録が存在しない。

 それは、意図的に抹消されたのではないか――。

「分かった。手間をかけさせたな」

 ヴァルナードは短く告げると、足早に廊下へ戻った。

 消失した二箱分の遺品。アルベルトが調べていた最も重要な資料が、そこに含まれていた可能性は高い。

 一体、誰が持ち去ったのか。

 王宮内の者か、外部の者か。


 王宮の回廊をエリアたちと進んでいると、前方から一人の男が近づいてきた。

「これは、ライゼン騎士団長。と、お嬢さん。珍しいところでお会いしますな」

 宰相である、グリムハルト・フォン・ドゥンケル侯爵だった。

 恰幅の良い体型に、滑らかな禿頭。だが、その双眸だけは鋭利な光を放っていた。

 エリアを隠すように軽く手で阻んだ。


「宰相閣下」

「近頃は多忙な毎日を過ごされているようですな。先日の舞踏会での鮮やかな立ち回り……社交界でもっぱらの評判ですぞ」

 柔和な笑みを浮かべているが、やはり瞳の奥が笑っていない。


「過分なお言葉、恐縮です」

「それに、そちらのエリア嬢。魔法使いの素養があるとか……。」

 ヴァルナードは微塵も表情を動かさなかった。

「左様にございます」

 エリアはヴァルナードのうしろに半分隠れるように立っていた。


「ほう、やはり……。是非とも公爵とは膝を突き合わせてお話ししたいことがありましてな」

 グリムハルトがじり、と距離を詰めた。

「舞踏会でも申しましたが、近いうちに、我が邸での晩餐にいかがかな。この国の行く末のためにも、未来ある者を導かねばなりません。是非とも足をお運び願いたい」

 逃げ道を塞ぐような、慇懃な招待だった。

「前向きに検討させていただきます」

「期待しておりますぞ。では」

 グリムハルトは恭しく一礼した。


 ヴァルナードも軽く会釈を返し、その横を通り過ぎた。

 エリアもヴァルナードについて足早に通り過ぎる。

 角を曲がって、エリアを見た。

「嫌な者に会ってしまったな」

「はい……でも、ヴァルナード様と、リナさん、ハンスさんがいたから大丈夫です」

「えらいぞ」

「でも、あの人のお家には行きたくありません」

「私もだ」


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