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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第一章 (8)身も蓋もない

「お金、財力ですね」


「あ……あぁ……うん、聞こえてたよ」



 聞き間違いかと思い、固まってしまった。

 

 財力……。私はこの国の王子なので、財力がないわけではない。ないわけではないが、自由になる金があるわけでもない。



 国王は私が幼い頃から



『民が納めた税金は我々王族が裕福に暮らすためにあるわけではない。民が健やかに暮らすためにあるのだ。私やお前、そして貴族たちは有意義な税の使い方を考え、国を平和で豊かにすることを使命としているのだ。己のために散財することも、蓄えすぎることもしてはならないぞ』



 と説いていた。


 国王は王妃には弱いが、聖君なのだ。


 私自身、一応私財と呼べるものもあるが、自分が稼いだとは言えない。

 これは「財力がある」ことになるのだろうか。


 それより何より、魔女が財力を求めるとは盲点だった。



「あとは知的な人ですね」



 意外にも、どんどん具体的な意見が上がる。



「頭が良いということ?」


「んー、そうですね。知識が豊富で、ちょっと面白いことを言えると素敵かなと思ったり」


「……例えば、誰か当てはまるような人間が? まさかロランとか!?」



 恐る恐る聞いてみる。



「ロランだなんて御冗談を。う〜ん、特にはいませんけど、どこかにいらっしゃいますかね」



 癒されに来たつもりが、なんだか傷がさらに深くなってしまった気分だ。


 話は魔女が最近読み始めた恋愛小説にまで及んでいる。先日の茶会で令嬢たちに勧められたそうだ。私の心配をよそに、ずいぶんと仲良くなったようで……。


 すると、コンコンとドアをノックする音が響いた。



「魔女様、オスカーです。失礼しても良いですか?」



 魔女がドアを開けに席を立つ。我が弟オスカーは、甘い笑顔で魔女に話し掛けながら入ってきた。



「以前、魔女様がお話していた花です。白い細長い花びらが美しいですね。ほら、この辺りが少し黄色に変化していて面白いですよ……あ、兄上いらしたんですね」



 絶対に途中から気付いていただろうに。昔は天使みたいに可愛かったが、最近はこのように生意気になってしまった。


 魔女は王室に仕える身だ。国王も王妃も定期的に体調を診てもらったり、お茶を飲みに来ている。


 なので、オスカーが会いに来ても問題はない。問題はないのだが……。



 十五歳になったばかりの第二王子のオスカーは絶賛成長期で、宰相曰く、世間では「恋愛小説の理想の王子様」と呼ばれているらしい。


 実際に、何冊かオスカーに似た王子が登場する小説があるんだとか。同じく宰相からの


『テオドール殿下は魔族を倒す勇者の話のモデルにされることが多く、特に男児とその母親たちに人気です。祭りで劇団がその芝居をすると大盛り上がりだそうですよ』


 という情報を思い出す。

 ありがとう、男児とその母親たち。


 オスカーは王妃に似た柔らかそうなブロンドの髪を揺らして近付いてくると、そっと鉢植えをテーブルに置き、まったく目が笑っていない笑顔をこちらに向けてきた。


 そして、トントンと自分の額を指差す。



「どうしたんですか?」


「別にたいしたことではない」


「そうですか」



 興味なさそうに返事をしたあと、オスカーは魔女に向き直りながら、プチッと花を一輪摘んで微笑んだ。



金銀花キンギンカは蜜も甘いそうですね。はい、どうぞ」



 そう言いながら魔女のヴェールの下から花を口元に運ぼうとした。



  「ちょっと待て」



 オスカーの手首を慌てて掴む。

 オスカーは露骨に嫌そうな顔をしているがお構いなしだ。びっくりさせるなよ。どこで覚えたんだ、そんな技。兄は許さんからな。

 

 私はオスカーから花を奪うと、自分で蜜を吸ってみた。ほんのりと甘い。



「金銀花はお薬にも化粧品にも使えるんですよ。 いつも乾燥させた花弁はなびらは買っていたのですが、産地が遠くて高級なんですよね。でも、とても万能な花なので王宮で育てられないかと思っていたんです」



 魔女は嬉しそうに話し、金銀花の鉢植えを覗き込んでいる。



「あまりに魔女様の話が興味深くて、自分でも調べていたら取り寄せたくなったんです。これは早く咲いてしまったようだけど、つぼみを付けている鉢もいくつか用意してありますよ」



 魔女は「ありがとうございます!」と言いながらオスカーを見上げる。


 すると、オスカーはもう一輪花を摘んで蜜を吸い、魔女に甘く微笑みながら言った。



「金銀花の花言葉は『友愛』『献身的な愛』


 そして……『愛の絆』です」



☆☆☆



 前日、弟である十五歳のオスカーに謎の敗北を喫した私は、怒りを原動力に仕事と課題を一気に終わらせようと執務室の机に向かっていた。


 すると、コンコンとせっかちなノックが響く。返事を待たずにロランが入ってきた。

 普段は綺麗に結ばれている肩下まで伸びた茶色の髪も、乱れたままだ。



「どうした、そんなに慌てて」


「読んでください」



 ずいと手紙を差し出してくる。見ると、アンヌからロランに宛てた手紙だった。



「読んでも良いのか?」


「はい」



 腕を組みながら、人差し指で腕をトントンと叩いている。

 イライラが尋常ではない。自分より怒っている人間を目の前にすると、こちらは冷静になるもんだな、と思う。


 一通り目を通してロランを見る。



「アンヌ、再婚するんだな」




―――――




【テオドール・ド・クレマン(テオ様)】


ラペデュール王国の第一王子。17歳。ダークブロンドに緑色の瞳。



【魔女】


ラペデュール王国に仕える魔女。黒髪に琥珀色の瞳。



【オスカー・ド・クレマン】


ラペデュール王国の第二王子。15歳。王妃に似たブロンドに青い瞳。



【ロラン】


テオドールの側近。髪は茶色く肩まで伸びている。


身も蓋もない【みもふたもない】……あまりに表現が露骨すぎたり、率直すぎたりして、情緒もへったくれもないという意味。

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