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第10話 雷霆の光刃

 俺の左手に、魔物をテイムした証であろう、なんかカッコイイ紋章が浮かび上がっている。


 同時に、ブランさんの背中にも紋章が光り輝き、何か温かい力で繋がっているような感覚になる。


 これが魔物をテイムするって感覚か……。

 なんか……こう、悪くない感じだ。えっちな気持ちになれなくもない。


「不思議だな。クロエくんといると、どんな辛い事でもバカらしく思えてくる。というか実際にバカらしい。これを勇気と言っていいのかは分からないが……」


 ブランさんは、光り輝く大剣を握りしめ、静かな声量で呟くと。


「……今はもう、誰にも敗ける気がしない」


 雷のようなオーラが迸り、寂れた広場を明澄に彩った。

 真面目なトーンでこちらをチラ見しながら言われたので、暗に「いまそういうふざけていい雰囲気じゃないから真面目にやれよ、おおん?」って脅されたみたいだ。


「……俺もさ、ブランさん」


 どうやらふざけていい雰囲気じゃ無さそうなので、ここからは俺も真面目に行こうと思う。なるべく。


 ――並び立つ俺とブランさん。


 そして、相対するように立ちはだかるのは、ジャックとその支配下に置かれたアンデッドたち。

 中でもひときわ大きなオーラを放つのはやはり――この街最強のアンデッドと称される〖レイスナイト〗だ。


「なあブランさん、あの〖レイスナイト〗を倒すのにどれ位かかる?」


 さっきブランさんは、デバフがかかった状態でもレイスナイトを相手に粘れていた。

 ならばスキルが復活した今、勝算は十分にあるだろう。


「そうだな……アレは生前の私の怨念が具現化した魔物。中途半端に魔物化した私と違い、聖騎士のスキルは反転して闇属性となっているようだから弱体化は無し。要するにステータス上は私と同等かそれ以上と言っても良い。それらを考慮すれば……」


 あれっ!?

 なんか言ってる事は全部負けそうな内容なんだが……。


 俺の内心を別にして。

 ブランさんはそのまま大剣をくるりと回し、敵の正面へ勢いよく突きつける。

 そして、自信たっぷりにこう言った。


「――30秒で仕留められる」


 あっはい。普通に勝てる見込みがあるのね。


「……よく分かんないけど、ブランさんが脳筋なのは分かった」

「脳筋ではない。理論に基づいた力押しだ」


 それ、日本語に訳すと脳筋って意味にならない?


「……だが、その間ジャックはどうする? レイスナイトと周りのアンデッド達までは相手取れるが、ジャックまでは手が回りそうにない」


 逆にレイスナイトと同時に他のアンデッドも抑えられるのかよ。

 どんだけデバフで弱体化してたんだ。


 ジャックの評していた脳筋ゴリラって、あながち間違いでも無いんじゃ……。


「……(ニコォ)」

「……まあそれに関しては心配すんなよブランさん。あとげんこつをぷるぷる震わすのはやめてくれ。

 ……大丈夫。俺だって後ろでイキるだけじゃなく、何かの役には立ってみせるさ。30秒持つかは分からないけど……なるべくジャックを足止めしてみせる」


 その代わりブランさんは、出来るだけ早くレイスナイトを追い込んでください。


 ……ってな具合で作戦も決まり、俺とブランさんは共に身構える。


「……作戦会議は終わりかな? ちょっと予想外の余興で盛り上がりそうだけど、上げて落とすのもまた悲劇の醍醐味。

 ……そろそろ僕も本格的に参戦して良いって事だよね。きししし……!」


 ジャックは楽しそうに笑うと、黒杖を指揮棒のように振りかざす。

 統率の取れた動きでアンデッド軍も身構える。


 剣、槍、弓、杖、指揮棒、闇の大剣、元錆びついていた今は光輝く大剣、女神様のパンツ。


 様々な武器を構えた者たちが、その場で沈黙のまま睨み合う。

 そして、いま、一斉に――!


「「うおおおおお――ッ!」」

「きししし――ッ!」


 飛び出した!!


『――【黒雷撃】』


 先手を打ったのはレイスナイト!

 先程も放っていた極太の魔法剣(ビーム)を振り下ろし、漆黒の雷砲が地面を抉りながら飛来する――!


「――【迫雷撃】!!」


 だがそれをブランさんが素早く間に入り、白い稲妻のオーラを纏った大剣でズガァンと迫撃――打ち返す。

 ……ってビームってテニスみたいに打ち返せるのかよ!?


