Sub Episode: 悲劇の幕は用意された ※『クロエ・ユキテル大勝利! 笑顔の明日へレディ・ゴー!!』を忘れないでね
「――【投擲】」
「くっ……!」
――ギィン!
シルヴァによって放られたナイフ群を錫杖で弾き。
エリクは身を捻りながら、聖職者のマントを脱ぎ捨てる。
そして――、
「――〖聖光砲撃・攻撃魔法〗!」
シルヴァの視界を塞ぐように広げられたマントの向こうから、聖光の砲撃が三連続で放たれた。
「――【跳躍】」
シルヴァの足先に魔力の奔流が迸り、常人では不可能な脚力を発揮する。
そのまま軽業師のように樹木の上へ飛び上がると、木の葉のざわめきと共に木々を飛び移りながら、エリクの追撃をやり過ごす。
攻撃を避けられたエリクは、錫杖を鳴らしながら、魔砲撃による轟音を辺りに響かせていた。
「答えてくださいシルヴァさん! いったいあなたは何時から――」
「エリク教祭父。あなたもいい加減、しつこいお方だ」
エリクの言葉を遮るように、シルヴァは上空からナイフを投ずる。
人体の急所を的確に狙ったその投撃は――やはり、すんでの所で避けられた。
「エリク教祭父は、ギリギリを演出するのがお上手なようで――」
悪態をつきながらも、シルヴァは攻撃の手を緩めない。
戦況はシルヴァの圧倒的優位――と思いきや、エリクはこれまでの攻撃を全て捌いている。
そして――、ずっと魔法を放ち続けているというのに、いまだ疲労により緩める気配がない。
「――やはり“加護”持ちか? いずれにせよ、一筋縄ではいかない……か」
呟きと共に、シルヴァは自身の切り札である“魔銃”を構える。
一度の魔力装填により放てる魔弾は、通常六発。
リロードには隙が生じるため、今のように一対一の状況での無駄弾は避けなければならない。
(だが既に――必中の弾道は組み上げてある)
シルヴァはエリクに気取られないよう、上空から戦場を俯瞰する。
――反射行。
上級悪魔との戦いでも使用した、ナイフの刀身を跳弾して予測不能の弾道で敵を撃ち抜く、シルヴァの得意戦術。
通常の投げナイフとは別に、特殊な魔法金属で加工されたものを、反射板のように設置してある。
これまでの攻防で放られたそのナイフ群で跳弾させ、死角から敵を撃ち抜くのが、シルヴァの狙い――。
「さあ、今から手品を始めます。楽しい事を6つ数えると……あら不思議」
銃口の先に6つの模様を備えた魔法陣が出現し。
まずは一つ目のカウントを――。
「…………シルヴァ、様――」
――ピタリ、と。
引き金にかけられた指先が制止する。
………ありえない。
この場に居る筈のない人物の声に、姿に。
シルヴァは己の五感の正常を思わず疑う。
しかし――、瞬時に思考を切り替えて再度エリクへ狙いを定めるが――。
「――やれやれ。私の熱演がしつこいなんて言われてしまいましたよ。ひどい方ですねぇ、“おとうさん”――?」
先程まで聖光の砲撃に見えていたモノが、シルヴァの身を貫いた。
□■□
話をしよう。
この世界には、“狂信者”と呼ばれる、人類の裏切り者が存在する。
彼ら彼女らは、人類を脅かす存在を信奉し、いずれも現世界の破壊を助長するため、様々な立場を利用し、暗躍を続けている。
ある者は“魔王”を崇拝し、ある者は大陸の旧支配者である“巨人”を崇める。
そして、最も数が多いとされるのは――己の欲望を体現し、分かりやすく女神と敵対する存在――“悪魔”を信ずる“狂信者”。
人類を脅かす者達もまた、己の力の及ばぬ領域に手を伸ばすため、“狂信者”を利用し、必要に応じて切り捨てる。
……だが“狂信者”は所詮、人間でしかない。
“殺せば死ぬ”という、絶対のルールからは逃れられないのだ。
また信奉する対象から何らかの“加護”を得ようと、正道に鍛えられた強者には及ばない。
仮初の力で至れる高みには、限界がある。
たとえ“教祭父”という立場を得た者であっても、街中で事を起こせば駆けつけた衛兵や冒険者すべてを蹴散らす事などできず。
教会に漂う神聖な魔力を消すには、人間の力では不可能に近い。
