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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第六章 (6)逢いたいが情、見たいが病

ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

ラストスパート祭り開催中。最終話まであと少しお付き合いくださいませ!

「おはよう。オーレリア」




 しっかり『不満』を顔に出しながらも、テオ様は私を迎えに来てくれた。




「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」




 テオ様と手を繋ぎながら『魔女の家』に向かう。


 最近は手を繋ぐのが当たり前になっているような……。

 良いのかな、これは。




「怒ってないよ。ちょっと額が痛いだけで」




 横目でチラリと私を見て、テオ様は言う。

 それを人は怒っていると言うのではなかろうか……。





 久し振りに『魔女の家』に入り、まずは換気と掃除に取りかかる。


 一度入ったというロランも、その性格から室内を荒らすはずはなく、中は以前のまま保たれていた。




 まずは薬品棚の引き出しを開ける。その中には無数の小瓶が保管されている。




「これは?」




「香料です。先代魔女様は香りにとても詳しくて、薬にも使われていました」




「ああ、聞いたことがある」




「私は香りにはあまり詳しくないのですが、先代魔女様が残された軟膏にあの香水に近い香料が使われていたような気がするんです」




「その軟膏は今でもあるのか?」




「さすがにそのままにしておくのは勿体ないので、使っちゃいました」




「まぁ……そうか」




「でも、レシピならあります」




 私は本棚から先代魔女様の軟膏のレシピを探す。

 そして、見つけ出したレシピをテーブルに並べる。




「……多くないか?」




 軟膏のレシピ集だけで三冊もある。

 そもそもあれが軟膏だったのか自分の記憶が怪しく思えてきた。




「で、では。香料を直接嗅いで探してみましょう!」




「この感じだと、香料もこれだけではないのでは?」




「そ、そうですね。先代魔女様は二十五年も王宮にいらっしゃいましたので……」




 テオ様が倉庫に向かう。

 二人で木箱の多さに圧倒される。




「あれ? こんなにたくさんあったかな?」




 私自身、記憶にないくらいだ。歴代の魔女様たちの残した物が大量に木箱にしまわれていた。



 テオ様は「仕方ない」と言いながら新しそうな木箱から一つ一つ開けていく。



 なるべく私の残した物は見ないで欲しい……。





 そこまでで、既に日は一番高くなっていた。




「休憩しましょうか……お茶を淹れます」




 私はテオ様の好きな蜂蜜紅茶を用意する。




「ありがとう」




 テオ様に笑顔が溢れる。

 これで昨日の頭突きは無しにならないかな。




「ねえ……オーレリア。私がなぜ蜂蜜が好きかわかる?」




「小さな頃から好きだったのは知っていますが、理由は……そういえば知りませんね」




「出会ってすぐの冬の日にこの家でリアが教えてくれたんだ。蜂蜜は風邪予防にいいと」




「ああ……そんなこともありました……っけ?」



 よく覚えていない様子の私を見て、テオ様は昔を懐かしむ表情で笑う。




「『蜂蜜は甘くて美味しいだけじゃない、悪いものをやっつけてくれて、しかも大事に保管すれば、永遠に美味しく食べられる。それにキラキラ綺麗でしょ?』って君は言ったんだ」




