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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第三章 (9)飛んで火に入る夏の虫

ここまでお読みいただきありがとうございます!

 テオ様と距離を取ることを決めた翌日、朝食後に私は兄ディランに呼び出された。



「リュカとエリーズの補佐として働いて欲しい。二人は有能だけど、少し負担が大きすぎるんだ」


「補佐……? 何をすればいいの?」


「二人の代わりに資料を集めたり、商談のための新商品をわかりやすく取りまとめたり、お使いに行ったり……」


「要は雑用ね」


「まあ、そうなんだけど。せっかく商会で扱う商品にも詳しくなったわけだし、仕事もしたいんだろう? 孤児院の先生は今まで通り、週に二回しても大丈夫なように調整するから」


「そういうことなら」


「じゃあ、決まりだな。さっそく今日から本部に来てもらおうかな」




 ☆☆☆




 商会本部に着くと、さっそく皆の前で自己紹介をした。



「オーレリア・ド・レストです。レスト家の長女です……頑張ります!」



 今は貴族令嬢と言えども、元は平民なので皆には普通に接してもらいたいが、何せ自己紹介で語れることが少なすぎて抱負すらままならなかった。これは大人としてどうなのだろうか。


 商会本部には父と兄をはじめ、リュカとエリーズのような社員数名、書記や簿記係、見習い、倉庫番など二十人ほどが働いている。


 全員、私の事情(妖精に攫われていたという壮大な嘘)を思ってか、温かく頷きながら拍手をしてくれている。本当に胸が痛い。



「リア、まずは商会の中の説明からするわね」



 エリーズが詳しく商会の説明をしてくれることになり、二人で建物内を歩いた。



「リア、昨日何かあった?」



 エリーズが優しく問いかける。



「何か……と言うほどのことでもないんだけどね、もっと上手に出来たらよかったかなって」



 テオ様の揺れる緑の瞳を思い出す。



「あれだけ一生懸命勉強したんだもの、きっと王子殿下にも伝わっているわよ」


「そうかな、そうだといいな」



 窓の外を眺める。今日は朝から雨が降り続いていた。




 ☆☆☆




 翌日、今度はリュカと共によく行く商談先の場所を覚えるために市場を歩いて回った。



「時々お使いに行ってもらうこともあるけど、遠い店や重い荷物があるときはちゃんと馬車を使うんだぞ」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟じゃないよ。ここはレスト領といっても別の土地の人間もたくさんいるんだ。しかも、リアは黒髪でとても目立つ。誘拐でもされたらどうするんだ」



 王宮から戻った、たった数ヶ月で私は領民にその姿を認知されるようになってしまった。


 黒髪というのが一番の理由だと思うけれど、それ以上に『妖精に攫われていた』という話が私の存在を悪目立ちさせている気がする。


 うーむ……と考えながら歩いていると、ふいにリュカにぐっと肩を引き寄せられ、内側へと庇われた。



「考えごとをして歩くと危ないぞ」



 真横を馬車が通り過ぎる。


 見上げると思いのほかリュカの顔が近くにあって、ドキドキしてしまう。



「あ、ごめん!」



 リュカがパッと手を離し、照れくさそうにそっぽを向く。



「わ、私のほうこそ周りを見てなかったから」



 二人して気まずそうに歩いていると、前方から華やかな令嬢三人組が歩いてきた。

 人目を引く三人を見つめていると、遠目であるにも関わらず違和感を覚える。


 三人がこちらに気がつき、揃いも揃って(しまった!)という表情をした。

 そのあと、美しい笑顔で近づいてきて、そのまますれ違う瞬間「あの、ま――」と声をかけると



「やだー!こんなところにオーレリアがいたわ!」



 そう言いながら距離を詰められ、三人に囲まれた。


 なぜここにいるんですか?魔女様たち。




「あの……皆様はどうしてこちらに?」


「どうしてって、オーレリアに会いに来たのよ」



 北の魔女様が答える。

 いやいや、今「しまった!」って顔しましたよ?何なら知らん顔しようとしていましたよね?



「それに……何で名前を……?」


「やだ! リアちゃん、あたしの名前分かる? ティティだよ!で、こっちがイングリッドとシビル」



 南の魔女様がティティ。北の魔女様がイングリッド。西の魔女様がシビル……なるほど、初耳だわ。


 

「オーレリアさんはあの頃の記憶が曖昧なのかも知れませんね」



 西の魔女様ことシビルがそう言いながら、チラリとリュカを見る。


 あまりの迫力に固まっていたリュカが「あの頃……」と呟く。



「私たち十年前からの友人なんです」



 なぜか切なげにシビルが言うと、リュカがハッとした顔をする。



「まさか皆さんも妖精に……」



 シビルは俯いて唇を噛む。イングリッドは頬に片手を当て遠くを見る。ティティは腕を組んで溜め息を吐く。


 え?無言は肯定だと思われますよ?


 それにこれ以上、妖精の話題を広げないで欲しいのですが。


 リュカも眉間にシワを寄せちゃって、何だか(辛い思い出なのか……)みたいに受け取っていませんか?



「私たちはオーレリアのことを探していたのよ。また、あの頃のようにお茶会をしたいわね……って」



 イングリッドが色っぽい視線を向けながらリュカに一歩近づく。



「リアちゃんとまた趣味の話をしたいな……って」



 ティティがドレスから溢れんばかりの胸を両腕で寄せながらリュカに一歩近づく。



「オーレリアさんは私たちに会いたいって思っていらっしゃるかな……って」



 シビルが上目遣いをしながらリュカに一歩近づく。


 いや、ちょっと待って。私に向けて話してるんだよね?リュカに向かって何をしてるの。


 以前から三人の魔女様たちは、揃いも揃って顔と性格が良さそうな男性(ときには女性)をすぐに狩ろうとする。本当にやめて。



「皆様のお気持ちはよくわかりました!」



 たじたじになって動けないリュカと三人の魔女の間に割って入る。


 魔女たちは三人とも不満そうな顔をする。



「明日、我が家でお茶会をしましょう。いいですね?」




 ―――――






【オーレリア・ド・レスト(東の魔女)】


 ラペデュール王国に仕える元・東の魔女。妖精に攫われていた……という「壮大な嘘」に振り回される。この世界では珍しい黒髪が目立ち、領民からは(嘘のせいで)同情の目で見守られている。

 現在はリュカとエリーズの補佐(という名の雑用係)として奮闘中。

 三人の魔女のお姉様たちとは仲が良いが、幼馴染を守ることも忘れない。


【イングリッド(北の魔女)】


 クールで色っぽいお姉様風の魔女。現在はリュカに色っぽい視線を送りつつじわじわ接近中。


【ティティ(南の魔女)】


 華やかで抜群のプロポーションを誇る魔女。趣味の話を口実に、ドレスから溢れんばかりの胸を武器にしてリュカにハンターの眼差しで接近中。


【シビル(西の魔女)】


 清楚で知的な雰囲気の魔女。現在、哀れみの目を向けるリュカに絶賛上目遣いで接近中。


【リュカ・ルフェーブル】


 リアの黒髪や過去の(嘘の)事件を心配しすぎるあまり、過保護モード全開中のリアの幼馴染の青年。突然現れた美貌の魔女3人に囲まれ、その色気にたじたじになっている。


【エリーズ・プティ】


 小柄で真面目な性格の女性。オーレリアの幼馴染。訳あって実家のある街に戻り、現在はレスト商会で働いている。配慮ができて、とても優しい。


飛んで火に入る夏の虫【とんでひにいるなつのむし】……自ら進んで危険や災難に飛び込んでいく愚かな行為の例え。

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