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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第二章 (3)恋は無情の種

 私は初代魔女の日記と一緒に保管されている国王の手記に目を通した。


 国王の手記は魔女と出会った頃から始まっていた。序盤は領地付近の争いについてがほとんどだった。その所々に魔女の話が書かれていた。



『その日は領地の祭りの日だった。私は酔いながら気分よく帰ろうとしていた。そのとき道の片隅に黒いローブを纏った人の姿を見つけた。時々、魔法使いや魔女が占いをしていると聞いたことがある。占いに興味はなかったが酒に酔っていたせいもあって立ち寄ってみた。』



『俯いていた黒ずくめの人間はゆっくり顔を上げた。そこには透き通るような白い肌に黒い髪、琥珀色に輝く瞳をした魔女がいた。私は心臓がうるさく鼓動しているのがわかった。自分が何を話したかも、魔女に何を言われたかも覚えていない。ただあの瞳に吸い込まれそうだった。』



『それから毎日のようにあの道を見に行った。しかし魔女は毎日占いをしているわけではないと、近くの店の店主が言っていた。あの時はただ酒に酔っていたせいだと確認したい気持ちもあった。』



『一ヶ月ほどしてようやく魔女に会えた。久々に会った魔女は相変わらず美しい琥珀色の瞳で私を見てきた。何を話して良いのかわからなくなって「この前の占いが当たっていた」と適当なことを言ってしまった。すると魔女は頬をほんのり朱く染めて「それは良かった」と微笑んだ。』



『領地内外で争いが増え、魔女に会えない日が続いた。その間、目に焼き付いたようにずっと魔女の笑顔が忘れられなかった。』



『ようやく一段落ついて魔女に会うことができた。魔女に「占いが当たっていた」と伝えるとまた少しだけ笑ってくれた。もっと笑顔が見たくて「魔女に占ってもらってから良いことばかりだ」と言ったら、目を丸くして驚いていた。驚いた表情も可愛かった。』



『魔女に私の子どもの頃の夢を語ったら珍しく声を立てて笑った。魔女がいれば、夢も現実にできそうだと思った。「家族はいるのか?」と尋ねたら「いない」と魔女は答えた。ならばと思い「一緒に来てほしい」とかなり勇気を出して伝えたが「考えておく」とはぐらかされた。振られてしまったのだろうか。』



『領主である私の父親が死んだ。唯一の家族を失って不安で仕方ない......気がついたら魔女に会いに来ていた。振られたのに情けない。魔女は力になると言ってくれた。たぶん同情してくれたのだろう。』



『魔女はいつも的確な助言をしてくれた。私の性格もよくわかっているようだ。一緒にいると幸せな気持ちになれる。私がこの子どもじみた夢を叶えるまではそばにいてくれるのだろうか。』



『気づけば多くの家臣を従えていた。私は周りから結婚を急かされるようになった。隣国の姫との縁談まで持ってこられてしまった。私は一縷の望みに賭けて魔女に姫との縁談について尋ねてみた。少しで良い、反対してくれないだろうか。嫉妬してくれないだろうか。そう思ったが結果は惨敗だった。』



『私はついに一国の王となった。バルコニーから国民に手を振っていると、魔女が近くにいないことに気がついた。振り返って部屋の中を探したが先ほどまでいたはずの魔女はそこにいなかった。私が王になってしまったことで私に対する興味がなくなってしまったのだろうか。不安が心をむしばんでくる。』



『魔女に会えない日が続く。最後に顔を見たのはいつだったか。それでなくとも心が落ち着かないというのに王妃から「いつまで魔女を近くに置いておくのか」と問い詰められた。くだらなすぎて話にならない。王妃が勝手に魔女を追い出したり危害を加えたりしないか警戒しておこう。魔女を家に囲って守らなくては。』



『魔女によく似た黒髪に薄茶色の瞳の若い女が目の前に現れた。女は魔女はもうここにはいないと言った。信じられず言葉が出なかった。きっとあの気に入らない魔塔主まとうしゅが裏で手を引いているはずだ。』



『真夜中に魔塔主が現れた。銀髪の長い髪に美しい顔の男。以前から時折私の前に現れては「魔女を返せ」と言っていた。ヤツは私を見てうっすら笑っていた。いったい何の用だと聞いたら「新しい魔女は気に入ったか?黒髪が好みのようだから、ずっとそれだけは守ってあげよう」とわけのわからないふざけたことを言ってきた。頭にきた私は壁に掛けてあった剣を魔塔主に投げた。ヤツは煙のように消えた。』



『魔女の代わりに来た女が私の願いを聞いてきた。馬鹿馬鹿しい、もはや「願い」などという可愛らしい感情はない。「少しは子どもの気持ちを考えろ!」と捨て台詞を吐いて女はその場を去った。』