元S級冒険者ともなれば、悪魔からの加護を受けた“狂信者”一人など、例え人質をとられようとも、確実に暗殺を遂行できる。
つまり、素性が割れてしまえば、普通の“狂信者”は『詰み』なのだ。
その度に人類を脅かす者達は、利用価値の消失した“狂信者”を切り捨ててきた。
……やがて、中にはこう考える存在もいるだろう。
――人間の協力者など、果たして必要あるのか……と。
□■□
「…………」
夕暮れに照らされた礼拝堂の中。
ユノリアは、ひとり、祈りを捧げていた。
慈愛の笑みをたたえた“大地の女神像”の前で、人形のように無機質な瞳が、僅かに揺れ動くのを感じる。
「…………とも……だち……」
彼女の脳裏には、クロエという少年の笑みが、深く焼き付いて離れない。
記憶の中で、彼の言葉が再現される――。
『――おっぱいのデカい娘をおんぶしたい!』
……ちがう。今のはナシだ。
思い浮かべるなら、もっと、こう……マトモな感じの……。
『――ユノリア! パンツくれ!』
『――変態の呼吸。性癖歴一閃』
『――失礼な。俺のどこがやかましいでパンツ』
「…………ッ!」
雑念を払うため、ユノリアは床に頭を打ち付けた。
静かに息を切らす彼女の脳裏では、ムカつく顔(唾吐いてビンタしたくなる位)のクロエが、ぐるんぐるんと変な踊りをしている。
そして、隣にいたイマジナリーブランさんのげんこつで変な踊りを中断し、たんこぶを作って正座した。
「……でも」
きゅっと握りしめられた指先が、ほのかに温かな感覚に包まれる。
『――なあユノリア。どんなに過去が苦しくても、今を笑っちゃ駄目な理由にはならないんだ。それでも自分が幸せになるような人間じゃないと思うなら、俺はあの手この手でユノリアを笑わせてやるぜ。
お前の……“友達”として』
たまに、ほんの少しだけ言うマトモな言葉に、昏い海の底に漂っていた自分の心が、不意にすくい上げられたような感じがして――。
…………あ。
「わたし……いま……すこしだけ、笑えた……」
ほんの少しだけ持ち上げられた口角に触れて。
ユノリアはポツリと呟く。
「……まるで喜劇の世界から飛び出してきたような……変なお方……」
……クロエ・ユキテル。
また明日も……彼に会えば……自分は笑顔で、いられるのだろうか……。
「――シスター・ユノリア。ここにおられましたか」
静かに礼拝堂の扉が開かれて、背後から優しげな男性の声が投げかけられる。
ユノリアは、祈りを終えた後に振り向くと。
――戸惑いの込められた緋色の瞳で、来訪者の姿を視認する。
「……エリク様」
小さく絞られた、恐怖の声音。
ユノリアは人形のように端正な顔立ちに薄っすらと汗を滲ませ、礼拝堂の脇へ逃げるように後ずさる。
「おや。どうされたのですか?」
エリク教祭父はにっこりと微笑み――血に塗れた片腕で、ひとつ指を立てた。
「……ところで、シスター・ユノリア。ひとつ、相談があるのですが――」
まるで場の空気を和ませんとするように、エリクは朗らかな笑みを崩さない。
彼の歩いてきた地面に垂らされた、点々と続く血痕が、その異質さを際立たせていた。
「エリク様……あなたはシルヴァ様と共に話し合いへ行かれたはずでは――」
「ええ。見ての通り、もう済みましたので」
――からん、と。
シルヴァの投擲したナイフの1枚を、その場に放り投げる。
人間の血がべっとりと付着したそのナイフを見て、ユノリアは自身の口元を覆い、小さな悲鳴と共にうずくまった。
「……ああ。いいですねぇ、その戸惑いと恐怖の混じった感情。こういう瞬間があるから、現場は辞められないのです。私の密かな楽しみですね」
ゆっくりと歩み寄るエリクの足は――血の跡を踏んでいると言うのに、一切の汚れを生じさせない。
見やると、礼拝堂を出たすぐそこに――悪魔の用いる、移動用の魔法陣が光っていた。
「……エリク様っ……。わたしはこれまで、あなたに大変よくしていただいたという、感謝の念がございます。……けれど今、いくら記憶を思い返しても――あなたに助けていただいた覚えがないのです。これはいったい、どういう事なのでしょうか」
「…………ふふふ」
