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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第四章 (2)暖簾に腕押し

ここまでお読みいただきありがとうございます!

本日より毎日投稿がんばります!★評価、リアクションおねがいします♪執筆の励みになります!

 私は見慣れない部屋で目を覚ました。


 起き上がるにはもう少し時間が掛かりそうで、横になったまま部屋の様子を伺う。



 やたらと華美な天蓋がついたベッドに白や金色に輝く調度品の数々。


 派手なカーテンの隙間からは西日が差し込んでいた。


 少しだけ開けられた窓からは雨上がりの草木の青々とした香りが流れ込んでくる。




 あまりの豪華さに落ち着かず、キョロキョロしているとコンコンと優しいノックが響いた。



 上手く声が出せず、喉の奥で音が空回りする。パクパクと口を動かしていると、そっとドアが開き中年のメイドと目が合った。



 メイドは「まあまあ、お嬢様お目覚めでしたか」と微笑みながら近づいてくる。



 彼女は「喉が渇きましたよね」と水をコップに注ぐと「失礼しますわね」と言いながら、私の背中に腕を差し込みそっと起き上がらせてくれた。




「あの……ここは?」




 (ようや)く出るようになった声も少し(かす)れていた。




「ここは王宮が管理する別邸の寝室の一つでございます」




 ああ……私はあのまま倒れてここにいるんだと認識した。




「王子殿下はいらっしゃいますか?」




 メイドは白い布巾を絞る手を止めて、優しく微笑む。




「王子殿下はいらっしゃいますが、先程までだいぶ取り乱していらした様子だったので、お部屋にお戻りいただきましたわ」




 そう言いながらひんやり冷たい布巾を手渡してくれた。




「今頃、ロラン様に(なだ)められているかと……あ、違いますね、(たしな)められている。ですわ」




 そう言いながらメイドは「ふふふ」と笑った。




「お嬢様が眠りながら涙を流している姿を見て、感情が抑えられない御様子でしたの」




 そう言われてみると、目のあたりが重たい。




「少し冷やして、赤みが引いても重たい感じがするならば、温めてみましょうか」




 私が素直に頷くと、メイドは安心したようにうんうんと頷き返してくれた。





 メイドが退出し、しばらくするとまたノックが響いた。「はい」と小さく返事をするとゆっくりとドアが開いた。




 気まずそうに視線を泳がしながら「入ってもいいかな……」とテオ様は言う。



「どうぞ」と言うと、ベッドの横に用意されていた椅子に座る。




 しばらく沈黙が続いた。俯いたままのテオ様の髪は西日に照らされてダークブロンドから、美味しそうなミルクティーのような色に輝いていた。




「レスト男爵には一度帰ってもらった。だから今日は、ここに泊まっていくといい」




「……ありがとうございます」




「それに……文官たちのことは心配しなくていい。私が何とかする」




「……それは私が魔女だからですか?」




 テオ様がハッとして顔を上げる。




「……その聞き方はズルいな……」




 それはそうだ、隠していたのは私で、きっとテオ様はそれに合わせていただけなのだから。




「……申し訳ございません」




 テオ様はゆらりと立ち上がるとそのままベッドに腰掛け、私の左手を握った。




「その他人行儀の口調も、もう飽きた」




 拗ねた様子で繋がれている手を見つめながらテオ様は言った。




「テオ様、どこか調子が悪いところはありませんか?」




 テオ様はチラリと横目で私を見る。まだ拗ねた表情のままだ。




「体調なら、魔女がいなくなった日からずっと悪い」




 ハッとして右手をテオ様の左頬に添えてこちらに向ける。


 おとなしく、されるがままだったテオ様は(おもむろ)に口を開いた。




「……魔女、この状況だと口づけされても文句は言えないぞ」




 私はピタリと動きを止め、テオ様と視線が合う。


