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勇者召喚からハブられた俺は、女神様の脱ぎたて神装(パンツ)で異世界を生き抜く ~明日を笑顔でいるために~  作者: 藤塚 まあき
第二章 ママに私が生まれた日の空の色を聞いたら、「おじいちゃんの頭と同じだよ」と言われた
16/39

Sub Episode: “わたし”が目覚めた日の空色

□■□


 これはわたしが、……笑顔を忘れた物語。


 ――最初に感じたのは、命の脈動が途絶える静寂。


 “わたし”を力いっぱい抱きしめたその女性(ひと)は、安らかな笑みをたたえたまま、静かに、眠るように事切れていた。


 ――次に聴こえたのは、何かが灼けて崩れ落ちる脆音。


 成人女性と未成熟な子供。

 たった二人、慎ましやかに暮らしていたと思われる母屋は、思い出ごと焼却するかのようにがらがらと無情に崩れ去る。


 ――最後に目に映ったのは、鬼のような形相で息を切らす、一人の男。


 ……初めは、彼が自分たちを襲った相手なのだと思ってしまった。

 しかし、どうやら違ったらしい。

 彼は襲撃者を追い払い、自分たちを助けた恩人であったようだ。

 ……本当に、申し訳ない事をしたと思う。


 ……“わたし”には記憶がない。

 たったいま、なくしてしまった。


 だから、この時見た総てが、“わたし”にとっての、最初の記憶。


 そして“わたし”を力いっぱい抱きしめた――母と思しき女性の持っていたペンダントに収まっていた、一枚の絵。

 そこに描かれた、楽しそうに佇む家族の……“笑顔”が、失われた瞬間。


 ――朧気に見上げた空は、まるで悪魔の嘲笑のように真っ赤に染め上がり。

 辺り一面は焦土と化して、雑草一つ生えてはいない。


 後から分かった事だが、この地獄の業火のような景色は、自分の瞳と同じ色で……。


 わたしの『――』と言う名前は、この禍々しい空の色にピッタリの名前であったと感じてしまった。


□■□




「――シスター・ユノリア。ここにおられましたか」


 礼拝堂で祈りを捧げていると、後方から優しげな男性の声が投げかけられる。

 シスター・ユノリアと呼ばれた14~5程の少女は、祈りを終えた後に振り向くと。

 感情の薄い緋色の瞳で、来訪者の姿を視認する。


「エリク様」


 ……抑揚のない、死人のような声音。

 ユノリアは、人形のように端正な顔立ちをピクリとも動かさず、エーテル教会式の礼を済ませると、礼拝堂の脇へと逸れる。


 教祭父――街ごとに設置されたエーテル教・教会の責任者――エリクは、ニッコリ微笑むと。

 ユノリアへ、共に椅子へ腰かけるよう、促した。


「……あれからもう、十年になるのでしょうか。……昔の記憶に関して、何か進展はありましたか?」


 並び座ってから、少しの沈黙の後。

 エリクは、まるで痛ましい過去の記憶を思い出すかのように、悲し気にユノリアへと尋ねる。


「……いえ」


 ユノリアは無機質な瞳で、礼拝堂の最奥――“大地の女神像”をただ見つめると。

 ベールからはみ出す闇色の髪を、静かに細指ですきほぐした。


 ……漆黒の修道服に身を包んで尚、際立つ闇色の美しさ。

 身体のラインを隠す衣服からも、はっきりと分かるほどの女性的な起伏。


 それは彼女の生気を感じさせぬ面持ちも相まって。緋色の瞳と並び、まるで教会に属する者とは思えぬほどの妖しき美貌をはらんでいた。


「申し訳ありません。このような調子で。これまで何度も、エリク様に助けて頂いたこの身ですのに」

「構いませんよ。女神像は善き者をいつでも優しく見守ってくださいます。……どうか、ご自分を責めないでくださいね」


 再度笑いかけるエリクに対し、人形のように「――はい」と答えるユノリア。

 ……それっきり、両者の間には気まずい沈黙が流れてしまった。


「……ところで、シスター・ユノリア。ひとつ、相談があるのですが――」


 場の空気を変えようと、ひとつ指を立てて、何かを提案しようとするエリク。

 ――するとその瞬間。


「――た、た……っ、大変ですっ!!」


 礼拝堂の扉が勢いよく開かれ、何やら慌てた様子の教徒が一人、息を切らして駆け込んできた。

 そのただならぬ様子に、二人はすぐさま席を立ち、その教徒の元へ駆け寄っていく。


「どうされたのですか? 只事ではないように見受けられますが……」


 優し気な笑みを湛えたまま教徒の背をさすり、ひとまず落ち着かせてやるエリク。

 息切れにより咳き込んでいた教徒は、少し落ち着いた後、事の次第を手短に語り始めた。


「……冒険者ギルドからの要請で、この街で冒険者登録をしているC級以上の方に緊急収集がかかりました。至急、ギルドの酒場へ集まるようにと……!」


 ……冒険者ギルドからの、緊急招集。

 それは、すぐさま解決に当たらねばならぬ程の事態が起こったという事。


