第六章 (3)鉄は熱いうちに打て
オーレリア視点になります!
ラストスパート祭り開催中。深夜に投稿でごめんなさい!
――ヴァランドレ公爵邸 応接室
テオ様の浮気(妄想)も上手く行かず。
私は既に疲労感でいっぱいだった。
天才的な発想だと思っていたけれど、忘れていた私は凡人だった。
そして目の前で繰り広げられる攻防戦をぼんやりと眺める……。
「王子殿下。レスト男爵令嬢とご一緒とは存じ上げませんで、失礼いたしました」
――あらあら、王子殿下ともあろうお方が、令嬢に骨抜きにされていらっしゃるようでビックリね――
ヴァランドレ公爵様が扇で優雅に口元を隠しながら微笑む。
しかし、目の奥はまったく笑っていない。
「いや、私が勝手について来ただけだ、気にせず話をしてほしい」
――私を差し置いて、話を進められると思ったら大間違いだ――
テオ様は眉尻を下げて、申し訳なさそうにしているが、こちらもまたまったく感情が伴っていないのがわかる。
「王子殿下のお耳に入れるような大層なお話ではございませんわ」
――関係ないのに話を聞くとはどういうつもりなんですか?――
「構わない、二つの領地の関係を私も見守りたいからな」
――勝手ができると思うなよ――
彼らの本心はわたしにはわからないが、テオ様と公爵様との貴族特有の会話はいつまで続くのだろうか……。
お互いなんとなく含みがあるのは私でもわかる。怖い。
私と兄はヘラヘラと笑うことしかできず、いつの間にか部屋にいたロランも無表情のままテオ様の後ろに控えている。
そんな中、私はなぜか兄とテオ様に挟まれるようにソファに座ることになる。
しかも、だいぶ大きいソファだというのにテオ様はピッタリ横にくっついて離れない。
もう! ここは王宮じゃないんですよ!
火花が散る中、堪りかねた公爵の義理の息子アルヴィン様が口を開く。
「義母上、そろそろ本題に移ってはいかがですか?」
「そうね、わかったわ」
そう言いながら、公爵様はメイドに渡されたガラス瓶をテーブルに置く。
中には白いハンカチが入っている。
「こちらは?」
兄が代表して質問する。
「これは亡くなった夫のハンカチです」
ハンカチをなぜ瓶の中に入れているんだろう。
「レスト商会の力でこのハンカチに付いた香りと同じ香水を探して欲しいのです」
うちの商会を使わないとならないほど珍しい香水なのだろうか。
「なるほど……少し香りを嗅いでもよろしいですか?」
まずは兄が匂いを確認する。
「ベースは花の香りですね。……爽やかで甘い」
「私はこの香水が好きだったんだけど、夫はこの香水の名前も瓶の形も……何も教えてくれなかったの」
公爵様は切なげにハンカチを見つめる。
「何かヒントになるようなことはおっしゃっていなかったですか?」
「そうね……とても珍しい東の国の香水とは言っていたわ」
「ああ……だから我々に」
「ええ、東の国についてはレスト男爵率いるレスト商会に聞くのが一番早いかと思ったの」
「私もその香りを確かめてもいいか?」
興味深い様子でテオ様が彼女に問う。
「もちろんです。よかったらオーレリア嬢も」
テオ様が瓶に手を伸ばす。
キレイな形の鼻梁を横からぼんやりと眺める。
彼は頷くと、そっと私の鼻先まで瓶を持ってくる。
「どう? 何かわかるかな?」
テオ様が私の顔を覗き込むように見てくる。
オレンジのような、レモンのような‥‥‥でもジャスミンみたいな香りもほんのりと。
……ん? あれ?
何か思い出せそうな気がする。
思わず瓶を持つテオ様の手を包み込むように触れる。
「リア?」
絶対知っている香りの気がする。
いつ? どこで?
……えーと、えーと。
ぐるぐると考えを巡らせ、急に思い出す。
「あ! これ! まじょ……うぐっ」
急に背後から口を塞がれる。
ビックリして見上げるとロランだった。
「え? 魔女?」
公爵様とアルヴィン様はキョトンとしている。
ロランの手がスッと離れ、口をパクパクとさせてしまう。
「ま、ま、まあ! じょ……情緒のある香りですわ!」
「え、ええ……そうね」
公爵様が怪訝な顔でゆっくりと頷く。
危ない、大きな声で「魔女の家」って言おうとしてしまった。
「公爵様このハンカチ、お借りしてもよろしいですか?」
私の様子に気づいた兄が確認をとる。
「もちろんよ」
依頼内容もわかったので、そろそろ失礼しようかと思ったとき、アルヴィン様が徐ろに口を開く。
「オーレリア嬢、よろしければこの後、お話できませんか?」
その瞬間、私の隣からとんでもない殺気を感じる。
部屋の中が一気に冷え込んだ。
これはちょっと……まずい……かな
「あ、えーと……あの」
私はしがない男爵令嬢。こういう場合、どうしたらいいの?
断ったらきっとダメなのよね?
兄に視線を送っても、同じく殺気に気づいたようで、固まっている。
「ここでその申し出は余程自分に自信があるか、状況が読めないかのどちらかだな」
そう言いながら、テオ様が、長い足を組み変えて肘当てに頬杖をつく。
アルヴィン様はサラサラのブロンドヘアを揺らしながら首を傾げ、アイスブルーの挑戦的な目でテオ様を見つめる。
驚くことに怯える様子は微塵もない。
「自信があるのは否定しませんが、オーレリア嬢にはまだ婚約者がいないと伺っています。何か問題でも?」
私は背後のロランに視線を送る。しかし彼は何も言わずに真っ直ぐ前を見つめるだけ。
私のこと家族と思ってくれてるんでしょ?助けてよ!
「私は貴族になったばかりの人間ですので、礼儀作法も未熟ですし……一緒にいても楽しくないかと……」
危険回避の言い訳を精一杯考える。
「構いませんよ」
アルヴィン様は絵に描いたようにニッコリと微笑む。
テオ様は「はあ……」と呆れたように溜め息を吐きながら、上体をゆっくりと起こした。
美しいグリーンの瞳は鋭く光る。
「遠回しに断っても伝わらないみたいだからハッキリ言わせてもらうが――」
え?何を言う気?
「リアは私の婚約者だ。彼女に近づく者は誰であろうと容赦しない」
私と兄が目を見開いて思わずロランを見る。
ロランは私に目線だけこちらに寄越し、片眉を上げて言う。
「だ、そうですよ」
鉄は熱いうちに打て【てつはあついうちにうて】……物事は最も適した時期や、熱意があるうちに行わなければ成功しないという教え。




