表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/20

第11話

 ギシッという床の音で目が覚めた。

 ぼんやりと目さました。

 体を起こしてあたりを見回そうとすると、目の前に知らない男が二人が立っていた。


 驚いた瞬間逃げようとしたが、一人はわたしの背後に素早くまわり、後から大きな腕に抱きすくめられた。知らない匂いがした。全身が凍りついた。

 身動きが取れない。

 叫ぼうと思ったが、口を布で塞がれた。

「んーー!んーー!」

 わたしはめいっぱい動く体と足をばたばたさせて抗った。

 すると、もう一人があっという間にわたしの手を後ろ手に縛り、両足を縛った。

「大人しくしていろよ」

 男がささやいた。

「よし、行くぞ」

 わたしは軽々と男に担がれた。


 心臓がバクバク言っている。

 男が一歩進むごとにわたしは不安定に揺れた。

 胸の奥で何かがこみ上げてきた。

 魔力が暴走する――!

 体中から何かが溢れる感覚がした。

 たちまち強風が吹き荒れ、窓ガラスが割れる大きな音がした。

 立派な石造りのお屋敷がミシミシいう音がする。

 部屋中の家具が暴れまわり、壁にぶつかった。

 大きな扉という扉が開く音、どこかで何かが割れる音。ガラスの砕ける音。


「くそっ」

 わたしを誘拐しようとしている男たちの声がした。

 わたしは体中が痛くて、胸は気持ち悪かった。

 自分の体じゃないような、バラバラになるような変な感覚だった。

 魔力を抑えないといけないと思うが、うまくいかなかった。

「おいっ早く行くぞ」

「これほどまでとは。すさまじいな」

「急ぐぞ」

「見ろ、目が金に光っている」

 男たちが強風の中でも冷静に話し合っていた。

 わたしの目は今、金色に光っているようだった。

 確かに目が熱い。

 わたしはとにかく、逃げなきゃいけないと思った。

 かつがれてる男の肩の上で、めいっぱい体をばたつかせて暴れた。

 男の力は強くて、びくともしない。


 そのときなぜかヴァルナ―ド様の顔が浮かんだ。

 ヴァルナード様に助けてほしいと思った。


「おい!その子を放せ!」

 本当に、ヴァルナード様が現れた。

 わたしは目を見開いた。

 助けてほしいと思った人が目の前にいる。

 漆黒の髪に漆黒の瞳、黒竜と言われる騎士が怒りを目に宿して立っていた。

 こんなことを思ってる場合ではないと思ったが、強風に巻き上げられる髪が、とても美しかった。


 ただヴァルナード様が現れただけなのに、わたしはもう大丈夫だと思ってしまった。

 体中の痛みと気持ち悪さが一気に引いた。

 と同時に、魔力が弱まった。

 ヴァルナード様の威圧感に男たちは怯んだ。

 だが、

「手荒なことはしたくないが、この子を傷つけたくなければ、大人しくしていろ」

 男のひとりがわたしの首にナイフを当てた。

 首に痛みが走った。赤い血が流れた。

 ナイフの先で少し、切れたらしい。

 ヴァルナード様!と言ったつもりだったが、口が塞がれてるのでモゴモゴとしか言えなかった。

「お前ら……その子を傷つけた代償は高いぞ」

 ヴァルナード様がギリッと歯を食いしばり、男たちへの圧力が一段と増した。

「エリア、大人しくしていろ。すぐ助けてやる」

「悪いが、下がってもらおうか」

 わたしの首にナイフを当てながら、男はヴァルナード様に言った。

「……」

 ヴァルナ―ド様は、男を睨みつけながら後ろへ下がった。


 男たちが逃げようと向きを変えた、その瞬間だった。

 ヴァルナード様の体が消えた。

 いや、消えたわけじゃない。ただ、目で追えないくらい速かった。

 次の瞬間、わたしを担いでいた男が吹っ飛んだ。

 わたしは空中に放り出された。

 ヴァルナード様の手がわたしを抱きとめた。

 ナイフを持っていたもう一人の男が叫んだ。

「なっ——」

「遅い」

 低い声で言うと、手を男の首筋目がけて素早く振り降ろした。

 一瞬だった。男が壁に叩きつけられて、動かなくなった。

 屋敷が静かになった。

 ヴァルナード様がわたしの口の布を外して、手足の縄を切った。

 そして首の血をぬぐった。

「遅れてすまなかった」

 声が、いつもと少し違って、一段と低かった。

 だけど、さっきまでの怖い目ではなく、困ったような優しいような泣きそうなような目になっていた。

「……大丈夫です」

「そうか」

 ヴァルナード様はわたしをぎゅっと抱きしめた。

 一瞬だけだった。すぐに離れた。


「あの……」

「なんだ」

「お部屋、壊してごめんなさい」

「気にするな。お前が無事ならいい」

 まだ心臓がどきどきしていた。


 ヴァルナード様が来てくれたことにほっとしていたが、見わたしてみると、部屋の中はめちゃくちゃだった。