 C級以上という指定があるならば、ある程度の力量を持った人手が早急に欲しい状況にあるようだ。


「……シスター・ユノリア。聞きましたね? この街の教会で、最も冒険者としての力量があるのは貴女です。行って、勤めを果たしてくるのです」


 教祭父であるエリクは、自身の任せられた教会から離れる訳にはいかない。

 この街に属する聖職者(プリースト)で冒険者登録をしているのは、いずれも若く、修行を兼ねての者たちばかり。

 その中でもユノリアは類まれな才能を発揮し、C級という、冒険者の中でも中堅に位置するランクまで駆け上がっていた。


「……エリク様、さきほどのお話は」

「またの機会にいたしましょう。今は女神に仕える信徒として、一人でも多くの方々の助けになる時です。その為に我らの教義は、冒険者としての奉仕を推奨されているのですから」


 エリクの笑みに促され。

 ユノリアは、エーテル教会式の礼と共に、礼拝堂を後にする。


 ……準備は手早く済ませた。


 細い腰に巻き付けられたポーチと、冒険者としての奉仕へ就く教徒全員に支給される錫杖。

 それだけを新たに身に付け、ユノリアは足早に冒険者ギルドへと向かった。



 ――冒険者ギルド支部、『紅日の山巓』亭。



 一階に併設された酒場は冒険者たちの会合の場となっている他、近隣の住民も、よく飲食店代わりに利用している。


 普段は昼時の活気で栄えている酒場も、今は客の気配はない。

 代わりに、緊急招集によって集められた冒険者たちが、ギルド職員からの説明を思い思いの様相で待ち設けていた。


「…………」


 ユノリアはまばらに集まりだした冒険者たちに入り混じると、壁際へもたれかかる様に待機する。

 ……すると、彼女の姿に気づいた一人の冒険者が、胡散臭い笑みと共に歩み寄って来るのが見えた。


「やぁ」


 その声の主を緋色の瞳で視認して――。

 ……ユノリアは無表情のまま、視線を元に戻して彼の名を口にする。


「シルヴァ様」

「あいかわらず塩対応だねぇ……ユノリアちゃんは」


 苦笑いしながら中年の冒険者――シルヴァは、軽装から金属の音を鳴らして、ユノリアの傍のテーブルに腰かける。


「まあ座りなよユノリアちゃんも。肩の力でも抜いて緩~く待たないと、この手の緊急依頼はやってけないよ?」

「けっこうです。わたしはこの街の教会の代表として、緊急招集に応じました。気を緩めることなく、問題へ当たる所存です」

「真面目ちゃんだねぇ……」


 シルヴァはポリポリと頭を掻き、……やがて聞かせたくない話でもするかのように、ユノリアだけに聞こえる声量で語り掛ける。


「……ここだけの話ね。おじさんさぁ、年のせいか長時間立つの超しんどいのよ。でもおじさん一人で座っちゃうと寂しいから、ユノリアちゃんぐらいの若い子が話し相手になってくれると嬉しいなぁって――」

「話し相手はあちらにいらっしゃるのでは」

「……ん?」


 間髪入れずに手のひらで方向を示すユノリア。

 そちらへゆっくりと視線を向けると……、


「――シルヴァさぁん。最近ツケてばっかりでちぃっとも払ってくれてませんよねぇ。ちょぉっと、お話ししませんかぁ?」


 酒場の女店員が、額に青筋を浮かべながらそこにいた。


 ちなみに横には、借金の取り立て役のような、筋骨隆々の人物がマッスルポーズをキメながら立っている。

 もし払えなければ、このマッスルの背中に鬼が宿る事であろう。


「こ……、ここの領主様が払ってくれるよ! ほらほら、おじさん、あの人とマブだから!」


 シルヴァは滝のように汗を流しながら、流れるように支払いを他人に任せる。

 それに対し、女店員は間延びした声で、


「一応いただいてはいるんですけどぉ……、領主様曰く、シルヴァさんはちょぉぉぉぉぉっと痛い目を見ておかないと懲りないそうで……」


 女店員が隣のマッスルへ視線を送る。

 そのマッスルは酒場の店員ではなく、この街の領主の使用人であった。


「ムン」


 マッスルの着ている服の袖が、筋肉の膨張によりはじけ飛んだ。

 ちなみにマッスルは女性だ。名はキャサリン。田舎から奉公に来ている、うら若き18歳の漢女(おとめ)である。


「キャサリン、シルヴァサマト、オハナシ、シマス」


 ぽっ……と、キャサリンは筋肉で角ばった頬を赤らめる。

 どうやら年上の男が好みのようだ。

 シルヴァはイケおじの部類に入るらしい。


「アッチデ、アツク、カタリアイ、マショウ」

「まってまって! おじさん一応奥さんいたの! 奥さん一筋っ!!」

「ダイジョウブ。ワタシノコキョウ、コブシデカタル」


 何が大丈夫か分からないが、自分の身が大丈夫でなくなったのは確かだ。


「たっ、たすけてユノリアちゃーん!!」

「……14。……15。……16」


 そのままズルズルと引きずられていくシルヴァをガン無視し。

 ユノリアは無表情のまま、天井の模様をマイペースに数えていた。

 



