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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第三章 (7)待てば海路の日和あり

テオドール視点となります!

6日間限定毎日投稿最終日です!

 オーレリアと市場を歩く。美味しそうな肉の焼ける匂いや、砂糖を溶かした甘い香りが漂う。客を呼び込む声があちこちから聞こえてくる。



「活気があっていいな」


「はい。地元の人ばかりでなく、近隣の領地からも多くの人がやってきますからね」



 そう言うと、オーレリアは嬉しそうに笑う。


 食料品が売られているエリアを抜けると、革製品や食器、衣類などの工房が営む店舗が並んでいる。


 さらに進むと、輸入品を扱う店が軒を連ねていた。


 私たちはその中の文房具やペーパーアイテムを扱う店に入った。



「この青い封筒は美しいな」


「はい。そちらは発酵させた藍という植物の葉に灰汁やお湯を加えて自然発酵させて、紙の染料にしているんです」


「なるほど、紙を染めているのか」


「紙も私たちが普段使っている物とは違って、こうぞという植物を材料に作られています。繊維が長くて非常に丈夫で、保存性に優れているんですよ」


「興味深いな」


「藍には虫を寄せつけない効果もあって、布などにも使われます。そこから転じて『邪悪なものを寄せ付けない魔除けの力』として信頼されているそうですよ」


「魔除けか……」



 アンヌは最初の結婚で夫を事故で亡くしている。今度こそは、二人が末永く一緒に過ごせるようにと願う。



「これをもらおうか」



 オーレリアも「きれいな青ですよね」とうっとりしている。



「君の分も買おう」


「え! そんな私は案内係なので気にしないでください」



 両手を振って必死に遠慮している姿すら愛おしい。



「これと同じものをワンセット、別で用意してくれ」



 そう言うと、店主は手を揉みながらこちらに近づいてきた。





 ☆☆☆





 昼になり、屋台にあった鶏の串焼きを食べることにした。



「こちらのソースには東の国の調味料と砂糖が使われてまして、とても香ばしくて美味しいんです」



 レスト家の夕食会で食べた子羊のジンジャーソースがけを思い出す。あの感じだろうか?


 一口食べてみると、甘じょっぱいソースが口の中に広がる。



「これは美味いな」


「そうでしょう。テオ様は好きかなって……」


「テオ様……」



 沈黙が流れる。



「し……失礼しました! あの……本当に申し訳ありません!!」



 青い顔をして、オーレリアが謝る。



「いや、構わない。テオと呼んでくれ」


「いえいえいえいえ、さすがにそれは」


「その代わり、私も『リア』と呼んで構わないか?」


「それは全然構わないのですが……」



 オーレリアは俯いてしまった。致命的なミスに焦っているのだろう。



「じゃあ、もう一度呼んでみて?」



「テオ様」



 普通なら王族を愛称で呼ぶなんて、もう少し抵抗するはずなのに。言い訳を考えることに夢中であっさり呼んでくれる様子に思わず笑いそうになる。



「よくできました」



 そう言って頭を撫でると、オーレリアは顔を上げた。表情は眉根をギュッと寄せて不満そうだ。私に子ども扱いされるとは思っていなかったのだろう。


 私はからかいついでに「さぁ、リア、次の店へ行こう」と手を繋いだ。


 ぎゅっと握り返された小さな手の熱に、私の心臓が小さく跳ねる。

 驚いて転びそうになったオーレリアを、勢いで抱きしめてしまおうかと思ったが、そのまま逃げられては堪らない。今は我慢しよう。



 彼女は私の大好きな琥珀色の瞳をキラキラと輝かせながら笑った。





 ☆☆☆





 次に宝石店に向かった。


 アンヌの結婚指輪は当然エドモンが用意するので、何か珍しい宝石のアクセサリーが無いかと探す。



「この珊瑚のブローチは赤の中に白い『フ』というものが入っているのが特徴です。ちょっと珍しいんですよ」



 気を取り直した様子で、オーレリアが得意気に説明している。そこで気になったことを質問してみる。



「リアは青が好きなのかな? 今日は青で統一してるけれど」


「え? 青ですか? 青は――」


「いらっしゃいませ」



 店員の声が響く。



「あ、リア」



 振り返ると、見知らぬ男が立っていた。

 アッシュゴールドの髪に、褐色の肌、そして青い瞳。



「あ、リュカ。どうしたの?」


「ちょっと店主と商談に」


「そうなんだ。あ! テオ様、彼はレスト商会で働いていて、私の友人です」



 オーレリアがニコニコと男を紹介してくる。



「はじめまして、リュカ・ルフェーブルと申します」


「ああ、よろしく」



 リュカという男の瞳をじっと見つめてから、横にいるオーレリアの髪留めを見る。


 あまりに似た色で、どす黒い気持ちが体中を巡る。



「あ、じゃあ、俺はこれで」



 沈黙に耐えられなかったのか、彼は店の奥の方へ入って行った。


 リアが少し名残惜しそうに背中を見つめる。



「彼とは親しいのか?」


「ええ、子どもの頃からの友人です。とは言っても、彼はあらゆる国に飛び回っているので、なかなか会えないですが」



 残念そうにしている彼女から視線を外し、再び宝石を眺める。



「で、青なんですけど」



 その唇から紡がれる「青」という言葉ごと、すべてを塗りつぶしてしまいたくなる。


 オーレリアに青なんて似合わない。彼女の身に付けるものすべてを私の色に変えたくなる衝動に駆られる。


 ――はやく私の色に。


 逃がさないように、彼女の手を取り握りしめる。



「緑色の魔除けの宝石の髪留めを用意してくれ」



 そう店員に告げると、彼らは慌てたように店内を探し出した。





―――――





【オーレリア・ド・レスト(リア)】

元・東の魔女。実際は26歳だが見た目は16歳のまま。

テオドールを「テオ様」と呼び間違えた結果、どさくさに紛れて「テオ」呼びと「リア」呼びを定着させられてしまう。



【テオドール・ド・クレマン(テオ様)】

ラペデュール王国の第一王子。

爽やかな王子の仮面の下で、どす黒い独占欲を燃やし始めた17歳。



【リュカ・ルフェーブル】

アッシュゴールドの髪に褐色の肌、そしてテオドールが敵視する「青い瞳」を持つ青年。

オーレリアの幼馴染で、レスト商会の有能なスタッフ。仕事で宝石店を訪れただけなのに、初対面の王子から無言の圧(殺気)をぶつけられた。


待てば海路の日和あり【まてばかいろのひよりあり】……今は状況が悪くても、焦らずにじっと待っていれば、そのうち必ず良いチャンスが巡ってくる


本日で毎日投稿は一旦お休みで、月木の週2投稿に戻ります!次回は6月11日の21時です。是非お読みください!

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