『――ッ!!』

「まだまだッ!!」


 一太刀振るう毎に、白と黒の雷撃のエフェクトが鳴り響く。


 そのまま両者はビームでラリーを始めてしまった。攻防の余波で、周囲のアンデッド達がかわいそうな事になっている。


 とんだ怪獣大決戦だよ!!


「……けど、これで他の敵を気にする必要は無くなった。あとは……!」

「きしし。僕と君の一騎打ち……って言いたいのかな?」


 ドォォン!


 ひときわ大きな爆発音が轟いたと思えば、ブランさんとレイスナイトが鍔迫り合いを始めていた。

 まだ戦いが始まって5秒ほど。

 ブランさんの予告KO宣言通りなら、あと25秒で決着がつく。


 ……つまりそれだけの時間、俺はジャックを足止めしなければならない。


「……そうだな。あっちはブランさんに任せて、俺はお前をパンツする」

「君が? スライムにも劣る貧弱な力量で?

 ……まいったなぁ、僕、喜劇は専門外なんだよねぇ。……あと、パンツするって何?」


 言ってろ!

 別にお前を倒す必要は無いんだ。

 それに、俺には時間稼ぎの秘策がある!


 ちなみにパンツするはノリで言ってみただけで、特に深い意味はない。

 ジャック相手に女神様のパンツで殴っても倒せないだろうしな。


「……さて、君を殺せばブランカ・リリィベルは元に戻るだろうから。……せいぜい長く、僕を楽しませてよね?」


 ジャックが杖の先に魔力を込め始めた!

 こっちも戦闘開始か。


 だったら見せてやるぜ。

 さっき思いついた俺の秘策!


「食らえジャック! 俺の必殺魔法を!」


 そう言いながら、俺はポケットからスマホを取り出す。


 なぜここでスマホ? と、疑問に思う方もいるだろう。

 しかし考えてみて欲しい。


 ……ファンタジー世界にとって、スマートフォンはさながら未知の技術。

 スマホの機能を駆使して、ジャックをビビらせてやろうという作戦だ。


 ジャックは杖を指揮棒のように振るったり、技名に音楽系の名前が入っている。

 つまり、奴に対抗するなら音系の機能が一番ではないか、と俺は考えた。


「だったらこれでいくぜ……!」


 俺はスピーカーモードをONにして、スマホにダウンロードしてあるお気に入りの睡眠導入音声――『妹系幼馴染ちゃんのドキドキ密着安眠法♡』(総再生時間47分)――を、その場に大音量で流し出す。


「食らえ必殺! 耳舐めASMRスピーカー!」


『お兄ちゃん、お耳の奥舐めてあげるね? じゅぼぼぼぼずぞぞぞぞぞ』


「な、なんだこの奇妙で耳がぞわぞわする音は!? 何かの呪文の詠唱か!?」


 よし、ビビってるな!

 音楽系=耳が良さそう=耳が性感帯、という俺の完璧な推理力!!


「気味悪いからさっさと殺そ」

「え」


 悲報。スマホの時間稼ぎ、1秒で終わる。


「――《最上級・即死魔法(ハデス・レクイエム)》」


 黒杖の先から悪霊の煙が噴き出し、ケタケタと笑いながら不気味な音楽が奏でられる。

 こいつは室内で使われた魔法だな!

 即死魔法は確かに危険だが、俺には“幸運判定”を補助する、女神様のパンツがある!


「無駄だジャック! 俺に即死魔法は……」

「……効かない。だろう? きしし、浅いねぇ、これだから僅かな刻しか生きられない種族は。

 いいかい? 魔法やスキルってのは何も、そこに記された効果の通りに使うだけのものじゃない」

「……?」


 ジャックの狙いは即死じゃない……?


 即死魔法の煙によって、ジャックの姿が見えなくなった。

 ……いや、ジャックだけじゃない。

 そもそも俺の視界全てが、悪霊のような煙で埋め尽くされて……。


「……まさか! 俺の視界を塞ぐのが目的か!?」


 ジャックはまるで、出題したクイズを理想通り答えてもらったかのように、嬉しそうな声音で返してきた。


「魔法にはこういう使い方もあるってことさ。

 ……そして、これで君は僕の攻撃を見ることができない。

 “音”によって飛来する死の恐怖を、たっぷりと堪能するといいさ」


 やばいやばいやばい!

 まだ戦いが始まって15秒!

 ブランさんに頼るわけにはいかない!


 ていうか即死魔法をただの目眩ましに使うとか贅沢すぎるだろ!?


 俺は今から視界ゼロの中、音だけでジャックの攻撃をやり過ごさなきゃいけないのか!


「《音階魔弾・攻撃魔法アップライト・バレット》」


 そうこうしてる内に、ジャックが魔法攻撃の準備に入る。

 この技名は確か……、ブランさんと戦った時の攻撃魔法!