かろうじて立ち上がるユノリアを前にして、エリクはただ、意味深に笑い続ける。
いつも向けられていた朗らかな笑みは――既に、恐怖を助長させるものでしかない。
「……わたしの最初の記憶にある、助けていただいた男性の姿が、おぼろげで思い出せません。エリク様の事だと思っていたのですが……思い出そうとして違和感が。
――エリク様。あなたはいったい、いつからこの街の教祭父だったのですか」
ユノリアの問いかけに対し、エリクは――、
「…………ああ、いつからでしたっけね。ふふふ。何分、幾度も姿を変えておりますので、私もよく覚えていないのですよ。――少なくとも、この街には昔から滞在しておりましたよ?
――魔物除けの結界なる物が、実用化する前から……ね」
そのままユノリアの目前で立ち止まると、芝居がかった様相で両手を広げた。
「……突然ですがシスター・ユノリア。悪魔と聖職者。これらは似て非なるようで、ひとつの面白い共通点があります」
「…………」
「それは、本当の名とは異なる名を名乗ること。聖職者は洗礼の際に与えられた名を。悪魔は自身を束縛する真名を隠すための名を。あなたのユノリアという名は洗礼名で、本名は別にございましたね」
そのまま規則正しい歩様で二〜三下がると、まるで舞台上で挨拶をする演者のように、大仰に礼をしてみせた。
「――エリクという名は教会へ紛れ込む為に用意した偽りの名。我が真名をお教えする事はできませんが、悪魔として人に名乗る便宜上の銘を名乗りましょう」
エリクの身から、漆黒のオーラが溢れ出す。
不敵な笑みを浮かべたその姿は瞬時に変貌し――、背中から爛れた翼を広げた、仮面の悪魔がそこにいた。
「――我が名は“灰塵”のファントム。魔王軍・混沌派。死神執行部隊に所属する四呪奏が一人」
「ファントム……あなたが……っ」
ファントムは仮面の奥に隠された瞳を歪めながら、鋭い鉤爪をユラリと構える。
ユノリアはそれを見て臨戦態勢を取るべく、魔力を練り上げながら敵を見据えた。
「“狂信者”――人間の裏切り者ではなく、悪魔そのものが教会に紛れ込むなんて……」
「ありえない。……と、おっしゃいたいのでしょう。お気持ち、心中お察しいたします。シルヴァさんもたいそう驚いておられましてね。
私も昔は“狂信者”を用いておりましたが、……人間は脆くて使い物にならないのですよ。ならば、私自身で何とかせねばならないでしょう? 苦労しますよ、まったく……」
ファントムはそのまま、チラリと“大地の女神像”へと、視線を向ける。
「この世に不変のものがないように、忌々しき大地の女神とやらの加護も、いつかは衰えてゆくものです。……聖典より抜き去られた一節によりますと、ここにありがたく奉られております女神様は、自身の息子を失ったショックで、何処かへ雲隠れされてしまいました。
……であれば、各地に施された女神の加護も、ゆるやかに減少してゆくもの。だからこそ、焦った下級女神たちは勇者召喚なるもので、我々への対抗策を用意しておられるのですから」
「それは……」
「知らなかったでしょう? そのような不都合、末端に知らされるハズがありませんからね」
ユノリアは震える肩を抱きながら――ずっと気になっていた事を問う。
「……ファントム。あなたと共にいたシルヴァ様は――」
「殺しました」
ユノリアの指先がビクリと震える。
「領主様の命を受けて、随分と裏で動かれておりましたからね。リュパンツを捕まえてくださったのは嬉しい誤算でしたが、いい加減に目障りでしたのでつい。……いやあ、おかしかったですよ。なにせ、アレだけ大物の風格を醸し出して相対した御仁が、ちょっとした事で手も足も出ず死んでゆきましたので。
――ああ、しまった。そういえばおかしさのあまり、生命確認をしておりませんでした。あの傷で生きているとは思えませんが、念の為、後で部下に確認させましょうか」
シルヴァの、生命確認をしていない。
であれば、あの油断ならない男なら、目の前の悪魔を出し抜いて、どこかに潜伏している可能性も――、