『魔塔主がまた姿を現した。弱りきった私を笑いに来たんだろう。悪趣味な男だ。笑われるついでに私はヤツに一度だけ魔法を使わせてくれないかと提案した。眉をひそめて明らかに不審に思っている。私は今後国が続く限り、魔塔に資金援助をしてやることをヤツに提案した。』



『魔塔主は細かいことまで誓わせ契約書に記していた。何度会っても気に入らない男だ。そうして私は魔法を一度だけ使えるようになった。』



『いつまでも魔法を使う機会は来ない。あの魔塔主のことだ本当に魔法が使えるかも疑わしい。そもそもそんな日は来ないことは自分でもわかっている。』



『あなたはいったいどこにいるのだ。どうすればあの日々は戻ってくる。琥珀色の瞳に私を映して欲しい。』



『私を置いてあなたは去った。私はこんなに苦しいのにあなたは帰って来ない。あなたが私を望むとき。私はあなたに呪いをかけよう。』



  ……そこで手記は終わっていた。



 何とも言えない気分で手記を閉じた。

 まずはわかったことを整理しなくてはと思いペンを持つ。

 

 初代魔女は魔法を使っていない気がする。星詠みが当たっていたのかどうかもよくわからない。そうなると、魔女と呼ばれても私は本当に魔法が使えるのかな。少し不安になる。


 あとは魔塔主が、国の繁栄を願った初代魔女の想いを『歪曲』して、歴代の魔女を王宮に送っていた。


 国王への嫌がらせとして、彼が執着した黒髪の女性ばかりを選ぶという皮肉を添えて。そのせいで私はたぶんここにいる。


 そもそも直系の人間の願いを一つだけ叶えてあげるのは初代魔女の要望か怪しい。魔塔主は、本当に性格が悪そうだし。


 そして魔塔主は初代国王に一度だけ魔法を使える力を与えた。莫大な支援を得るために。しかしだんだんと初代国王は魔女を呪うことを考え始めた。どんな呪いかはわからないけれど。



 初代魔女は純粋にこの国を思っていたみたいだけど、それを繋ぐ魔塔主がこれじゃあ……。


 送られてくる私たちも、ただの嫌がらせの道具にされているみたいで、余計に自分が本物の魔女なのか自信がなくなってくる。

 


 ……私は本棚に並ぶ日記を見て、すべて読み終わるまでどれくらいかかるだろうかとぼんやりと思った。




 ☆☆☆




「というわけなのよ」


「え?どういうこと?日記がたくさんで大変だったってこと?」


「えっ!わからなかった?......日記を読むのは大変だったけど、そうじゃなくて!そもそもテオ様の家系って執着がちょっと強い気がするのよね。相手は魔女に限らず大事な人にはそんな感じなの」


「へぇ、国王様も王子殿下も凛々しい印象しかないから意外だな」


「うん。あの出発の格好もそのせいなのよね」


「……あぁ、あの黒ずくめね。でもリアは王子殿下のこと嫌いじゃないんだろ?」



 久しぶりに愛称で呼ばれる。少し照れくさい。



「もちろんテオ様のことは大事なんだけど、問題は初代国王の手記の最後。『あなたが私を望むとき。私はあなたに呪いをかけよう。』ってところがどうしても気になっちゃうの」


「でも、そもそもリアが王子殿下を望んだというか助けただけだろ?」


「そうなんだけど!私の願いをテオ様に言わせて叶えちゃったわけだし……」


「呪うって言ったって王子殿下が呪うのか?助けてくれたリアのことを?そもそもリアに執着してるかもわからないじゃないか」



 痛いところをついてくる。少なくとも嫌われてはないと思うんだけど……。



「初代国王が呪うかもしれないじゃない……」


「えー……リアのことを知らない初代国王がなんで呪うんだよ」


「そ!う!な!ん!だ!け!ど!私が呪われるのも嫌だし、私に会ったらテオ様がおかしくなっちゃうかもしれないと思うと怖いんだもん!!」



 そこまで言ったらなんだか泣けてきた。疲れ過ぎて情緒が変になっている。


 十年ぶりに会った妹を泣かせて焦る兄を無視して私は大泣きしてしまった。




―――――




【オーレリア・ド・レスト(東の魔女)】


ラペデュール王国に仕える魔女だった。実際は26歳だが見た目は16歳のまま。帰ってきたら男爵令嬢になっていた。



【ディラン・ド・レスト】


オーレリアの兄。理詰めにしがち。

恋は無情の種【こいはむじょうのたね】(無情)が生まれるきっかけ(種)になるという意味。

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