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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第一章 (2)生みの親より育ての親

 私の勉強が進んでいないのは、決して勉強が苦手だからではない。怠け者だとか、未来の王になるのが嫌だとか、そういった理由でもない。


 私を憂鬱な気持ちにさせるのは、優雅な所作でお茶をたしなむ目の前の女性――王妃に言われた、唐突すぎる一言だった。



「そろそろ、あなたも婚約者を決めなさい」



☆☆☆



 私の母であるソフィー王妃は十六歳で王室に嫁ぎ、十七歳で私を産んだ。


 この国の王室には、赤ん坊を優秀な家臣の家に預ける慣習がある。


 預けられた先の妻が乳母として三歳頃まで育て、順調に育てば王宮に戻され、各分野の家庭教師による教育が始まるという流れだ。


 当時、私は上流貴族ではなかったが優秀だったミュラ子爵に預けられ、その妻であるアンヌに育てられた。


 私自身は健やかに育ったが、残念なことにミュラ子爵は私が三歳になる直前、不慮の事故で亡くなってしまった。


 すると、ミュラ家で後継者問題が浮上した。

 この国では女性でも爵位を継ぐことができるし、子爵夫妻には六歳になったばかりの息子、ロランもいた。


 アンヌは、ロランが成人するまで自分が爵位を継いで頑張るべきかと深く悩んだ。


 伯爵家の令嬢であったアンヌには、ロランと共に実家に戻る選択肢もあったが、実家とは折り合いが悪かった。


 実質、爵位を継ぐか、ロランと共に家を出て平民になるかの二択を迫られていたのだ。


 さらに、ミュラ子爵の弟がアンヌたちを支えたいと申し出てくれたが、彼は結婚したばかりだった。


 その申し出が純粋な厚意であっても、新妻に余計な心配をかけたくないという思いも、アンヌを悩ませる要因となった。


 決断を迫られていたある日、王宮から迎えの馬車がやってきた。ミュラ家の窮状を知った国王が、予定よりも早めに私を呼び戻したのだ。

 

 馬車に乗り込んだ直後、アンヌもロランもついてこないと気づいた私は、別れを察知して火が付いたように泣き喚いた。


 呼吸もままならないほどの激しさに、王宮の使者も困り果て、結局アンヌとロランにも同行を願うことになった。


 ……王宮までの長い道中も、私は情緒不安定なままで二人から離れようとしなかった。


 目を腫らし、アンヌたちにしがみついて離さない私の様子を見た国王は、そのままアンヌに王宮へ住み込み、私の乳母兼教育係を務めるよう命じた。


 結果、子爵位は弟が継ぐことになった。


 そんな恥ずかしい過去はともかく、身の回りが落ち着いた頃、私は三歳を過ぎてようやく王妃と「再会」した。


 ほぼ初対面の彼女に対する第一印象は「お人形みたいだな」というものだった。

 

 緩く波打つブロンドの髪に、青い瞳。私自身のダークブロンドの髪と緑色の瞳には、共通点がひとつも見つけられなかった。


 王宮に戻ったからといって王妃に育てられるわけでもなく『一週間に一度、王妃の部屋でお茶をする』という程度に落ち着いた。


 そんなある日、いつものようにお茶会に向かうと、見知らぬ赤ん坊が王妃に抱かれていた。


 すでに首もすわり、王妃に甘えるように抱きついている赤ん坊は、私をじっと見つめた。



「テオドール、弟のオスカーですよ」



 金髪に青い瞳。確かに王妃にそっくりな赤ん坊だったが、自分の弟と言われても全くピンとこなかった。


 王妃は、弟と呼ばれた存在を抱きながら優しく微笑んでいる。赤ん坊は王妃と目が合うと、ニコニコと笑った。


 私は、なんだか嫌な気分になった。モヤモヤした気持ちが渦を巻き、ぎゅっと目を閉じたくなった。


 そして私は、何を思ったか浮かんだ疑問をそのまま王妃にぶつけてしまった。



「本当に、僕のお母様ですか?」



 その場にいた全員を凍らせた一言だった。


 今となっては、私は完全に王である父親似であり、垂れ目気味なところがほんのり王妃の面影を感じさせる程度だと理解している。

 

 抱かれることはおろか、微笑みかけられることすらなかった三歳の私が、彼女を『母』だと認識できなくても無理はなかったと今でも思う。

 

 実際、アンヌは明るい茶色の髪をしていたので、彼女こそが本当の母親ではないかと期待していた時期もあった。


 何より、アンヌからは確かな愛情を肌で感じていたのだ。


 私が放った一言の後、アンヌは顔を真っ青にして王妃に謝罪をしていた。


 私はとんでもないことを言ってしまったと気づき、涙がこぼれた。


 その日の夜、アンヌは困ったような、それでいて優しい微笑みを浮かべ、私を寝かしつけながら言った。



「王妃様は、テオドール様を心から愛していらっしゃるのですよ」




☆☆☆



 それが本当か嘘かは、十七歳になった今もわからないままだ。

 

 結婚を急かすのは、母としての愛ゆえなのか、それとも。

 王妃は優雅に紅茶のカップを置き、釘を刺すように言った。



「名前もわからない女性はやめておきなさい」



 なるほど。

 母はすべてお見通し、というわけか。





―――――




【テオドール・ド・クレマン】


ラペデュール王国の第一王子。17歳。ダークブロンドの髪に緑色の瞳。



【ソフィー・ド・クレマン(王妃)】


ラペデュール王国の王妃。ブロンドに青い瞳。

生みの親より育ての親【うみのおやよりそだてのおや】……生んでくれた親よりも、実際に手塩にかけて育ててくれた親のほうに、より深い愛情や恩義を感じるものという意味。

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