「――おっと。期待しておりますね? シスター・ユノリア。シルヴァさんがこの私を出し抜き、殺されたフリをして潜伏されているのではないのかという、淡い期待を。……まあ、そう思うよう誘導したのはこちらですけども」
ファントムは先ほど放り投げたシルヴァのナイフを拾いあげ、鉤爪の先でつまむように……パキン――と、いとも容易く破砕する。
「……勘違いをされては困ります。たかだか元S級冒険者一人ごときで、四呪奏であるこの私と渡り合えるなら、“勇者召喚”なる術式は必要ないのですよ。
魔王軍とは、異世界より召喚されし数十名の勇者を切り札として用いて、初めて抵抗できる強大な勢力。
要するに異世界の勇者か、“ブランカ・リリィベル”のような人類最高峰の傑物でも連れてきていただかなければ、私は倒せません。……そう。“ブランカ・リリィベル”を……ね」
何かを警戒するように呟いた後、ファントムは改めてユノリアに向き直る。
「少々、計画に狂いが生じましたので、ここからは手荒に行かせてもらいます。それでシスター・ユノリア。話の続きですが――」
そのまま、ダンスのエスコートでもするかのように、鉤爪を開いた手のひらを差し出して――。
「――私と共に……“魔王軍”に来ていただけますか?」
「……魔王……軍……」
「知っておりますよ? あなたが“呪いの血族”であるという事は」
――“呪いの血族”。
その言葉を告げられた途端、ユノリアの心臓がとくんと跳ね上がった。
「――っ、《聖光砲撃・攻撃魔法》」
即座にユノリアが放った聖なる光の砲撃が、ファントムの胴体を撃ちぬいた。
風穴の開けられたファントムの腹部は、光に焼かれて灰となり――。
「おや」
そのままバランスを失い、ファントムの半身は地面に崩れ落ちた。
……悪魔系・アンデッド系にとって、光属性の攻撃は何よりの弱点。
それをモロに食らえば、いくら超越級悪魔と言えどもただでは済まない。
しかし――、
「ひどいですねぇ。床が汚れてしまいましたよ。これでも私は教祭父として、それなりに真面目に取り組んできたつもりなのですが――」
灰化したはずのファントムの肉体が、瞬きの間に復活した。
何事もなく再生された腹部をはたきながら、ファントムは深く嘆息する。
「……どう……して……」
「さあ。どうしてでしょうね? シスター・ユノリア。あなたの目には、“灰塵”と化した私の肉体が、何事もなく再生したように見えたようですが……」
分かり切ったはずの事を、ファントムはおかしそうに笑いながら告げる。
――勝てない。
敵との間に越えられぬ力量差を感じ取ったユノリアは、即座に身を翻し――、
「……どうしました? 出口はそちらではありませんよ?」
「……っ」
どういう訳か、足が思う方向に進まない。
慌てて振り向く彼女の身体を、ファントムの鉤爪が勢いよく引き寄せ――。
「…………っ」
「痛いですか? 苦しいですか? それらはすべて、『心』なるものが生み出す幻影に過ぎません。ですがそれらから逃れたいと思えるのも、『心』あってこその矛盾。
あなたの失った記憶もまた、苦しみから逃れるために、『心』が蓋をしたようですので」
「……なにを――」
「どれ。私の手で思い出させてあげましょうか。きっと、私好みの“悲劇”が見られる事でしょう」
彼女の頬に鉤爪を這わせてゆっくりと頭部まで登頂させると、ファントムは何かの呪文を詠唱し始める。
「……っ、…………」
ユノリアの意識が、すうっと遠くなってゆく。
――まるで夢見心地のようにふわふわとする思考の中――脳裏には、懐かしさの覚える女性の声が響いた。
『――どうせ数えるなら、楽しいことを数えましょう? ……さあ、今から手品を始めます。楽しい事を6つ数えると、あら不思議! 嫌なことは全部ふっとんじゃう!』
「たのしいこと……むっつ…………」
1。……美味しい美味しい、お菓子のお味。
2。……ママと一緒に、まほうの練習。
3。……たまに帰って来る、パパの不器用な、なでなで。
4。……家族みんなで、笑顔のだんらん。
5。……パパとママが、喜劇のお話の語り聞かせ……。
…………あれ?
