第19話:義務
英雄探しは、犯人探しに変わった。
犯人探しは、責任論へ変わる。
テレビでは連日、同じ映像が流れている。
水没する避難所。
救助打ち切り。
泣き叫ぶ声。
司会者「止められた可能性はあったのでしょうか」
専門家「自然相殺の可能性が……」
曖昧な説明に、視聴者が苛立つ。
SNSが荒れる。
《止められたなら言え》
《沈黙は無責任》
《説明しろ》
トレンド一位。
《#知っていたのか》
討論番組。
コメンテーターA「予兆を把握していたなら共有すべきです」
コメンテーターB「しかし、仮説段階での義務化は研究を――」
コメンテーターB、炎上。
《慎重派=人命軽視》
《被災者の前で言えるのか》
《黙れ》
家族の写真が拡散される。
住所が特定される。
コメンテーターB、番組降板。
議論は終わる。
残ったのは、怒りだけ。
そして、矛先は一人に向かう。
ワイドショー。
画面いっぱいに映る、研究所の外観。
テロップ。
《水位停止直前、集中アクセスしていた研究員》
みことの顔写真。
入社式の集合写真から切り抜かれたもの。
ナレーション「東日本出身。父親は沿岸勤務で現在も行方不明――」
家族情報が読み上げられる。
母の名前。
自宅の最寄り駅。
「地元では優秀な娘として知られていた」
近所の人のコメント。
プライバシーが、剥がれていく。
SNS。
《父が東だから操作した?》
《身内優先?》
《感情で動かしたのか》
研究室の前に中継車が並ぶ。
レンズが、玄関を睨む。
その頃。
世論の圧力を受ける形で、国会に法案が提出される。
《災害予測情報開示義務法案》
アナウンサー「災害の予兆や制御可能性を知り得た者に、報告義務を課す法案です」
スタジオの空気は肯定的だ。
コメント欄。
《当然だ》
《隠したら処罰でいい》
《もう黙らせるな》
“知り得た者”。
その言葉が、みことに重なる。
研究室。
千里「……ここまでやる?」
紗奈「人は怖いとき、誰かの物語にしたがる」
テレビの街頭インタビュー。
「説明しないのは怪しい」
「知ってるなら言うべき」
“怪しい”。
その言葉が、軽く使われる。
みことは、黙る。
報告義務。
それはまだ、予兆の共有の話だ。
だが。
共有は、決定を生む。
決定は、選別を生む。
まだ誰もそこまで言っていない。
だが、空気は急いでいる。
白い光が脳裏をよぎる。
音のない崩壊。
今は、音のある群衆。
世界は、理由を欲している。
そのためなら、個人を剥がす。
みことは、黙る。
その沈黙が、
いま最も攻撃されやすいものになっている。




