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第12話

 翌日、お屋敷は片づけと修復工事で大賑わいになった。

 騎士さんたちも常駐することになったので、とにかく人が多い。

 あちこちで、話し声、トンカチの音、割れたガラスを片づける音、とにかく音、音、音。

 音の洪水だった。


 ヴァルナード様から、ひとりで散歩をするなと言われたが、こんなに人が多くては散歩する気にもならない。

 しかもどこへ行くにも、騎士のハンスさんと、侍女のリナさんがついてきた。

 二人ともいい人だけど、わたしはひとりが好きだ。

 しかも静かな場所が好きだ。

 こんなにうるさくては、かなわない。


 ハンスさんは茶色の髪に茶色の目をした若い男性で、朝、ヴァルナード様から紹介された。

「本日から、護衛につきます。ハンスです」

「こいつは体力があるし、そこそこ腕もたつ」

「そこそこですか~?」

「まだまだ精進しろ」

 そう言われたハンスさんは嬉しそうに笑った。

 騎士さんたちを見ていると、ヴァルナード様のことをみんな好きなんだなって気がした。

 黒竜と恐れられている、というのはただのウワサなのかもと思った。


「夜に言った魔法教師だが、今日は取り急ぎ王宮魔法院の魔法使い、アルノーが来る。

 少しふざけた奴だが、腕は確かだ。軽口は無視しろ。しっかり教われよ」

 そう言って、わたしの頭をぽんぽんした。

 ハンスさんとリナさんが、「おっ」とか、「まあ」とか言って嬉しそうだった。


「では、行ってくる」

 ヴァルナード様はわたしや、リナさんたちに言った。

「い……いってらっしゃい」

 ハンスさんやリナさんたちの「いってらっしゃいませ」をまねして言ってみた。

 ヴァルナード様の目が見開かれた。

 わたしを驚いた顔で見ていた。

 わたしは恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。

「今日は、早く帰る」

 そう言い残して、マントを翻してブーツをカツカツと鳴らして出て行った。


 ヴァルナード様を見送った後、花壇に水をやりにいって、セバスチャンさんと話をした。

「いやぁ、えらいめにあいましたな。ご無事で本当に良かった」

 セバスチャンさんは「ほんに、よかったよかった」と何度もくり返した。

 ここの人たちは、わたしの魔法を見ても全然態度が変わらない。

 こんなことは初めてだった。


 その時、お屋敷の二階のほうからカンカンカンと木をたたく大きな音がした。

 見上げてみると、たぶんわたしの部屋の窓だ。

 わたしの魔力でガラスも窓枠も壊れてしまったので、取り外していた。

 わたしは思わず耳をふさいだ。

 大きな音は心がざわざわして苦手だ。

 それを見たセバスチャンさんが、

「温室へ行きなさるか」

 と言った。


 セバスチャンさんのうしろを、わたし、リナさん、ハンスさんはついて行った。

 庭の迷路のような生垣と、畑を通過して着いた温室は、まるで夢のような場所だった。

 金属で出来た大きな鳥かごに、ガラスが嵌められていた。

 その中にところせましと見たことのない植物や花が置いてあった。

 中は日差しがぽかぽかと心地よく入ってきて、とてもあたたかった。

 それに花や植物の甘い、いい匂いがした。

 どこかに小さな水路があるのか、水の音もして心地いい。

 こんなところがあることも知らなかった。

「ここは先代の奥様がお建てになったものでございます。

 奥様は体が弱かったもんで、よくここへ来なさったもんです。

 今は手入れする庭師しかおらん場所ですから、いつでも来なされ」

 そう言ってくれた。

 正直なところ、あの騒音の中で魔力を暴走させないように心を落ち着けている自信がなかったので、とても助かった。

 ここはお屋敷から離れているから、被害がなかったようだ。

 わたしは、この美しい場所を壊さなくて本当によかったと思った。

「土を触ると落ち着くなら、今度、ここで苺でも植えてみなさるか」

「苺……」

「果物だと食べられますからの」

