第12話 とってもたのしい勉強会
「何か身体がピリピリすると思ったら、どうもテイム状態が解けてるらしい」
陽の光を浴びながら森を歩いていると、ブランさんがそんな事を言い出した。
「またか? さっきブランさんに【モンスターテイム】を使って、魔物と戦ったばかりじゃないか」
倒した魔物から剥ぎ取った素材。道で拾った薬草やキノコ。
それらを入れた袋を担ぎながら、俺はブランさんの隣を歩く。
……俺たちは無一文なので、先立つものが必要だ。
街に入った時に換金できるように、ブランさんの知識を頼りに色々と詰め込んでみた。
昔の時代の人間であるブランさんの知識が今でも通じるか分からないが……まあ、何もしないよりはマシだろう。
「……けど、魔物の剥ぎ取りだけは嫌だなぁ、俺。グロいのは苦手でさ……」
「そこはまぁ……慣れていくしかないだろう。冒険者としてやっていくなら、絶対に必要な経験だ。しばらくは私も手伝ってあげるから、さっさと慣れてしまいなさい」
ブランさんはけっこうスパルタだ。
どうやら生前、駆け出し冒険者の指南役も務めていたようで、ものを教える事に関して、妥協はしない方針らしい。
……とりあえず実践させて、身体で覚えさせる。
昭和の熱血教師とか向いてるんじゃないかと、勝手に思った。
「……さて。そろそろこの森を抜けられると思うんだが……」
“始まりの街スタール”の廃墟を後にした俺たちは、時折出くわす魔物と(主にブランさんが)戦いながら、冒険者ギルドのある街を探していた。
ブランさんによると、この森を抜けてしばらく歩けば、大きな城郭都市があったらしい。
ブランさんの時代からけっこう経っているようだが、大きな街ともなれば、そのまま使われている可能性も高いだろう、との事。
……果たしてブランさんの読み通り。
森を抜けた先に広がる高原・平原の向こうには、古びた外観の城郭が手入れされた様相でそびえ立っていた。
「おお……あれが……!」
「スコーリオ地方。この辺りでは果実の栽培が盛んで、よく果実酒や、菓子類など、嗜好品の産地となっている。街の名前は……流石に私の時代から変わっているかな」
そのままブランさんのうんちくを聞き流しながら、俺たちは古びた城郭都市を目指して進む。
「……うん。気候や植物相も当時のままだ。……そうだ! クロエくん。冒険者としてやっていくならあらゆる知識が必要となるだろうが……どうだろう。このまま私の知りえる知識を語り聞かせてゆくので、ある程度話し終えたら、どこまで覚えたかテストを出題しよう」
「てっ、テスト……ですと……?」
「なんだ? 勉強は嫌いか? ダメだぞ、クロエくん。君はまだ若いのだから、脳の機能が活発な内に、どんどん知識を吸収していかなくては……」
勘弁してくれ!
テストですとと言う渾身のギャグを流され……じゃなくて。
なんで異世界に来てまで学校みたいな事をしなくちゃいけないんだよ!
俺、授業中にゲームするくらい勉強嫌いなのに!
