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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第三章 (3)果報は寝て待て

今回もお読みいただきありがとうございます!

6日間限定毎日投稿2日目です!

 別邸に戻り、ロランと共に執務室に入ると、宰相から渡された小さめのトランクがチカチカと光っていることに気づいた。


 ロランが警戒心もなくトランクを開けると、その中にはたくさんの書類が詰まっていた。着いたときは空だったはずなのに。



「……その魔法道具、どこかに捨ててこないか?」


「これを捨てたところで、宰相は別の手段を取るだけです。諦めましょう」



 それもそうだなと思い、迷惑極まりない魔道具を作った人間に恨み言を言いたくなる。


 ふと、この魔法道具を作ったであろう人物を思い出した。「私は自分の才能が怖いのよ、東の魔女」と言い放っていた、あの北の魔女だ。


 魔女は拍手をしながら「北の魔女様は魔法道具作りの天才ですね」と素直に絶賛していた。


 すると北の魔女は「東の魔女は可愛いわね」と言いながら、彼女の頬をヴェール越しにすっと撫でたのだ。


 苛ついた私が睨みつけると、北の魔女はプッと吹き出し「狭量な男は嫌われるわよ」といつまでも笑っていた。



 いつ思い出しても腹立たしい。彼女が魔女の友人でなければ、絶対に王宮に入れなかっただろう。




「私を苛つかせる天才の間違いじゃないのか」


「え? どうしました?」


「なんでもない。ところで中身は何だった?」


「ほとんどが確認していただきたい書類ですね。あとは……課題です」


「え! 課題!? 誰からだ!」


「国王陛下のようです」



 私は机に突っ伏した。



「それで、何についてまとめれば良いんだ」


「近況についてまとめるように、としか書いてありませんね。心配で仕方ないんですよ。あ、もう一枚入っていますね。どうぞ」



 渡された紙には「この前は申し訳ありませんでした」と走り書きされていた。


 私は美しくて生意気な弟を思い出す。本当に可愛くない。




 ☆☆☆




 寝支度を整えていると、ロランがお茶の用意をして入ってきた。



「ラフマ茶です。召し上がってから、お休みください」


「……あぁ、わかった」


「それでは失礼いたします」


「ロラン」


「なんでしょう」


「その……ありがとう……」



 ロランは一瞬動きを止め、視線を斜め上の方へ彷徨わせたあと、呆れたように言った。



「今まで感謝されなかったのが不思議なくらいです」



 いつも通り片眉を上げながら、意地悪そうに笑った。



「うるさい。もう下がれ」


「おやすみなさいませ」



 ロランが出て行ったあと、私はラフマ茶をゆっくり飲んだ。薄い紅茶のような味で飲みやすい。


 カップの中でゆらゆらと揺れる水面に、昼間、不安げに私を見つめていたオーレリアの瞳を思い出した。


 心配をかけたくない自分と、心配されていることに喜びを感じている自分がいた。


 いや、違う。そんな綺麗な感情ではなかった。


 あのとき私は確かに、琥珀色の瞳に再び自分が映っていることに、心が震えていたのだ。



「再会したところで、重症なのは変わらないな……」



 私はカップの中身を一気に飲み干した。




 ☆☆☆




 翌日。目が覚めると頭がスッキリして、ここ最近では一番よく眠れた気がした。


 この別邸は、前の子爵が去ったあと、引き続き仕えていた者たちが管理している。


 以前の主と一部の人間に問題があっただけで、働いている者たちは真面目なのだろう。品良く管理されている庭園を歩きながら、しみじみと思う。


 初めて見る花々に目を奪われる。最近は花を愛でる余裕などなかった。

 そもそも私が思い出す庭園には常に魔女が一緒にいて、丁寧に世話をしている様子を見るのが好きだった。



 散歩から戻ると朝食が用意されていた。きちんと朝食が取れたのは久しぶりだ。


 執務室に向かうと、ロランがすでに書類の整理をしていた。



「おはようございます、テオ様。こちらがサインが必要な書類で、こちらが意見を求められている書類です」


「昨日より増えてないか?」


「先程も届きましたので。それと、国王陛下から報告書の催促が来ています」


「……わかった」



 清々しい気分から、あっという間に現実に引き戻された。夕食会まではだいぶ時間がある。ゆっくり進めても余裕があるだろう。私は大人しく机に向かった。



 軽い昼食を取り、仕事をこなしていると中年のメイドがやってきた。



「王子殿下のお支度に参りました」



 時計を見ると夕食会にはまだ早い。



「準備をするには早すぎないか?」



 するとメイドは、するりと一枚の紙を差し出してきた。


 そこには、私を着飾る方法が事細かく指示されていた。すべて読み終わると、最後には王妃のサイン。

 なんだこれは。



「すべてを完璧に行うには、今すぐ始めないと時間が足りませんわ」


「ロラン、知っていたのか?」


「はい。先程読みましたので」


「……」


「それでは王子殿下、まずは入浴からです。こちらへどうぞ!」



 メイドは「腕が鳴りますわ~~!」とウキウキしながら、私を案内した。




―――――




【テオドール・ド・クレマン】


ラペデュール王国の第一王子。17歳。ダークブロンドの髪に緑色の瞳。



【ロラン】


テオドールの側近。髪は茶色く肩まで伸びている。





果報は寝て待て【かほうはねてまて】……やるべきことはやり尽くしたなら、あとは焦らずに幸運が巡ってくるのを気長に待つのが一番だという意味。

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