 派手な音がする魔法なもんで、印象に残っている!


 なるほど、“音”で死の恐怖を与えてやるとか言っていたが、この魔法なら適任って事か。

 こいつは確実に俺を葬るのではなく、あくまで恐怖を与えた上で殺したいんだな。


「……その油断がお前の敗因かもしれないじぇ」

「きしし……震え声で嚙みながら言われてもねぇ。だったら逆転してご覧よ? ……絶対に無理だろうけど!」


 ジャックが杖を振るう風切り音と共に、煙の向こうから様々な音色を響かせ、黒い魔法の球が飛んでくる――!


「…………ッ!!」


 スローになる思考の中、俺は考えを巡らせる。


 ブランさんとの攻防を見ていた時、この魔法攻撃にはある法則があるのでは無いかと俺は思った。


 大小様々な音色……まるでピアノの音階のように、決まった動きで攻撃が飛んでくる。

 要するに、音のドレミファソラシドに応じて攻撃の位置が変わるのだ。

 高い音は高所から、低い音は低空から。

 そして、ジャックのこだわりなのか、一連の攻撃はまるで楽曲のような規則性を持っている。


 ……つまり、絶対音感の持ち主なら、この攻撃を音だけで避けるのは理論上可能ってわけだ。


 あの魔法の攻略法は思いついた。


 問題は、俺の音感と身体能力でついていけるかどうかだ。

 ドッチボールで無駄に狙われて、避けるのだけは上手かった小学生時代を思い出せ!


「……それに音楽は唯一、人から褒められた事がある科目なんだよな」


 別に楽器が演奏できる訳でもなく、単に「黒江君って音感があるのねー」程度のもの。

 それでもこの場でなら、この無意味だった長所も、意味を成すかもしれない。


「だから嬉しくてドヴォルザークとかEエルガーとか、苦手な人名の暗記も頑張ったんだよな……!」


 音に合わせて攻撃を避ける。

 まるでダンスだ。


 だったら見せてやるよ。ネットミーム仕込みの、華麗な体さばきを。


 食らえジャック!


 これが俺の、魔王軍幹部に反省を促すダンスだ!!


「なんとでもなるはずだ!」

「バカな!? 視界ゼロの中、変な踊りをしながら僕の魔法をかわしきっただと!?」

「踊る必要あったのか?」


 ブランさんのツッコミが飛んできた気がするが、きっと空耳だろう。

 とにかく攻撃はかわし切った!

 残り時間はあと5秒……!


 このまま時間を稼いでブランさんがレイスナイトを倒してくれるまで――、


「……少し舐めすぎたか。ならば、かつて『切り裂きのジャック』と謳われた、即死魔法以外の得意呪文で葬ってやろう」


 やばいジャックから慢心が消えた!?

 まだ視界を塞がれたままなんだが、次も音だけで避けないといけないのか!?


「食らうがいい! 《満ち欠けの音斧クレッシェンド・アクス――》」


 しかも聞いたことない技名!

 初見の攻撃を視界ゼロで避けるのはさすがに無――、


「――【雷光斬】!」


 ブランさんの叫びと同時に。

 聖なる力を込めた雷光の斬撃が、煙を吹き飛ばしながらジャックの元へと飛来する。


「ガはッ……!?」


 斬りつけられたジャックは口元から黒い瘴気を吐き出し、帯電するかのように光がバチバチとほとばしる!

 ジャックは初めて苦しそうな表情で膝をついた!


「すまないクロエくん。余計な気回しだったか?」


 ブランさんは俺の側に着地すると、雷光のエフェクトを鳴らしながら、大剣をくるりと回して構え直す。


 ……いやん、イケメン……乙女になっちゃう。

 うふん。


「クロエくん……だから気持ち悪いぞ、それ」


 再び少女漫画みたいな顔になった俺にドン引きしながら、ブランさんは前に出る。


「……ていうか、ごめんブランさん。ギリギリ30秒持たなかった……」

「気にするな。レベル5一人で、魔王軍幹部級相手にこれだけ粘ったのだ。むしろ誇りに思いなさい」


 力強い笑みで俺の背をポンと叩くと、そのままジャックを鋭く睨む。


「……さあ、ジャック。残りは貴様と満身創痍のレイスナイトだけだ」

「なに……!?」


 ジャックがハッとした表情で後ろを見やり……、そこにはなんと、苦しそうに剣を突き立て膝をつく、大きなダメージを負ったレイスナイトが!