「……ふぅ。まったく、ひどい目に遭っちゃったよ」


 ――数分後。

 ようやくキャサリンから解放されたシルヴァは、ユノリアのすぐ近くの床へよっこいせと腰かける。

 ユノリアと同じように壁にもたれかかり、「そろそろ実入りの良い仕事探さないとねー」と、のんびり口にしている。


 はたしてそれは口だけなのか――。

 ユノリアにとっては関係ない事ではあるが、個人的にシルヴァへ尋ねてみたい話もあったので、ギルドの職員を待つ間、話を振る事に。


「――シルヴァ様。こちらの緊急招集、いったいどのような内容だと思われますか」


 シルヴァの方は見ないまま、ユノリアは淡々と尋ねる。


「……先日、“始まりの街スタール”の方角で出現した、天を裂く巨大な雷光の柱。この事象について、何か進展があったのでしょうか」


 聖職者である彼女にとって、光属性と思しき未知の事象は、知っておくべき事柄である。


 ……いつの日か、女神様によって、救いの使途がこの世界に遣わされる。

 そうなれば、魔王軍によって脅かされる混沌の時代も、終わりを告げるのかもしれない――と。


 ――それを知っているシルヴァは……彼女の望む答えを返せない事を、苦々しく思って返答した。


「……いやぁ。それについてはこの街のギルド支部では手に負えないって判断で、今は本部へ掛け合っている最中だって聞いたね。

 この前、“咬噛の狼牙”の報告にあったと言う、魔王軍の幹部と思しきネクロマンサーと、その支配下に置かれた〖レイスナイト〗の事もある。下手に刺激すれば、この街にまで被害が及ぶかもしれないから……」


 そのままシルヴァは顎に手をやり、何やら考え込むように小言で呟く。


「……天を裂くほどの雷霆の光刃。それは旧王国の時代に名を馳せた、雷光の女騎士ブランカ・リリィベルの固有奥義に酷似している。

 〖レイスナイト〗が闇と光、両方の属性をも使用できるとなれば、それは最早、勇者が動くべき案件だと思うけど……」


 そこまで言いかけて。

 シルヴァはパッとおちゃらけた笑みに戻ると、気楽に足を投げ出した。


「ま、C級まで呼ばれてるって事は、それほど危険度はないと思うよ。……ただ、人手が欲しくて急を要するって事態にはなってると思うけど――」


 シルヴァは言葉を中断し、その場からすっ――と立ち上がる。

 彼の視線の先には、何やら書類を抱えたギルドの職員が数名、酒場の中央に集まっていたからだ


「皆さん、お待たせしました」


 ギルドの職員の一人は冒険者たちをぐるりと見回し、ある程度の人数が揃ったのを確認した上で、本題を切り出す。

 そこからは補足するように、年配の男性職員が何かを取り出した。


「……今回集まってもらったのは他でもない、まずはこちらを見て欲しい」


 冒険者たちが囲む酒場のテーブルの上へ、一枚の羊皮紙が広げられた。

 まばらに待機していた冒険者たちは、円の形でテーブルへ集い、一斉に羊皮紙へ視線を向ける。


 ……そこには、粗雑な文字でこう記されている。



『――今宵、スコーリオ地方の至宝と称される、シャイン家の一人娘。

 クリスティア・シャイン嬢のおパンツを頂きに参上するでパンツ。

 ――下着泥棒、リュパンツ・ザ・サートル より――

 (→ここに変な似顔絵)』



「…………は?」


 誰かの素っ頓狂な声が呟かれたのと同時に。



 リュパンツ パ~ンツ ♪



 謎の擬音が仕込まれた音声が魔法文字より奏でられ、その場に居た全員が羊皮紙を二度見した。


「…………」

「…………」

「……………………」


 ――その場にしばしの沈黙が流れた後。


「……あの。なんスか、これ?」


 年若い冒険者の一人が、気まずそうに挙手しながら尋ねる。

 男性職員は、職務を全うする為か、あくまで平静を装ったまま質問に答えた。


「……リュパンツ・ザ・サートルだ」

「だからそれが何だって聞いてるんスけど!?」


 どうやら納得はしていないのか、若干気まずそうに目を逸らしている。

 ……それらのやり取りを皮切りに、次々と飛び出す、冒険者たちの納得いかなそうな怒号の数々。

 シルヴァはそれを見て苦笑いしていた。


「あらら……どうなっちゃうんだろうね、これ」

「…………」


 ユノリアはやや後方に控えた状態で、無表情の瞳をわずかに細める。

 それは捉えようによっては……ジト目と形容できなくもなかった。



【本日の更新(1/3)】

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