第12話:臨界
東壊滅が、現実味を帯び始める。
水没する避難所。
屋上に集まる人影。
〈これ以上は近づけません!〉
〈救助は次便で終了です!〉
救助が届かない場所が、増えていく。
地図が赤く塗り替えられる。
救助打ち切り区域、拡大。
公式会見。
「安全確保の観点から」
「人的資源を再配置します」
整った言葉。
冷たい声。
“見捨てる”が、制度になる。
父の生存は、不明のまま。
捜索は縮小。
ニュースの扱いも、小さくなる。
スマートフォンが震える。
母。
声が、細い。
母「捜索、少し減るみたい」
泣いていない。
でも、息が浅い。
みことは言葉を探す。
見つからない。
通話は短く終わる。
研究室に、静寂が戻る。
母の言葉が、胸の奥で再生される。
「お父さん、助かる方法があるなら……」
均衡式を見つめる。
選択できる。
意思で発動できる。
西が浮かぶ。
三浦の笑顔。
千里の家。
赤子の写真。
“続いていく命”。
父の声も浮かぶ。
「助ける側に回れ」
今は違って聞こえる。
――選べ。
両方は守れない。
東を止めれば、西が沈む。
西を守れば、東が沈む。
呼吸が乱れる。
目の奥が熱い。
吐き気がする。
残り時間、わずか。
ドクン。
ドクン。
心拍と同期する。
選択の意思。
“南極”を選択すれば終わる。
東は止まる。
西は沈む。
世界は安定する。
誰かが消える。
みことは目を閉じる。
選択の意思を固めようとする。
父。
西。
赤子。
海。
世界。
選べる。
選べてしまう。
その重みが、押しつぶす。
残り時間が、ゼロに近づく。
ドクン。
ドクン。
選択が形になりかける。
その瞬間――
みことの意思が、
宙で止まる。