 窓ガラスは割れているし、クローゼットやタンスやドレッサー、すべてひっくり返っていた。

 まだ使ってなかったベッドまで。

 魔力暴走を申し訳なく思った。

 せっかくあんなに綺麗な部屋だったのに。


 今までだったらここで化け物と言われるか、避けられるかどちらかだし、怒られないのも意外だった。

 ヴァルナード様は今まで通りだ。

「あの……ヴァルナ―ド様はわたしが怖くないんですか」

「怖くはないな」

「どうしてですか」

「どうして……」

 そこでふむ、と考えて、

「私も黒竜と呼ばれ、恐れられる存在だ。

 人は力を持つと畏怖の対象になる」

「……?」

「つまり絵本の竜と少年のようにわかりあえるということだ」

 ヴァルナード様に読んでもらった絵本の竜と少年のように……。


「わたしは出ていかなくていいんですか」

「お前を追い出したら、アルベルトが化けて出て、私を絞め殺すだろうな」

「すみません……」

「冗談だ。

 お前はいつまでもここにいろ。

 だが、その力の制御は覚える必要がありそうだな」

 わたしはヴァルナード様の上着の裾をぎゅっとつかんだ。

 ヴァルナード様はそれに気付くと、頭をぽんぽんとなでた。


「閣下!ご無事ですか!」

 グレアムさんやリナさんが慌てふためいた様子でやってきた。

 思わず、つかんでいた裾をぱっと離した。

「ああ。賊がエリアを誘拐していこうとしていたので倒した。

 殺してはいない。いろいろ聞かなければならないからな。

 すぐに王宮騎士団の詰所に、ここへ来るように伝令を送れ」

「閣下の王宮騎士団ですか?

 犯罪を取り締まる王国憲兵隊ではなく?」

「先に私の部下たちに現状を見せて、今回の件を調べさせたい。

 それから憲兵に渡せばいいだろう」 

「はっ。ただちに」

 グレアムさんは素早く出て行った。


 リナさんが泣きそうな顔で、わたしの前にしゃがんだ。

「エリア様~~!ご無事でなによりです!」

 見たことないくらい顔をくしゃくしゃにして、よかったよかったと何度も言ってくれた。

「すぐ手当いたしましょうね!」

 わたしの部屋は魔力暴走でめちゃくちゃになってしまったので、応接間に行くことになった。

 リナさんが首の手当てをしてくれた。

「今、客間の準備をしております。

 今夜はそちらでおやすみくださいね」

「わかりました。ありがとうございます」


 客間に移動したが、廊下からは、到着した騎士団の人達の足音や声が聞こえてきていた。

 2階以外もお屋敷中が揺れたせいで、たくさんの物が割れてしまった。

 その片づけにも、侍従さんたちが追われていた。

 そんないろいろが重なって、その夜は、朝までずっと賑やかだった。

 家中が起きている感じだった。

 わたしも体は疲れているのに、頭がはっきりしていて、全然眠れなかった。

 片づけを手伝おうと、部屋から出たら、部屋の前に立っていた騎士さんに止められてしまった。

 仕方ないので部屋に戻った。

 

 落ち着かなくて、ベッドから毛布を引っ張り出した。

 それにくるまって、暖炉の前に座ってじっとしていた。

 扉の外から声がした。

「ここか。寝ているのか」

「はっおそらく!静かになさっておいでです」

 ヴァルナード様と騎士さんの声がした。

 わたしの部屋をしばらく騎士さんが守ってくれるのだそうだ。

 部屋の前に騎士さんが立っていたのはそのためだ。

 ノックの音がして、ヴァルナード様が「入るぞ」と言って入ってきた。

 まだ夜中だというのに、王宮に出かけていくような騎士の服を着ていた。

 マントをなびかせる姿はかっこいいと思った。


「聞きたいことがある」

「はいっ」

 わたしは背筋を伸ばした。

「そんなにかしこまらなくていい。

 お前をさらおうとした男たちについてだ。

 なにか言われたか?」


「ええと……」

 記憶を思い出し、少ない言葉を全部伝えた。

「そうか。

 『これほどまでとは』と言ったんだな」

 ヴァルナード様はそれからしばらく考えていた。


「最初はただの身代金目的の誘拐かと思ったが――。

 お前の能力を知っていたとなると、話は変わってくるな」

 そしてまた考え込んだ。


「しばらくお前に護衛を付ける。

 必ず騎士と侍女と一緒に動け。

 一人で勝手に屋敷内を散歩しないように。

 それから――」


 お屋敷を散歩していることがバレてるとは思わなかった。

「魔法の教師を付ける。

 本当は勉強だの作法だのはもっと落ち着いてからにしようと思っていたが……。

 魔力を持っているのも知らなかったしな……」

 ヴァルナ―ド様は、わたしを見た。

「仕方ないな。

 まずは魔力の制御だ。頑張れよ」

 わたしの頭をまたぽんぽんとなでた。

「はい」


 わたしは、ここにいていいんだと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