 ふぉっふぉっとセバスチャンさんが笑った。

「奥様はここの果物でよくケーキを焼いておられましたな」

「わたし、お菓子、作れます」

「まあ、それならぜひ作りましょう!」

 リナさんが目をキラキラと輝かせた。


 温室の植物の説明を聞いたり、ほかにも植えられるものを相談していたらあっという間にお昼近くになってしまった。

『魔法使いの臨時教師、アルノー様』が午後一番に来るというので早めに昼食をとったほうがいいと話をしていたら、気の抜けた声がした。

「こんなところにいたんだ~~~」

 振り返ると、グレアムさんの後ろに金髪に青い目の、ローブに身を包んだ魔法使いがにこにこしながら立っていた。


「王宮魔法院所属の魔法使い、アルノー・デュボワ様でございます」

 グレアムさんが説明してくれた。

 この人がわたしの今日の教師だ。

「よろしくね~。アルって呼んで」

 人懐っこいってこういう人のことを言うんだろうと思った。

 わたしは会ったことがないタイプの人だった。

「アル様。よろしくお願いします」

「固いなあ。様付けはよしてよ」

「アルさん」

「ノンノン、アルで」

「アル」

「そう!俺もエリアって呼んでいいかな」

「はい」

 淡々と返事をした。

「うわ~ちっちゃいヴァルみたいでおもしろ~い」

 アルは何故か喜んでいた。

「しかも黒髪と銀髪で色が反対なのも面白いね~」

 アルは賑やかな人だ。

 さっきまで穏やかでほのぼのとしていた温室の空気が一変した。


「アルノー様、昼食は召し上がりましたか?」

「ううん、でも別に1食くらい抜いたって、どうってことないよ」

「エリア様がまだ召し上がっておりませんので、ご一緒にどうぞ」

「わたしも、食べなくても、大丈夫です」

「それはいけません。閣下から3食と間食を仰せつかっておりますので」

「過保護してるね~、最近ずっと早く帰ってるもんね。

 まあ~これだけかわいいとね」

 アルはそう言って、わたしを見て笑った。


 お屋敷に戻ると、職人さんたちもお昼休みみたいで静かだった。

 いつものお昼が運ばれてきたが、アルはずっとしゃべり続けてにぎやかだった。

「へぇ、苦労したんだね~」

「いえ……」

 わたしのこれまでのことをたくさん質問するので、ひとつひとつ丁寧に答えていった。

「アルベルトのところに引き取られたんだね」

「知ってるんですか?」

「うん。同じ魔法院の同僚だよ。あいつは俺よりもっと研究寄りだったけどね。

 俺はどちらかといえば実戦とか教育」

 そして、ちょっとまじめな顔になって言った。

「アルベルトと俺とヴァルナードは寄宿学校の同級生なんだ。

 まさか、研究の旅先で事故に遭うなんてね……」

「そうだったんですか……」

 うん、と言うと、すぐ明るい雰囲気に戻った。

「名前のアルがかぶってて紛らわしいでしょ?

 あいつも俺も、家が魔法使いなんだ。

 だから古代文字の『知』って意味のアルを付けたがるんだよね~」

 その後も、あれこれと学生時代の話を聞いた。

 まさかこんなところで、あの人とヴァルナード様の過去を知ることになるとは思わなかった。


「魔力が暴走したのはいつから?」

「わかりません……、むかしからずっとです」

「物心ついた時からってやつかぁ」

「はい、感情が高ぶると制御出来ないので、いつも平常心をこころがけていました」

「嫌な奴らを魔法でやっつけようとか思ったことなかったの?」

「それは……ありません。魔法が暴走してるときは、わたしも体が痛いというか、気持ち悪いっていうか、人を殺してしまうと困ると思ってました」

「ふ~ん。コントロールしようとしたことは?」

「やってみようとしたんですけど……いつも変なふうになって」

「変なふう?」

「木が折れてしまったり、井戸水があふれたり」

「なるほど……」

 そこまで聞くとアルは黙って考え始めた。


 そして、

「う~ん、これは僕に教えられるのかなぁ」

 とつぶやいた。



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