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世界が答えを求めた日。私は、語らなかった。  作者: 冴統 亜弥惟智


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19/22

第18話:密室

呼び出しは、正式な文書だった。

国家災害対策本部より、事情聴取のお願い。

“お願い”。

断れない言葉。

研究所の前には、まだ記者がいる。

レンズが向く。

フラッシュが光る。

車に乗り込むと、ドアが閉まる音だけがやけに大きい。

神代「想定内だ」

みことは答えない。

窓の外の街が、遠い。

国家災害対策本部の建物は、無機質だった。

金属探知機。

身分証提示。

案内される廊下は長い。

通された会議室には、窓がない。

空気が乾いている。

時計の音だけが、はっきり響く。

担当官「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

穏やかな声。

だが視線は、揺れない。

担当官「停止直前の解析内容について、確認させてください」

モニターにアクセスログが映る。

赤く囲われた数分間。

担当官「通常を超える解析が行われています」

神代「緊急事態でしたので、複数仮説の同時検証です」

担当官「止める理論は存在しますか」

みこと「分かりません」

担当官「存在しないと断言できますか」

みこと「……断言はできません」

担当官「可能性がゼロでない以上、国家としては把握する責任がございます」

静かな圧。

担当官「次に類似事象が発生した場合、事前共有がなければ重大な責任問題となります」

国家が選ぶ。

その未来が、みことの胸を締める。

担当官「我々は国民を守る立場です」

その言葉で、何かが弾ける。

みこと「……守る、ですか」

空気が止まる。

神代がわずかに視線を送る。

みこと「もし“守るために”どこかを犠牲にする選択が必要になったら」

鼓動が速い。

みこと「国家は、どこを犠牲にしますか」

一瞬。

時計の音だけが響く。

担当官の表情が、わずかに硬くなる。

本当に、一瞬。

担当官「仮定の質問にはお答えいたしかねます」

丁寧なまま。

だが、空気は変わった。

みこと「私は、誰かを数字で決める理論は持っていません」

呼吸が荒い。

みこと「持っていたとしても、それを“使うべき”だとは思いません」

神代「理論の有無以前に、倫理の問題です」

担当官は資料を閉じる。

担当官「ご意見として承ります」

声は柔らかい。

担当官「ただし、国家は最悪を想定する義務がございます」

意味は重い。

担当官「その際、情報を持つ方に協力をお願いする可能性はございます」

会議は終わる。

扉が閉まる。

帰りの車。

吐き気が込み上げる。

みこと「……」

神代「挑発するな」

みこと「……すみません」

だが止まらなかった。

窓の外の街が歪む。

国家は、いずれ。

選択を要求する。

今日、それが確信になった。

白い光が脳裏をよぎる。

音のない崩壊。

今は、音のある圧力。

密室の空気が、まだ肺に残っている。


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