……なんだかブランさんに妙な熱が入り始めたので、俺は話題を変えるために別の話を振る事に。
「――なあブランさん。ブランさんって脳筋ゴリラなイメージだったけど、けっこうインテリなとこもあるんだな」
「……(ニコォ)」
「じょうだんですげんこつとそのぶっそうな笑みは勘弁してくださいっ! ……ええっと、それより、【モンスターテイム】が解けた事についてなんだけどさ……」
――【モンスターテイム】。
それは魔物使いというクラスへ就いた、俺が唯一持っているクラス専用スキル。
効果は単純なもので、契約紋を浮かび上がらせ、対象の魔物をテイム――スキルを使用した者のしもべとする。
ブランさん曰く、理論的には“契約魔法”と呼ばれる魔法を、スキルへ落とし込んだものだとか。
人間としての心を保ったまま〖デュラハン〗というアンデッドモンスターになってしまったブランさんは、生前有していた聖騎士のスキルが外せないまま残っており。
聖なる力により著しく弱体化――。
具体的には、スキルに関する能力値が大幅にダウンし、敵の攻撃を先読みした上での防御行動しか役に立てないと、本人は言っている。
いや先読みってなんだよ。今までぜんぶ予想して受けてたのか。存在そのものがチートかよ。ってのは一旦置いとこう。
……だが、俺の【モンスターテイム】によってひとたび人間の味方という判定になれば、聖騎士のスキルによる弱体化が解除され。
“雷光の女騎士”、“国一番の女騎士”、“脳筋ゴリラ”、等と謳われた真の力を発揮できる。
その間はもはや敵なしであり――。
「……クロエくん。君の考えは実に読みやすいので、私はとてもたすかっているぞ」
……このように。ゴリラ呼びされた事に対して、にこやかな笑みでキレながらげんこつを震わせる美人のお姉様は、俺という魔物使いの最強のパートナーとして、日々助けてもらっている。
……だが、常に【モンスターテイム】の効果を発揮できるわけではない。
どうやら俺とブランさんには天と地ほどの力量差があるらしく。
一対一ではスライムにも劣ると言われた俺のステータスでは、ブランさんを常にテイム状態にする事は不可能のようだ。
【モンスターテイム】を成功させるには、使用者の力量が対象の魔物の抵抗力を上回った状態に加え、“幸運判定”と言う、幸運のステータスに応じたランダム性に左右される。
“幸運判定”に関しては、俺の持つチートアイテムである、女神メィチス様の『神装』が手助けしてくれるが、抵抗力はブランさんにその都度下げてもらわなければならない。
なので今のブランさんは人間の味方判定ではなく。アンデッドモンスターらしく、太陽の光を浴びて絶賛ダメージを受け続けていた。
「……うん。吸血鬼種と違って消滅するような事は無いと思うが、アンデッドにとって陽の光が毒な事には変わりない。現在進行形でめっちゃいたいし」
一応、ブランさんと契約した証である左手の紋章は消えてない(若干薄くなってはいる)ので、完全にテイムが解けたわけではない……とは、思う。
だが攻撃に転じるには、再度テイムし直して効果を強めねばならない。
「――とは言え私の場合、元々聖騎士のスキルで常にスリップダメージが入っているようなモノだ。今さら陽の光を浴びた所でさした影響は無い」
このように、ブランさんはダメージを受け続けている事を、特に気にしてはいない。
それだけ元の強さがイカれているんだろう。
世が世なら、この人はネット小説の無双系主人公になれるかもしれない。
「……いいか、クロエくん。恐らく今の君では、テイム状態を長続きさせられない上、テイムする間は私の抵抗力をあえて下げ続けなければならない。その為、防御面が脆くなり、隙も生まれるだろう。
恐らく一度にテイム状態を保てるのは、どんなに頑張っても数分。しかも固有奥義等の大技を放てば、高めた魔力が霧散するまで再度テイムができなくなる。
これは私たちにとっての課題だと認知しておこう」
「ああ。課題を言ってくれてありかだい」
「…………」
「課題とあり“かだい”」
「……………………」
……そんなこんなでこれまでのあらすじを振り返りつつ。
ダジャレを交えて微妙な空気にする事で、ブランさんとの勉強会を回避する事に成功した俺は、気持ちを新たに城郭都市に向けて歩を進め――。
「……あ、クロエくん。あやうく忘れる所だった。さあ、勉強会を始めるぞ」
………………。
「……ああ。課題を思い出してくれてありかだい」
「かだい評価にはさせてくれるなよ?」
そんなこんなで、ブランさんとの勉強会が、歩きながら行われたのだった。
【本日の更新(2/3)】




