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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第二章 (4)女三人寄れば姦しい

ここまでお読みいただきありがとうごさいます!

 今、私の目の前にはとんでもなく美しい女性と天使のような女の子がいる。


 王妃殿下によって、かなりの美人にも耐性がある私でも、見惚れてしまうほど……。二人いると美は足されるのではなく、倍増するのね。



「ディランったら、不安な気持ちを察する能力が著しく低いのよね。何もかも理詰めだし、白黒つけないと納得しないところも全然成長しないんだから」


「パパだめだよ〜」



 この美人たちは兄ディランの妻クロエと五歳の娘ララ。


 その二人に対面している私は目がパンパンに腫れていて悲惨なことになっている。

 正直、目が開いている気がしない。目の前の二人が眩しいから、丁度いいけれど。



「リアねぇね、だいじょうぶ?」



 さっそく私を『ねぇね』と呼んでくれる。

 本当に可愛い。



「ありがとうララちゃん。会ってまだ五分だけど愛しているわ」


「ララも~」



 天使が私を狂わせてきた。

 美は人を狂わせる。


 私の記憶が正しければ、クロエはこの街一の美女で、兄より二歳年上だったはず。

 その昔、いわゆる高嶺の花のクロエに兄は片思いをしていた。それなのに……。



「お兄ちゃんは高嶺の花を手折ったわけか……」


「ちょ、突然何言うんだよ。言い方があるだろ」


「私、全然モテなかったの。だからグイグイくるディランが情熱的に見えたのよ。ふふふ」



 たぶん、モテなかったわけではなく、高嶺の花過ぎて誰も近付いて来なかっただけだと思う。負け戦は誰だってしたくない。


 ……そんな中、兄はグイグイ行ったわけか。命知らずめ。

 財力があると、かくも人は大胆になるのか。恐ろしい。



「おい、リア。心の声が聞こえてきそうな顔をするな」



 私は黙ってお茶を飲む。兄は気を取り直して言った。



「これからどうしたら良いかなぁ。父さんが帰ってこないと勝手なこともできないからな」



 テオ様の状況がわからない中で、自分の居場所を彼に知らせるのは不安しかない。

 会いたくないわけじゃないけど、会うのが怖い。


 だけど、ここで暮らすにしても、見た目が十代で実年齢が二十六歳の私を、お父さんは周りにどう説明するんだろう。



「今までは私のことを、周りにはなんて言ってあったの?」


「神隠しにあったって」


「え!」


「だって商人の娘なのに急に王宮に行ったら変だろ? かといって亡くなったとは言いたくないし。だから『妖精に誘われて森へ連れ去られてしまった』……という設定」


「それを周りの人は信じたの?」


「父さんが嘘を吐くわけがないって皆が思ってるからな。たぶん領民全員が『領主の愛娘は妖精に攫われた』と認識してる」


「いや、ちょっと怖い。みんなお父さんのこと信用し過ぎだよ!」


「父さんに救われた人はたくさんいるからさ。父さんが白といえば、黒も白なんだよきっと。ははは」


「ははは……って。じゃあ、私が帰って来ても、妖精から解放されたって言うの?」


「見た目が十六歳のままだし、むしろ信憑性が増すな」


「そんなことが知れ渡ったら、絶対に噂を耳にした宰相様がテオ様に報告しちゃう!!」



 ニコニコとテオ様に報告する宰相様が思い浮かぶ。それだけは阻止したい。



「ん〜、それなら親戚の子と言うしかないかなぁ」


「でも、あの大きな絵は……?応接室に飾ってあるなら見たことある人は多いんじゃないの? 人前に出たら、すぐに娘だってバレちゃう」



先程ちらりと見た応接室に飾られている絵画を思い出す。



「ほぼ等身大の私でビックリしたんだけど……」


「母さんも寂しかったんだよ。すぐ戻ると思った可愛い娘が、いつまで経っても帰って来ないんだから」



 胸が痛い。しかしなぜ応接室に飾るのか。



「ここで働いてる人たちはレスト家に忠誠を誓ってるから、家の中にいれば情報が漏れる可能性は少ないけど、リアはじっとしていられるか?」


「もう!子どもじゃないんだから大丈夫よ!」



 兄は笑いながら、しみじみ言う。



「ほんと、リアがよく王宮でじっとしていられたな」



 じっとしていた……のかな?私は王宮の敷地内であればどこにいても咎められることはなかった。


 テオ様が小さな頃は「魔女が家にいなかったから、ずっと探しちゃった」「僕を置いてどこに行ってたの?いなくならないよね?」とよく泣かれていたことを思い出す。


 友達も新しくできて、北の魔女様とは便利な魔法道具の話。西の魔女様とは占いとおいしいお茶の話。南の魔女様とは呪術と可愛いぬいぐるみや人形の話をよくしていた。三人はときどき王宮まで遊びに来てくれた。


 彼女たちが実際どこに住んでるのかはわからなくて、私が「東の魔女です」と名乗ったから三人はそれぞれそのように名乗っただけだったかもしれない。


 彼女たち三人と私の違いは彼女たちは自由にいろいろな場所に行けて、私はどこにも行けなかったこと。


 そして彼女たちは実際に魔法が使えて、私には使えなかったこと。けれど彼女たちはとても優しく、幼い頃からの友達のように接してくれていた。


 ふと、四人のお茶会の席で、なぜかちょこんと私の隣に座ってクッキーを食べている小さなテオ様を見て、南の魔女様が言っていたことを思い出す。



 ――東の魔女ちゃんがいなくなったら、この子はどうなっちゃうかなぁ。




「薬を作ったり、国王様たちの健康観察も私の仕事だったから、いろいろ忙しかったのよ。友達だってちゃんといたし」



 窮屈な思いをしていたらすぐにでも逃げ出していたと思う。でも私はそうしなかった。



「また魔女様たちに会えるかな……」



 私はもう魔女ではないけれど。




―――――




【オーレリア・ド・レスト(東の魔女)】


ラペデュール王国に仕える魔女だった。実際は26歳だが見た目は16歳のまま。帰ってきたら男爵令嬢になっていた。



【ディラン・ド・レスト】


オーレリアの兄。理詰めにしがち。



【クロエ・ド・レスト】


ディランの妻。とてつもなく美人。



【ララ・ド・レスト】


ディランの五歳の娘。天使のように可愛い。

女三人寄れば姦しい【おんなさんにんよればかしましい】……女性が三人集まるとおしゃべりが始まり、大変にぎやかになるという意味。


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