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世界が答えを求めた日。私は、語らなかった。  作者: 冴統 亜弥惟智


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23/23

第22話:紗奈

夕方。

研究室の屋上。

風が強い。

街の音はある。

でも、遠い。

世界の膜が一枚、剥がれたみたいだった。

みことはフェンスに手をついたまま、

呼吸を整えられずにいる。

紗奈は隣に立つ。

何も言わない。

その沈黙が、逆にみことを崩す。

みこと「……私、怖い」

声が掠れる。

みこと「お父さんがいないのも怖い」

涙が滲む。

みこと「お母さんが待ってるのも怖い」

呼吸が乱れる。

みこと「千里が笑ってるのも怖い」

紗奈が、ゆっくり視線を向ける。

みこと「……私が、選ばなかったから」

風が止まる。

みこと「南極を選べば、止まった」

紗奈の眉が、わずかに動く。

でも、遮らない。

みこと「東は助かったかもしれない」

みこと「お父さんも……」

喉が震える。

みこと「でも西が沈む」

みこと「千里の家がなくなる」

みこと「三浦さんの店も、赤ちゃんの写真も」

涙が零れる。

みこと「だから選ばなかった」

みこと「でも、選ばなかったのも私」

声が壊れる。

みこと「世間は……」

拳を握る。

みこと「止められたなら止めろって言う」

みこと「報告しろって言う」

みこと「義務だって言う」

呼吸が荒い。

みこと「もし私が南極を選んだら」

みこと「今度は“西を殺した”って言うよ」

涙が止まらない。

みこと「何をしても、責められる」

みこと「何もしなくても、責められる」

風が吹き抜ける。

みこと「……私、覚えてる」

紗奈の目が、静かに開く。

みこと「前にも、やった」

声が小さくなる。

みこと「ムーっていう大陸で」

紗奈は動かない。

みこと「世界が沈みかけて」

みこと「私が、選択した」

みこと「ムーを沈めた」

風が強くなる。

みこと「それで世界は助かった」

みこと「でも、私は全部失った」

声が震える。

みこと「だから今も分かる」

みこと「選択って、手続きじゃない」

みこと「意思」

みこと「私の意思が収束先を選ぶ」

紗奈が、やっと息を吐く。

長く。

みこと「信じなくていい」

みこと「頭おかしいって思ってもいい」

みこと「でも私、覚えてる」

涙で顔がぐしゃぐしゃになる。

紗奈は、ゆっくり言う。

紗奈「信じるとかじゃない」

紗奈「今あなたがそれを抱えてるのが事実」

それだけ。

否定しない。

肯定もしない。

ただ、受け止める。

みことの膝が崩れる。

紗奈が支える。

強く抱きしめない。

倒れない程度に、触れる。

みこと「……選ぶの、怖い」

本音。

紗奈「うん」

みこと「また、世界を選ぶかもしれない」

紗奈「うん」

風が鳴る。

紗奈は空を見る。

紗奈「そのときは、一人で選択しない」

みことが顔を上げる。

紗奈「一人で背負わない」

それは救いであり、

同時に、みことの秘密を共有する覚悟だった。

屋上の空は曇っている。

でも、完全な闇ではない。

みことは初めて、

秘密を外に出した。

それが、誓いになるのか。

逃げになるのか。

まだ分からない。

ただ。

一人ではなくなった。

それだけが、確かだった。


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