第18話:密室
呼び出しは、正式な文書だった。
国家災害対策本部より、事情聴取のお願い。
“お願い”。
断れない言葉。
研究所の前には、まだ記者がいる。
レンズが向く。
フラッシュが光る。
車に乗り込むと、ドアが閉まる音だけがやけに大きい。
神代「想定内だ」
みことは答えない。
窓の外の街が、遠い。
国家災害対策本部の建物は、無機質だった。
金属探知機。
身分証提示。
案内される廊下は長い。
通された会議室には、窓がない。
空気が乾いている。
時計の音だけが、はっきり響く。
担当官「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
穏やかな声。
だが視線は、揺れない。
担当官「停止直前の解析内容について、確認させてください」
モニターにアクセスログが映る。
赤く囲われた数分間。
担当官「通常を超える解析が行われています」
神代「緊急事態でしたので、複数仮説の同時検証です」
担当官「止める理論は存在しますか」
みこと「分かりません」
担当官「存在しないと断言できますか」
みこと「……断言はできません」
担当官「可能性がゼロでない以上、国家としては把握する責任がございます」
静かな圧。
担当官「次に類似事象が発生した場合、事前共有がなければ重大な責任問題となります」
国家が選ぶ。
その未来が、みことの胸を締める。
担当官「我々は国民を守る立場です」
その言葉で、何かが弾ける。
みこと「……守る、ですか」
空気が止まる。
神代がわずかに視線を送る。
みこと「もし“守るために”どこかを犠牲にする選択が必要になったら」
鼓動が速い。
みこと「国家は、どこを犠牲にしますか」
一瞬。
時計の音だけが響く。
担当官の表情が、わずかに硬くなる。
本当に、一瞬。
担当官「仮定の質問にはお答えいたしかねます」
丁寧なまま。
だが、空気は変わった。
みこと「私は、誰かを数字で決める理論は持っていません」
呼吸が荒い。
みこと「持っていたとしても、それを“使うべき”だとは思いません」
神代「理論の有無以前に、倫理の問題です」
担当官は資料を閉じる。
担当官「ご意見として承ります」
声は柔らかい。
担当官「ただし、国家は最悪を想定する義務がございます」
意味は重い。
担当官「その際、情報を持つ方に協力をお願いする可能性はございます」
会議は終わる。
扉が閉まる。
帰りの車。
吐き気が込み上げる。
みこと「……」
神代「挑発するな」
みこと「……すみません」
だが止まらなかった。
窓の外の街が歪む。
国家は、いずれ。
選択を要求する。
今日、それが確信になった。
白い光が脳裏をよぎる。
音のない崩壊。
今は、音のある圧力。
密室の空気が、まだ肺に残っている。