 その距離はこの部屋にある装飾過多な金銀細工の燭台一個分にも満たなかった。



 私はスーッと右手を離して「失礼いたしました」と俯いた。




「私の自制心に感謝するんだな。……ところで何でそんなに私の体調を気にするんだ?」



「それは……」




 私は正直に初代国王の残された手記と歴代の魔女の日記についてテオ様に話した。





 ☆☆☆





 すっかり日が沈み、ひんやりとした空気が部屋の中に流れる。


 テオ様は窓を閉め、灯りを点けてくれたあと、定位置かのようにベッドにいる私の隣に腰掛ける。





「それで、契約の魔法を使って私を助けたから何かが起こると思ったのか?」



「そうです……」




 あれ?これはまた理詰めにされる流れでは?と嫌な予感がする。




「ふーん……」




「ふーん」とは何だろう。テオ様は再び繋がれたままの手を見つめて考え込んでいる。



 しかもさっきから繋いだ手の親指で私の人差し指を撫でていて、くすぐったいのでやめてもらいたい。




「その話だと、私というより魔女に何か起きそうだけれど何ともないのか?」




 私はここ数ヶ月の自分の身に、変化があったか思い出す。




「いえ、まったく」



「そうか、それなら良かった」




 テオ様は久しぶりに私のほうを向き、甘く微笑む。




「あ、でも魔塔主様に『テオ様に惚れてはならない』と手紙で言われました」




「……」




 テオ様が固まる。




「あ、もう一度言いますね。魔塔主様に――」



「聞こえている」




 そう言いながら、テオ様は左手で私の口を塞ぐ。これは、すごく大事なことなのに。


 はぁ……と溜め息を吐きながら、今度は向かい合うように座り直す。

 繋いでいた手が離れて、私は意味もなく指を伸ばしたり曲げたり繰り返した。




「魔塔主というのは、あの三人の魔女たちとも当然関係があるんだろう?」




「魔女様たちはいろいろ知っている様子でしたが、詳しいことは教えてはくれませんでした」




「……魔女たちに会ったのか?」




「会ったというか、捕まったというか、捕まえたというか……」




 テオ様はチッと珍しく舌打ちをした。仲が悪いのは本当だったのだと驚いてしまう。




「要は私がテオ様に恋をしな――」




 そこまで言うとテオ様が人差し指を私の唇に当てる。




「言霊があるんだろ、絶対にその先は言わせないからな」




 目を細めてテオ様が睨む。

 私が困っていると、フッと笑って言った。




「魔女……いや、オーレリア、あなたは私の妻になるんだ」




 ビックリして妙な間があく。

 今、プロポーズされたような……




「……テオ様落ち着いてください。私は投獄されるかも知れないんですよ?」




 それに魔塔主の忠告を無視するつもりだろうか。




「私は落ち着いているし、その件は私が何とかすると言っただろう」




「私はテオ様より実は九歳も年上なんです」




「へぇ、それは知らなかったな。別に構わない」




「そもそも男爵令嬢が王子妃になるなんて、聞いたことがありません」




「例外は常にあるものだろう?」




「テオ様は他の令嬢たちと交流を持って、周りを見るべきです!相応しい女性がいるはずです!」




「王宮で十年間も過ごしていたオーレリアより相応しい人間がいるなら会いたいものだ」




 ダメだ。まったく聞く耳を持たない。




「わ、私に好きな人がいたらどうするんです?」




「……何?」




 テオ様が鋭い視線を送ってくる。




「私はテオ様より九歳も年上なんですから、恋の一つや二つしてても、ふ、不思議じゃないでしょう?」




 私は自分自身でも何を言っているんだろうと思いながらも、顎を上げてそっぽを向く。完全に子どものケンカだ。



 すると室内に呆れた声が響く。




「はぁ……何をやっているんですか、二人とも」


暖簾に腕押し【のれんにうでおし】……いくら働きかけたり意見を言ったりしても、手応えや反応がなく、張り合いがないことのたとえ。

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