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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第三章 (5)付け焼刃は剝げやすい

今回もお読みいただきありがとうございます!

6日間限定毎日投稿4日目です!

 レスト商会本部三階・大会議室



 お腹が空き始めた昼食前、私は二十人掛けのテーブルにポツンと一人で座らされていた。ちなみにど真ん中だ。


 目の前には男女が二人立っている。テーブルの上には大量の資料。……ここから逃げられる気がしない。




 ☆☆☆




 夕食会の翌日の朝食時、一通の手紙が父に届いた。



『三日後にオーレリア嬢に市場の案内を願いたい。都合はつくだろうか?』



 昨日の今日だというのに、とんでもない早さだ。差出人はもちろんテオ様。


「都合がつくか」と問われてはいるが、相手は王族。「その日はちょっと……」などという拒否権などはなく、私の任務は三日後へと決まった。




 兄ディランが困ったように呟く。



「二日半でリアの空白の十年を埋めなきゃならないわけか……」


「そうだな。どこから教えるべきか」



 父と兄が唸りながら考え込んでいる。


 私がいなかった十年の間に、レスト商会は多岐にわたって事業を拡大していた。


 当初は『蝶よ花よと育てられていたので、商売の知識はまったくないオーレリア嬢』のていで押し通すことも考えたけれど、揃いも揃って勤勉なレスト家の中で私だけ知識がないのはさすがに無理がある、と誰よりも我が家を知っている家令が申し訳なさそうに進言して却下になった。



「少なくともここ数年の領内の情勢は把握しておきたいな。詰め込むしかないけれど、誰に任せようか」


「あら、私が先生になるわ」



 候補を巡らせる兄に、義姉のクロエが答えた。今日も朝から美しい。



「クロエさん、ありがとう」



 クロエの美貌にデレデレしながら返事をする私に、兄の冷たい声が響く。



「クロエはダメだ。実際に市場を歩き回るんだぞ、危険すぎる」


「え!」


「リアちゃんに勉強を教えるくらい、大丈夫よ?」


「いつ赤ん坊が産まれるかもわからない時期なんだ。体に負担がかかることは許可できない」


「お兄ちゃんの意地悪。テオ様に私が魔女ってバレてもいいの?」


「意地悪を言っているわけじゃない。リアの話は『呪われるかもしれない』っていう仮定の話だろ。クロエの出産は間近に控えた決定事項だ、危険の重みが全然違う」



 またもや理詰めにされ、私が露骨にむくれると、兄が「そんな顔をしてもダメだ」と呆れた。



「それなら、リアの教育係はエリーズとリュカの二人がいいんじゃないかしら?」



 母が名案だというように言った。



「エリーズとリュカ?……私の友達だった子?」


「あの二人は今、僕の部下として働いてくれているんだ」


「パパには『ぶか』がいるんだね、すごい!」


「そうだよ、ララ。カッコいいパパと結婚したくなっちゃうだろう?」



 と娘にメロメロな兄が得意気に言うと、



「ん〜、ララはお隣のユーゴくんと結婚するからゴメンね」


「!!」



 娘の突然の告白に衝撃を受ける兄を見て、私の溜飲も少しだけ下がったのだった。





 ☆☆☆





「それではリア、授業を始めます」



 真面目な表情で眼鏡を人差し指でクイッと上げ、エリーズ・プティが告げた。


 彼女は四年前までレスト商会で働いていたが、結婚を機に退職。領外れの町で夫と姑と暮らしていた。


 だが、なかなか子宝に恵まれなかったことで次第に夫婦仲は険悪になり、姑の嫌味や嫌がらせも増えていった。


 それでも耐えていたある日、夫の浮気相手の妊娠が発覚して離縁し、一年前にこの街へ戻ってきたのだという。



 再会早々の自己紹介にしては重すぎる内容に私は上手い反応ができなかった。


 とりあえず、見たこともない彼女の元夫に『今日から毎日一回、どこかにすねをぶつける』呪いをかけておいた。

 元・魔女なんだからそれくらいできるはずだと、強く念じながら。



「リア、そんなに肩肘張るなよ」



 笑いかけてくるリュカ・ルフェーブルは私が魔女になった直後からレスト商会で働いている。


 この十年間、商談や技術習得のために諸国を飛び回ってきた、いわば兄の右腕のような存在だ。久しぶりに帰国して二週間程だという。



 アッシュゴールドの髪は最近短く切ったばかりらしく「短くしすぎた」と照れくさそうに笑っていたが、陽に焼けた褐色の肌にはよく似合っていた。



 ……実を言うと、私の初恋の相手である。



 ちなみに、多忙すぎて結婚は『まだ』らしい。




 私たち三人は、テオ様が求めている情報を精査した。


 今回の目的は、アンヌの結婚祝いの品を見つけること。その他に結婚式で使用する物などもプレゼントしたいとのことだった。


 ドレスの生地・招待状用の紙・食器・酒・花・食材……


 そこで我々は、ある絶望的な事実に気づいてしまった。



 ……勉強内容、絞りきれないんじゃ……?





 夕食もそこそこに、夜遅くまで猛勉強は続いた。


 商館の宿泊施設に泊まることになった私とエリーズに隣の寮に住むリュカは「また明日」と手を振って帰っていった。



 二日目と三日目は、午前中に市場を歩き回り、午後は深夜まで座学。


 結果、三日目の帰りの馬車の中で、糸が切れたように深い眠りへと落ちてしまったのだった。





―――――





【オーレリア・ド・レスト(東の魔女)】


ラペデュール王国に仕える魔女だった。実際は26歳だが見た目は16歳のまま。10年ぶりに実家に帰ってきたら、いつの間にか男爵令嬢になっていた。



【エリーズ・プティ】


小柄で真面目な性格の女性。オーレリアの幼馴染。訳あって実家のある街に戻り、現在はレスト商会で働いている。



【リュカ・ルフェーブル】


アッシュゴールドの髪に褐色の肌をもつ青年。オーレリアの幼馴染であり、実は彼女の初恋の相手。





付け焼刃は剝げやすい【つけやきばははげやすい】……その場しのぎで身につけた知識や技術は、すぐにメッキが剥がれぼろが出ることのたとえ。

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