第13話
昼食が終わったあと、敷地の小川に来た。
お屋敷の土地が広すぎるので小さな森や小川が敷地内にあるのが驚きだ。
わざわざ小川に来たのは、うっかりお屋敷を吹き飛ばさないためだそうだ。
「本当はもっと広くて何もないところがいいんだけど、誘拐されそうになった直後でお屋敷から出るわけにもいかないしねえ。
まあ、ここも外といえば外だから、ヴァルのやつがブーブー言いそうだけど、僕とハンスがいれば万が一も大丈夫でしょってことで」
さらに少し遠くのほうに、他の騎士さんたちが数人見えた。
魔力を暴走させたのに追い出されないどころか、騎士に守られている。
少し前のわたしなら絶対に信じない状況だ。
「よし、じゃあまず目を閉じて」
目を閉じる。
「手を出して」
胸の前に両手を出した。
「手のひらを上に向けて」
言われたとおりにする。
「ゆっくり呼吸をして」
息を吸って、ゆっくり吐いた。
「しばらくそのまま――」
そのまま数分が経過した。
「いいよ。ゆっくり目を開けて」
そっと目を開けると、手のひらの上に淡い黄色の丸い光があった。
「それが君の魔力」
「これが……わたしの……」
魔力が暴走したときの目の色に似ていた。
「よし、もういいよ。手を下ろして」
手を下ろすと、淡い光は消えてしまった。
「今日はひたすらこれの練習!」
アルから課題を出された。
とても簡単に思えたが、もう一度やってみると丸い光は作れなかった。
変だなと思い、もう一度やったがやっぱり駄目だった。
「なんでだろう……」
「さっきは僕がサポートしたんだ。
魔力の流れを引き出した」
そんなことが出来るのか。
それであんな簡単に感じたのだ。
わたしは、すっかり課題に夢中になった。
おやつの時間もお屋敷に戻らなかったので、リナさんがバスケットに詰めて持ってきてくれた。
それをアルと食べてまた課題に取り掛かった。
まだ光の玉は出ないが、だんだんと体の中を流れるなにかの存在に気づいた。
きっとこれが魔力だ。
それを、手のひらの上に集める感じ――。
だんだんとまとまっていったが、最後はバラバラになってしまった。
目を開けると、何もない。
はあ、とため息をついた。
「焦らないで、少しずつだよ。それにエリアはとっても上手だ」
「ありがとうございます」
アルがにこにこしながら励ましてくれた。
「敬語使わないで喋ってごらん」
「えっ」
「君の話を聞いてると、感情と魔力が密接に結びついているから、感情をコントロール出来るようになったほうがいいと思うんだ」
「感情のコントロールはしています」
「エリアの場合、コントロールしようとしてひたすら抑圧してるって感じかな。
ぎゅうぎゅうに押さえつけてるって言ったらわかる?」
確かにそういう感じでいつも自分に言い聞かせていた。
こくんと頷いた。
「だから少しずつ感情を出せるように、思ったこと、感じたことを言葉にして言うんだ」
「はい……」
アルに冗談ぽく睨まれた。
「うん」
「よろしい」
「ええと……質問。なんで手のひらの上でバラバラになっちゃうのかな」
「それは、丸くするときに流れが途切れてるからだね。
長い糸をくるくる丸めていく感じかな。
可視化出来る魔力を出すことを、糸に例えると、今はまだ糸を出すところと、丸めるところ両方がいっぺんに出来ないんだ。
何度もやっていたら、意識せずに糸を出せるようになってくよ」
「わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
アルはにっこりと笑った。
アルはいい先生だった。
毎回少しずつアドバイスをくれるし、とても話しやすかった。
敬語を使わずに喋るなんて無理だと思ったけど、アルのテンポに釣られて、たどたどしいけどなんとか出来るようになってしまった。
最初は賑やかすぎると思ったお喋りも、楽しく感じるようになっていった。
初めて受けた授業は、とても楽しいものだった。
「あ」
「どうしたの?」
「向こうの方にヴァルナード様の馬車が見えた」
「ああ、帰ってきたんだね。
会いに行く?」
「うん」
「じゃあ今日はおしまいにして戻ろっか」
4人と遠くの騎士さんたちはぞろぞろとお屋敷へ戻った。
「ヴァルナード様。おかえりなさい」
お屋敷でヴァルナード様の姿を見たら、今日の魔法の話をしたくてたまらなくなった。
「エリア
魔法の勉強はできたか?」
ヴァルナード様は落ち着いて答えた。
「もちろん、俺が教えてるんだから完璧だよね~」
わたしがはいと答えるより先に、アルが答えた。
「はい、アルのおかげでわたしの魔法が見えました」
わたしはいつもより少し興奮しながら言った。
「アル……?」
ヴァルナード様が眉間にしわを寄せて、わたしを見た。
「すみません。アルノー様のことです」
「それはわかるが、なぜ呼び捨てなんだ?」
「それは僕との仲だからだよね~」
「ええと……そう呼んでって言われたからです」
「エリアに変な呼び方をさせるな」
「え~別にいいでしょ、ヴァルだってヴァルって呼んでもらえばいいじゃん」
「……
考えておく」
ヴァルナード様がむすっとした顔をした。
「それより魔法が見えた、というのはどういうことだ」
「手のひらに丸い玉が出せたんです。1回だけですけど……。
アル、またサポートしてほしい」
「いいよ~」
最初の時のようにアルがサポートしてくれたので、また黄色の丸い玉を手のひらに出せた。
「ほう、上手いものだな」
「でしょでしょ~、しかもこの色って珍しいよね~」
「そうだな。私は魔法は詳しくないが、王宮騎士団の魔法隊では見たことがないな」
「エリアは天才かもね」
「……そんなことない」
「またまた~」
アルがふざけたので、思わず顔がゆるんで、へらっと笑ってしまった。
その時、ヴァルナード様がムスッとした顔をした。
今日はずっとアルといたから、すっかり気がゆるんでいた。
慌てて、顔を引き締めた。
そうしたら、アルがそれを見て爆笑したので、釣られて私もまた笑ってしまった。
ヴァルナード様はますます不機嫌そうになった。




