第三章 (11)人は見かけによらぬもの
ここまで読んでいただきありがとうございます!
短編も投稿したのですが、こちらとはだいぶ違う作風なのでダークな感じが苦手な方は気をつけてください。
「テオ様は魔女様たちに何もしていないですよ……ね?」
「まあ……幼い頃はオーレリアに触れた程度なら睨むくらいで済んでたわね」
するとティティが話し出す。
「あー……そういえばあたし、三羽の小鳥の人形をリアちゃんにあげたでしょ? そしたら王子、黒猫と茶色い犬のぬいぐるみをプレゼントしてたのよね」
何年か前に、ティティが魔女様たち三人を模した可愛い小鳥の人形をプレゼントしてくれたことがあった。
とても可愛くて、今も魔女の家の出窓に並べて飾ってあるはず。
確かにそのあと、テオ様から黒猫とテオ様の髪色に似た垂れ耳の犬のぬいぐるみを貰った。
二匹ともとても可愛くて、王宮にいる間ずっと一緒にベッドで寝ていた。
「リアちゃん知ってた? あの犬は狩猟犬だよ、しかも鳥を狩る犬。私たちを狩る気だという宣戦布告だよ、あれは」
「狩猟犬というより、最早あれは狼よ。絶対にね」
「あー怖い」と言いながらティティとイングリッドが自分の体をさする。
沈黙が降りたあと、シビルがゆっくりと口を開いた。
「……私は半年くらい前に、オーレリアさんのタロット占いをしたときが一番怖かったです」
シビルが身をかがめて小声で囁くと、全員が自然と前のめりになってしまう。
「『現在と過去は物理的・精神的に固まってしまっているけれど、未来でその枠を飛び出して遠くへ行くことで大成功する』っていう結果になったとき、あの王子、どうしたと思います?」
あれ?その占いのとき、私はどうしてたっけ?
結果を見る前に、テオ様が急にお茶会に顔を出して、手間のかかる「魔女特製の蜂蜜グリーンティーが飲みたい」って言うから用意するために席を立ったような……?
「スリーカードの未来のカードはワンドの3だったのに『魔女が引いたのはこれだ』って言って『女帝』のカードと入れ替えさせられたんですよ!」
あのあと席に戻って、確か……そのままここにいれば、幸せで豊かに暮らせるってシビルは言っていたような……。
「え、嘘だったの!?」
「私は『そのような偽装した占い結果は、お伝えできません』って断ったのです」
唇をキュッと結んでシビルが俯く。
「シビルが断ったら、あの王子は『君たちは魔女のおともだちだから王宮に入れるんだったな』って言ったのよ」
イングリッドがうんざりして吐き捨てるように言った。
ティティが立ち上がり、ガバッと私に抱きつく。
「最初は魔塔主の命令で会いに行ったけど、二回目からは本当にリアちゃんに会いたくて行ったんだから! 信じて!」
「うん……それは大丈夫です……」
私は今まで知らなかった事実に唖然とした。
「あの、もしかしてなんですけれど、テオ様って昔から私のことになるとそんな感じだったんですかね……?」
「王子様は、私たちがすべて魔塔主の命令で動いていると思っているかもしれません。 だからこそ、私たちに目を光らせていたのでしょう」
そう言って、シビルは肩をすくめると、カップを手に取り、器用に紅茶を飲んだ。
初代国王の時代から続く魔塔への援助のことは、テオ様も知っているということだろうか。そんな素振りは見せていなかったけれど。
「とはいえ、オーレリアが自由になった今は、あの品行方正な王子様も、いつまで平常心を保てるかしらねぇ?」
イングリッドは面白がるように妖しい笑みを浮かべながら、そう言った。
☆☆☆
私は魔法道具の材料を探しに屋敷内に戻った。イングリッド曰く『紙とペン、製図用のコンパスと定規。あとは手紙が入るくらいの小さな箱と魔力が込められる宝石』があればいいそうだ。
製図用のコンパスと定規なんて家にあるのだろうかと心配だったが、メイドのマロウが「旦那様のお部屋にありますよ」と案内してくれたので、遠慮なく勝手に借りることにした。
宝石はアクセサリーに加工されているものがほとんどの中、とてつもなく貴重らしいが十年前からアクセサリーボックスにそのまま眠っているはずの『花入りの琥珀』を探し出した。
十年前、お父さんが誕生日にプレゼントしてくれたものだったが、漸く出番がやってきた。よかったよかった。
庭園に戻ると、イングリッドは手際よく紙に魔法陣を描いていく。ときおり「このペン描きやすいわね」と感動していた。
その間、暇になってしまったので、シビルに占いをしてもらった。今回は一枚で占うワンカード。
「あら、逆位置のソードの騎士」
「これはどんな意味がありますか?」
緊張して尋ねると、シビルがうんうんと頷きながら、カードを片付ける。え、片付けちゃうの?
「そうですね……うーん……焦らずにゆっくりですね」
今までかつてない歯切れの悪さに不安になる。
「ま、まさか……私、し、し、死ぬことに!?」
「あ、そういう感じではないです」
そうなんだよかった。びっくりした。
ほっと一安心していると、イングリッドが魔法道具の完成を告げる。
「できたわよ、あとは宝石に魔力を込めるだけ。はい、これは魔力が多いティティがやるのが一番ね。よろしく」
「えへ。まかせなさい」
そう言って、ティティは琥珀を両手に包むと目を閉じた。すると、オレンジの光が彼女の全身から溢れ出し、瞬く間に琥珀に吸い込まれた。
初めて見るティティの能力に感動して固まっていると、イングリッドとシビルが「そんなに感動してくれるなら」とそれぞれ、白い魔力と薄紫の魔力も込めてくれた。
☆☆☆
魔女様たちが帰ったあと、私は一人で机に向かっていた。
魔塔主に初代国王の魔法について教えてもらうにしても、何から書けば良いかわからない。
さんざん悩んだあげく「初代国王の魔法について教えてください」と書いて送りつけた。とりあえず宛名を書いて、蓋を閉めればいいそうだ。
宛名と言っても「魔塔主様」なんだけど。
翌朝、アクセサリーボックスが光っていることに気づいて慌てて蓋を開けた。
「どういうことよ」
私は手紙をぎゅっと握りしめた。
―――――
【オーレリア(リア)】
元・東の魔女。テオドールの変化に絶賛困惑中、平穏な生活を求めて奔走している。最近は魔塔主への手紙に頭を抱え中。
【イングリッド】
北の魔女。余裕のある態度と妖しい笑みが魅力的な、頼れるお姉様。テオドールの動向をどこか面白がっている節がある。魔法陣を描く手際は随一。
【シビル】
西の魔女。冷静で理知的、かつ丁寧な言葉遣いが特徴。タロット占いの腕は確かだが、テオドールの介入により結果が捻じ曲げられるという苦い過去を持つ。
【ティティ】
南の魔女。明るく親しみやすいフランクな性格。魔力が豊富で、度々イングリッドの魔法道具作りに付き合わされている。オーレリアのことが大好きで、行動力も抜群。
【テオ様】
オーレリアのことが大好きすぎる王子様。幼い頃からその執着は凄まじく、彼女の周囲に目を光らせている。
【魔塔主】
初代国王の魔法について知る唯一の手がかり。彼とのやり取りが、今後のオーレリアの運命を大きく左右することに……?
人は見かけによらぬもの【ひとはみかけによらぬもの】……人間の性格や能力というのは、表面だけでは判断することはできないということを意味する言葉。
短編はだいぶヒリヒリするので、苦手だったら遠慮なくブラウザバックしてくださいね!