「ふふ、そんなこと言ったんですね」




「そのときに見た蜂蜜の色が、リアの瞳の色とそっくりで……。子供ながらに『なんて僕にピッタリの食べ物なんだ』って、本気で運命を感じてしまったんだ」




 テオ様はそこまで一気に言うと、恥ずかしそうに紅茶に視線を落とした。



 なんだか私まで顔が熱くなってきた。

 そんな理由があったなんて。




「そう……だったんですね……」




「だからかな。私は、今も昔もこうしてリアとお茶を飲む時間がこの上なく好きなんだ」




「あ、ありがとうございます」




 私の表情を見てテオ様は満足そうに笑う。




「さて、昼食を持ってこさせようか。食べたら続きをがんばろう」




 テオ様はそう言って立ち上がりながら、私の頭を撫でたのだった。





 ☆☆☆





 漸く見つけた先代魔女様の木箱にはやはりたくさんの香料が入っていた。


 一つ一つ小袋に入れられ、小瓶にはラベルが貼られている。




「知らない言語で書かれているんだな」




「これは東の国の言語のようです」




「リアも読めるんだろう?」




「そうですね……ここに来たら自然と読めました。魔塔主様の魔法のようです」




「魔塔主の……?」




 今は魔塔主の話は避けたほうが良いような気がする。




「それじゃあ、一つ一つ香りを確かめて行きましょうか」




 私たちは何個か香料を嗅いでは一度外に出て嗅覚を戻すという作業をしていた。


 長く香りに触れていると鼻が疲れてしまい、思ったより進みが悪い。




「今日はここまでにしましょう」




 窓の外を見るとすっかり日は沈んでいた。




「リア、明日からは昼の時間なら手伝えると思う」




「お忙しいんですから、無理なさらなくても大丈夫ですよ」




「いや、私が手伝いたいだけだから」




 何だか少し、元気がないように見える。




「テオ様、お疲れですか?」




 そっと彼の額に手を当ててみる。熱はないようだ。




「大丈夫だよ……さあ、部屋まで送るよ」





 ☆☆☆





 その後の三日間はテオ様はお昼時に一時間ほど手伝い、その後、執務に戻り、そしてまた夕方に迎えに来てくれた。




「テオ様、無理していませんか? 私を送ったあともお仕事されているんでしょう?」




 朝晩はだいぶ涼しくなってきて、今もひんやりとした空気がどこか切なさをもたらす。




「私がしたいからしているだけだよ。それに明日は午後からずっと手伝えそうだ」




「そう……ですか」




 そして翌日の午後、テオ様は言葉通り手伝いに来てくれた。



 先代魔女様の残した資料などと照らし合わせた結果、一つの植物の香料が一番近いと結論付けた。




「このバイカウツギの香料が一番近いと思うのですがどう思いますか?」



 テオ様は目を閉じながら、ヴァランドレ女公爵から借りてきたハンカチの瓶と、香料を垂らしてから少し経った布地の香りを比べる。



 長いまつげをぼんやり見つめてしまう。




「うん。似ているね」




「これがベースの香水だと思います。なので兄に連絡して、バイカウツギがベースの香水がないか探してもらいます」




 するとテオ様は「そうだ」と言いながらトランクをテーブルに置く。




「これは?」




「手紙を直接相手に届ける魔法道具だよ。もう一つをレスト家に置いてきたんだ」




「いつの間に」




 テオ様は得意げに笑う。




「リアが準備している間にディランに渡しておいたんだ。手紙を書いてトランクを閉じるだけでいい。この中に入るものなら何でも送れるよ」




 明らかに北の魔女イングリッドが作った魔法道具の気がする。




「これはどうしたんですか?」




「宰相がくれたんだ」




 宰相様とイングリッドも取引があるのかな……わからないことだらけだ。




「では兄に手紙を書きますね。テオ様は休んでいてください」




 手紙を書き終え、ふとソファに視線を送るとテオ様は眠ってしまっていた。


 私の手伝いをするために無理をしていたのだろうか、目の下にはうっすら隈がある。


 そっと頬に手を伸ばし親指で目の下を撫でる。



 すると段々テオ様の肩が震えてくる。




「ふふ、くすぐったいよ」




 私の手を掴み、眠たそうにテオ様が微笑む。




「起きてたんですね」




「ちゃんと寝てたのにリアが起こしたんでしょ? こういうときは目覚めのキスが相場だと思うんだけど」




 そう言いながら、私の後頭部に手を伸ばす。

 ま、まずい……もう頭突きはできそうにない。




 テオ様の顔が近づくと思わずギュッと目を瞑る。




 すると、プハッとテオ様が吹き出す。




「そんなに構えられたら何もできないな」




 恐る恐る目を開けると必死に笑いを堪えているテオ様がいた。




「か、からかったんですね!」




 テオ様は笑いながらゆっくりと上体を起こして、ソファに座り直した。




「ごめんごめん。リア、怒らないでここに座って」




 そう言いながら、ソファをトントンと叩く。




「失礼しちゃう」とプンプン怒りながらも素直に従ってしまう。




「リア」




 テオ様がいつになく真剣な声で呼びかける。




「どうしたんですか?」




「うん、実は暫くガルダ領に行くことになった」




「ガルダ領?」




 そこは南の隣国と接している領地だ。




「少し隣国と揉めていてね、仲介をしに行くんだ」




「え……戦争になってしまうんですか? 危ないんじゃないですか?」



「うーん……。向こうも本気で戦う気はないはずさ。ただ、国境付近の兵たちは気が立っているし、私の失言一つで衝突が始まるかもしれない。……両国が矛を収める『落としどころ』を見つけにいく、緊迫した話し合いになるかな」




「……やっぱり、危ないんじゃありませんか」




 私が眉を顰めると、テオ様は「おっと」という顔をして、あわてて優しく微笑んだ。




「大丈夫だよ。ロランや護衛も連れて行くし、私が無茶をしなければいいだけの話だよ」




 危なくない、とは絶対に言わないのだ。むしろ、私を安心させようと笑う瞳に苦しくなる。




「テオ様じゃないとダメですか?」




 テオ様は目を丸くして驚いた後、優しく微笑む。




「私でなくても良いけれど、私が王太子になるためには必要なことだと思っている」




 そうか、これは王太子になるために課せられた試験。




「……変なことを言ってごめんなさい」




 彼は首を横に振りながら困った顔をしている。




「父上……国王は、国を治める人間は血筋ではなく、実力であるべきだと考えているんだ」




「実力……ですか?」




「そう。能力がない人間が国を治めても民は幸せにはならないから。……だから国王は常に学ぶことを止めないし、同じことを私に求めているんだ」




「……それでいつも課題があったんですね」




「そうだね。今思えば、あれは父上なりの愛情なんだと思うよ」




 暫く沈黙が流れる。




 なんだろう。少し寂しい気持ちが胸の奥底からポコポコと生まれ、必死で打ち消している自分がいる。




「……どれくらいの期間ですか?」




「こればかりは私にもわからない。あっさり解決するかもしれないし、拗れる可能性もある」




「……」




 テオ様は私の髪をそっと耳にかける。

 私の表情はきっと険しい。




「リアはここで待っていてくれる?」




 美しいグリーンの瞳が揺れる。

 ああ……なぜ彼はこんなにも私を(こいねが)うのだろう。




「……お待ちしております」




 私の返事を聞くと、テオ様はホッとしたような表情をした。




「ありがとう」




 そう言って、テオ様は私の頬に口づけをした。

逢いたいが情、見たいが病【あいたいがじょう、みたいがやまい】……恋焦がれるあまり、相手に会いたい、一目見たいという気持ちが抑えられなくなる状態を表す。

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