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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第一章 (7)見目より心?

「この軟膏が鼻の近くにあるのはちょっと――」



 言い終える前に、ペトっと額に貼り付けられた。魔女は私の頭をぽんぽんと撫でると「これでよし!」と満足げに笑っている。あぁ……もう。


 次に彼女は、保温ポットの湯をティーポットに注ぎ始めた。このポットは北の魔女からの贈り物だそうだ。


 湯の温度が一定に保たれる魔法がかけられているらしく、東の魔女特製の美肌水と美肌クリームの返礼だと言っていた。



「次はまさか、痛み止めの苦い薬を飲ませようとしているのか? そんなに痛くないから、薬はいらないぞ!」



 魔女はニコニコしながらティーポットとカップを運んでくる。用意されたのは、どうやら普通の紅茶のようだった。


 仕上げにたっぷりと蜂蜜が投入される。私の元気がないときに彼女が作ってくれる、特製の「激甘紅茶」だ。七歳の頃から変わらない。


 ……もう少し、味覚も大人になったというのに。



「何かあったんですか? 課題が大変なのですか?」


「それもそうだけど……婚約者を選ばなくてはならなくて。……その、少し悩んでいるだけだよ」



 まさか王妃を泣かせたとは言えず、悩みの一部だけを白状する。



「この前の茶会は、王妃が令嬢たちを私に紹介する場だったんだ。今日、王妃に『気に入った令嬢はいないのか』と聞かれて……」


「いらっしゃらなかったのですか?」


「気に入るも何も、貴族たちの力関係を考えたり、令嬢たちの親の顔ばかりが浮かんできて……。本人の能力もよく知らないのに、選びようがない」



 自分の結婚が重要であることはわかっている。


 父である国王が顔で王妃を選んだと言っても、そもそも王妃は公爵家の次女であり、公爵家を継ぐための教育を受けていた。

 能力が高かったからこそ、すんなり話がまとまったのだ。

 

 今回の茶会に、王妃は幅広い身分の貴族の令嬢を集めていた。

 ある程度の身分であれば文句はないのだろう。だいぶ譲歩してくれているとは思う。


 しかし、その中に私の望む人は含まれていない。


 自分でも無理なことはわかっている。わかっているけれど、何か方法がないかと考えてしまうのだ。


 相手の気持ちも、そして『いついなくなるかもわからない人』だということも。



「ならいっそ、見た目で選んでみてはいかがですか?」



 沈黙のあと、名案とばかりに魔女が言った。


 なんとなく、今一番言われたくないことをあっさりと告げられた気がして、私は唇を噛む。貴女がそれを言うか。



「どうしてそう思う?」


「世の男性は、やはり女性の見た目にまずは惹かれると聞きました。国王様も王妃様に一目惚れだったそうですし、騎士たちも『あの令嬢が可愛かった』とか『美人なメイドが入ったぞ』なんて言ってますから」


「……そういう男ばかりじゃない。私は違う」


「何も美醜の話ではありません。テオ様の『好み』で良いのです。あ! どんな見た目が好みですか?」



 言いながら魔女は紙とペンを用意し始めた。



「何も書き留めなくても……」


「考えがまとまらないときは、書き出すのが一番ですよ。では具体的にどうぞ。まずは体型から。あ、背丈もお願いします」


「え? 体型? 体型は……普通くらいで。細すぎず太すぎず、高すぎず低すぎず……がいい……たぶん」


「ふむ、中肉中背っと。次に髪色はいかがでしょう?」


「あー……えーと、落ち着いた色のほうが好ましい……かな」



 魔女のような真っ黒な髪はとても珍しいので、「黒」とは言えない。

 言いたいけれど言えない。


 すると魔女が「ほぅ、なるほど」と呟く。



「目の色や形、鼻の高さ、口の大きさなどはいかがでしょう?」


「え、どうだろう……目はちょっと猫っぽくて、蜂蜜のような色味で……」



 なぜか魔女は女性の絵を描き始めている。なかなか上手だ。……いやいや、何をしているんだ。急に恥ずかしくなってきた。


 慌ててやめさせようとしたが、魔女は不足した情報を勝手に補完して、サラサラと描き上げてしまった。


 そして「う〜ん……」と腕を組み、考え込んでいる。


 まずい。魔女を思い浮かべて話していたとバレたら、気持ち悪いと思われる……!



「言っておくけど、私は見た目にこだわりがあるわけじゃな――」


「当てはまりそうなご令嬢は、たくさんいらっしゃいましたよ?」


「……ま、まぁそうかな……」



 良かった、バレていない。無駄に焦ってしまった。「んんっ」と咳払いをして、ふと思いついたことを聞いてみる。



「魔女はやっぱり、顔の良い人間が好みなのか?」



 顔の良さなら、意外と自信がある。自分で言うのもなんだが、国王の凛々しい外見に王妃の甘さが少し加わった顔だ。


 私の姿絵は誕生日のたびに売り出されているが、毎年売れ行きが良いと宰相が言っていた。……彼が嘘を吐いていなければの話だが。


 体型だって身長も伸びたし、ロランにやられるのが嫌で鍛錬を積んだおかげで、筋肉だって相応に―――――




「お金ですね」




 私は、耳を疑った。




―――――




【テオドール・ド・クレマン(テオ様)】


ラペデュール王国の第一王子。17歳。ダークブロンドに緑色の瞳。



【魔女】


ラペデュール王国に仕える魔女。黒髪に琥珀色の瞳。

薬の調合が得意。


見目より心【みめよりこころ】……人の価値は、外見(見目)の美しさよりも、心の優しさや気立ての良さのほうが大切であるという意味。

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