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東の魔女は魔法が使えない~逃げたい魔女と一途な王子~  作者: けん


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第二章 (1)寝耳に水

 遡ること半月前、東の魔女こと『オーレリア』は焦っていた。


 ど、どうしよう。テオ様の意思を確認せずに魔法を発動させちゃった。このままでは呪われる?

 え、やだやだ、そんなの嫌だ……


 暗い部屋の中で手探りで出口を探す。まずはここから出なくては。

 この部屋は物置になっているようで、物にぶつからないようにゆっくりと進んだ……つもりだったが、思い切りつまずいて転んだ。



「痛……っ」



 やっとの思いでドアに辿り着き、ドアノブに手をかけようとしたそのとき、ドアがゆっくりと開いた。



「誰かいるの?」



 問いかける声が聞こえ、若いメイド服の女性と目が合った。その瞬間。



「「キャーーーーー!!!」」



 思わずつられて叫んでしまった。



「ど、泥棒!!」


「ちが、あ、ちょっと待って!」



 メイドは脱兎のごとく逃げていった。慌てて後を追い、屋敷を飛び出す。すると少し離れた場所に、新しい大きな屋敷があり、その裏口にメイドが入っていくのが見えた。


 裏口の前まで来て立ち止まる。勝手に入ったら、それこそ問題になりそうだ。玄関はどこかと見回すが、屋敷が大きすぎてどちらに向かえばいいかわからない。


 しばらくウロウロとしていると、先程のメイドと身体の大きな護衛らしき人物、その後ろには妊婦の女性がやってきた。



「わ、若奥様! あ、あの人です! 真っ黒な服装の!!」


「えっと、あの、私は……」



 護衛が近付いてくる。なんて説明すればいいのか。

「あら……?」と、若奥様と呼ばれた女性が首をかしげながらこちらを見ている。大柄な護衛が目の前に立つ。こ、怖い。



「何かあったのか?」



 もう一人、男性が屋敷から出てきたようだ。すると男性は、護衛の後ろから顔を覗かせ、目を丸くした。



「え……? オーレリア?」



 一同が沈黙する。



「……お兄ちゃん?」


「お、お前、なんでここにいるんだ?」



 こういうときはなんて言えばいいのか……。



「あの……えーっと。……ただいま?」




 ☆☆☆




 私の知らないこの豪邸は、今から五年前に建てられたらしい。

 今までの屋敷では何かと手狭だったことと、家族が増えたので建てたそうだ。最近まで平民と呼ばれる地位にいたとは思えないほど、広々とした家だった。


 私の記憶では、ここは大きな倉庫と林のような庭が広がっていたはずなのに。私のいなかった十年の間に、この家の周りは随分と様変わりしたようだった。



 応接室で兄ディランと向かい合う。



「旧邸はお前が役目を終えたらそこに帰ってくると魔塔から連絡があったから、そのままにして今は物置として使っているんだ。メイドには探し物を頼んであってな。それにしても、本当に産まれた場所に帰って来るんだな」



 兄は楽しそうに笑っている。私が帰ってくるとわかっているなら、物置にしないでほしい。



「王宮で父さんと母さんに会わなかったのか?」



 兄は最近男爵令息になったばかりなので、まだまだ平民の話し方が抜けない。



「お父さんとお母さんには会ったわ。元気そうで安心した」



 そう、私の両親は先程会ったばかりのレスト男爵夫妻だ。会えたのが嬉しすぎて、すぐにでも抱きついてしまいそうだった。



「それで? 王宮のパーティーの真っ最中に帰ってくるなんてどういうことだ?」



 兄が真面目な顔で聞いてくる。私は王宮で起きたことを話した。




 ☆☆☆




「第一王子殿下が暗殺されそうになったってことか?」


「うん……たぶん。魔法はちゃんと発動したと思うんだけど、テオ様がどうなったか自分では確認できなかったから心配で」


「まあ……何かあればそのうち父さんから連絡が来るとは思うけど……オーレリアから王子殿下に手紙でも書けば良いんじゃないか?」


「それはそうなんだけど……」




 ☆☆☆




 オーレリアは十六歳のある日、魔塔からやってきたという使者から手紙を渡された。正直、普通のおじさん過ぎて最初は新手の詐欺かと思った。

 差出人は魔塔主。封を開けるといきなり若い男性の声が聞こえてきた。



『貴女には今から王宮に行って、東の魔女として過ごしていただきます。王宮に着いたら絶対に名前を名乗ってはいけません。顔と身体を隠す服装をして、私の使者と出発してくださいね。わからないことばかりだと思いますが、行けばなんとかなりますよ』



 軽い口調にぽかんとしていると、紅茶を飲みながら「あ、これは魔塔主様の声です。変なところで魔法を使いたがるんですよね」と使者がつぶやく。


 突っ込みどころが多すぎて頭が混乱した。まったく意味がわからなかった。そもそも私は魔女ではない。



「あの……私は魔女なんですか? 魔法なんて使えないんですが」


「魔塔主様がおっしゃるので、そうなんでしょう。魔法は必要なときに使えますから大丈夫です」


「名前を名乗るなというのはどうしてですか?」


「名前が、魔法を使うときに必要な合言葉……認証、みたいなものだからです」


「はぁ……。では顔や身体を隠すのはなぜですか?」


「覚えられてしまうと、貴女が元の暮らしに戻ったときに苦労するかもしれないからです」


「どれくらいすれば戻れるんでしょうか?」


「それはわかりません。けれど貴女の場合、テオドール第一王子殿下のために魔法を一度使えば戻れます」


「一度?一度で良いんですか?」


「そうです。しかしそれは……詳しい注意点は王宮への道中でお話します」



 説明が面倒になってるのが使者の顔に出ている。おじさん、仕事をしなさいよ。横で黙って聞いていた父が口を開いた。



「断るという選択肢はあるんですか?」



 お父さんは私が魔女だということを受け入れたんだ……さすが、仕事ができる人は違う。



「どうでしょうね。魔塔は魔女の居場所を報告する義務はありませんから逃げることは可能だと思います。ただ……初代魔女と魔塔主様の契約があるので、何が起こるかわかりませんけどね」



 初代魔女?王国の歴史の最初にちょこっと出てきた魔女のことかな……と考える。「契約……」と言いながら父の眉間にシワが寄る。商人にとって契約という言葉は非常に重い。



「いつまでに王宮に向かえば良いのですか?」



 私が問うと、使者は「うーん」と考えながら答える。



「いつまでというのはありません。しかし、先代魔女は王宮を去ってしまっていますから早めにお願いします、といったところでしょうか」



 私はその後、一ヶ月じっくり考えた。魔塔の使者はその間、我が家に滞在した。魔塔主の人使いの荒さに愚痴をこぼしていたので、我が家はとても快適だったようだ。




 ――――そして私は、王宮行きを決意した。




―――――




【オーレリア・ド・レスト(東の魔女)】


ラペデュール王国に仕える魔女だった。実際は26歳だが見た目は16歳のまま。帰ってきたら男爵令嬢になっていた。


【ダミアン・ド・レスト男爵】


半年前に男爵位を授かった。その際に領地名も自分の姓も商会の名前の「レスト」に変えた。理由はその方が多くの人に覚えて貰いやすいため。


【ディラン・ド・レスト】


オーレリアの兄。

寝耳に水【ねみみにみず】……突然の意外な出来事や知らせに、非常に驚くことのたとえ。

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