第23話:会見
再び、国家から呼び出された。
前回よりも、形式が整っている。
机の上に資料。
録音機。
担当官の視線は穏やかだが、退路はない。
担当官「現状、世論は混乱しています」
担当官「あなたの沈黙が、疑念を増幅させています」
みことは黙って聞く。
担当官「国民には理由を知る権利があります」
正論。
担当官「記者会見を開き、説明していただきたい」
依頼の形。
だが、拒否は想定していない声。
沈黙。
ムーの白がよぎる。
知っている者が一人だった構造。
共有された瞬間、次の選択者が生まれる。
繰り返さない。
みこと「……開きます」
担当官がわずかに安堵する。
担当官「ご説明を?」
みこと「私の言葉で、終わらせます」
それ以上は言わない。
――その夜。
父の部屋はそのまま。
作業着が掛かっている。
止まった時計。
母は洗濯物を畳んでいる。
同じ動作を、繰り返す。
みこと「……明日、会見する」
母の手が一瞬止まる。
振り向かない。
数秒。
母「……そう」
短い。
それだけ。
責めない。
励まさない。
みこと「……」
続きが出ない。
あの「そう」に、何が含まれているのか。
分からない。
ただ、止められなかった。
それだけが事実だった。
――翌日。
会見場。
熱気。
マイクが並ぶ。
司会者「それでは――」
手が一斉に上がる。
記者「研究室内での発言について伺います」
スクリーンに表示される。
《誰かを代わりに犠牲にすればいいってこと?》
ざわめき。
記者「事実ですか?」
みこと「感情的な発言です」
記者「“代わりに”とは何を意味しますか?」
みこと「具体的な対象を指すものではありません」
記者「停止直前に集中的に解析していたデータと関係は?」
みこと「ありません」
記者「ではなぜ“犠牲にする”という表現が?」
みこと「極限状況での言葉です」
別の記者が立つ。
記者「あなたのお父様は現在も行方不明ですね」
空気が変わる。
記者「父親を救うために、特別な行動を検討していたのでは?」
ざわめき。
記者「止められたのではありませんか?」
記者「止めなかったのですか?」
一瞬。
記者「父を見捨てたのですか?」
胸が締まる。
みこと「父は救助対象の一人です」
声は静か。
みこと「私は特別な力を持っていません」
記者「あなたの発言は、犠牲を前提にしています」
記者「誰を犠牲にするつもりだったのですか?」
みこと「誰も犠牲にするつもりはありません」
記者「しかし“代わりに”と言っている」
みこと「問い返しただけです」
ざわつく。
記者「問い返した? 誰に?」
みこと「自分にです」
一瞬、静まる。
記者「あなたは、止められた可能性を持ちながら沈黙しているのでは?」
みこと「止めていません」
記者「止められなかった?」
みこと「はい」
記者「本当に?」
フラッシュ。
白。
みこと「私は、何も知りません」
嘘の形。
だが、構造を渡さないための言葉。
記者「国民は理由を知る権利がある」
みこと「分かりません」
爪が、掌にわずかに食い込んでいた。
短い。
刃の応酬。
会見は終わる。
納得はない。
疑念だけが残る。
――テレビの前。
字幕が流れる。
《父を見捨てたのか?》
母は、リモコンを握ったまま。
消さない。
消せない。
娘の顔を見つめている。
あの「そう」の続きは、まだ言葉にならない。
海は静かだ。
だが完全には終わっていない。
みことの沈黙は、
世界に物語を与えない。
その代わり、
家の中に深い沈黙を残す。