「ママ……6つめは? 6つめはどこ……」
――スカー……レット……あなたの……ひとみ……あのそらと……おな……じ……。
「さあ。思い出しなさい。ユノリア=スカーレット。あなたは本当にすべて忘れていたのですか? 自らの心に仮面をかぶり、忘れたフリをしていただけなのでは?」
「――やめてッ!!」
そこでユノリアは、初めて声を荒げた。
「……やめて、ください……っ」
無表情だった彼女の貌に、感情の色が灯る。
だがそれは自身の忌むべき瞳の色と同じ、悲哀に満ちた緋の色。
揺れ動く緋色の瞳は……目の前の悪魔ではなく、自身の忌むべき記憶が生み出した幻を捉えていた。
――最初に感じたのは、命の脈動が途絶える静寂。
“わたし”を力いっぱい抱きしめたママは、安らかな笑みをたたえたまま、静かに、眠るように事切れていた。
『――誰がそれをやった?』
――次に聴こえたのは、何かが灼けて崩れ落ちる脆音。
成人女性と未成熟な子供。
たった二人、……いや。たまに帰って来る父親と三人。
慎ましやかに暮らしていたと思われる母屋は、思い出ごと焼却するかのように、がらがらと無情に崩れ去る。
『――それを壊したのは誰?』
――最後に目に映ったのは、鬼のような形相で息を切らす、駆けつけてきたパパ。
『――何を見て、パパはそのような顔をした?』
その場にはもう……、ママと、わたししか、いないのに――。
「――慎ましやかに隠れ住むあなた方を、何者かが襲撃したようですね。では、その襲撃者をきっかけに引き起こされた悲劇とは……いったい、なんなのでしょう?」
ノイズがかった記憶の中、何かを叫ぶ母親の声が聞こえる。
必死に呼びかける彼女の声は――ピタリと、何かを吐き出す音と共にかき消えた。
襲撃者は既にいない。
――じゃあ、ママを、ころし……た……の、は――、
「母親を殺したのは……暴走したあなた自身なのですよ。ユノリア=スカーレット」
――ユノリアの脳裏に、自身を抱き締めてこと切れる、母の姿が思い起こされる。
朧気に見上げた空は、まるで悪魔の嘲笑のように真っ赤に染め上がり。
辺り一面は焦土と化して、雑草一つ生えてはいない。
後から分かった事だが、この地獄の業火のような景色は、自分の瞳と同じ色で……。
わたしの『スカーレット』と言う名前は、この禍々しい空の色にピッタリの名前であったと感じてしまった。
では、その原因を生み出したのは――。
「あ、あ……あああああああああああああああああああああああああ――ッ!!!!」
わたしだ。わたしだ。わたしだ。わたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたし――、
「――“呪いの血族”。その力、我ら魔王軍が貰い受けます」
……た……ス……ケ……て……、