 対するブランさんは、俺がテイムする前に負っていた傷以外、目立った外傷はない。


 レイスナイトとの対決は、どう見てもブランさんの圧勝だった。

 

「バカな!? 闇に堕ちた自分自身を相手に、ほぼ無傷で勝利を収めたと言うのかッ!? だいたい〖レイスナイト〗はデュラハンより上位の魔物だ! たった30秒ほどで決着などつくはずが……!」


 どんどん焦りの感情が噴出するジャックの言葉に、ブランさんは淡々と切り返す。


「ああ……。クロエくんにテイムされたおかげか、私は魔物として生前以上の力を発揮できているらしい。

 対するレイスナイトはパワーが増した代わりに、怨念で冷静さを欠いた自分自身。ステータス上は私より強かろうと、思考回路はすべて読み通りという訳だ。

 ……この世で一番楽な作業だったよ」


 ……ひょっとして俺なんかより、ブランさんの方が無双系主人公にピッタリなんじゃなかろうか。


「……まさか、奥の手を使う事になるとはね」


 ジャックは引きつった笑みを浮かべると、黒杖をレイスナイトの方へ向けた。


「ブランさん! あいつ何かするつもりだぞ!」

「そのようだ。……クロエくんは私の後ろに。恐らくこれが最後の応酬になる」


 奴が何かする前に止めを刺したい所だが――残念ながら、ジャックは既にその何かを発動していた。

 

「――終焉の楽章よ。十七からなる楽曲を越え、我が未完の十八番に仮初めの命を吹き込まん――」


 ジャックの口端がニヤリと歪む。

 この街を覆う魔法の霧から漆黒のエネルギーがあふれ出し、黒い渦のようにレイスナイトの方へ集まりだした。


「な、なんだあれ!?」

「……固有奥義、か。通常、どのような存在も一度に装備できるスキルや魔法は十七個までだが、ごく稀に限界を超え、ステータス上には記されない、十八番目の技へと至る者が現れる」

「それじゃあこれって……」

「文字通り、ジャックの奥の手だ」


 それでジャックは十七とか十八とか、詠唱で唱えていたのか。

 詠唱を終えたジャックは、勝ち誇ったように叫ぶ。


「……この街に漂っている、死者たちの残留思念。それらを全て、この〖レイスナイト〗に集中させて強化する。そうなれば君たちは終わりさ!」

「奥の手って言った割にはシンプルで捻りがない気が……」

「道化は黙っててくれないかなぁ! 君に求める喜劇性はもう必要ない!」


 どうやら俺は眼中にないらしい。

 ……まあメインで戦ってるの、ブランさんだしな。


「さあ生まれ変われ――! 【オーバー・アンデッドメイク】!!」


 ジャックの黒杖が魔力の渦に耐え切れず、儚い音と共に砕け散る。

 だがそれに見合うだけのアンデッドのエネルギーがレイスナイトへと集まり、闇の魔力の奔流が、背中に漆黒の翼を生み出した!


「見るがいい! 我が固有奥義(十八番)【オーバー・アンデッドメイク】によって強化された、最強の〖レイスナイト〗! そして、闇に転じた究極の魔法剣を受けるがいい!」


 ノリノリで謳うジャックが言うだけあり、確かに〖レイスナイト〗はこれまでよりもゴツく、禍々しいオーラに満ちていた。

 ブランさんにやられたダメージも回復しているようだ。


 けれど……なぜだろう。


 俺を護る様に立つブランさんの背を見ると、ちっとも不安は感じない。

 斜め横から見えるその笑みが、勝利を確信した主人公のように輝いているからだ。


「そこまで行くと、もうそのレイスナイトは私とは思えないな。悩んでいた自分がバカらしい。そもそも本当に私だったのか?」


 ブランさんの問いかけに、冥途の土産とばかりに答えるジャック。


「なら教えてあげようか。これは君の抱いた“無念”。街を護る事無く死んだ自分自身への怒りを僕の力で具現化させた残留思念だ。デュラハンとして蘇った君は確かに本物のブランカ・リリィベルだ。だがこちらもある意味で本物。

 安心して朽ち果てるがいいさ!」


 だがそんなジャックの台詞を気にもとめず、ブランさんは俺の方へ振り向く。


「クロエくん。今から超大技の撃ち合いが始まる。実は私も持っているのだ、固有奥義を。……だが互いに最強の技を撃ちあえば、この広場は無事では済まないだろう」

「じゃあ、俺はどうすればいい?」


 なるべく身の震えを誤魔化しながら訪ねると……ブランさんは優しく微笑んだ。


「そうだな……今のクロエくんは私を従える魔物使いだ。ならば主らしく、後ろでドンと構えていなさい。……私の背後が、世界で一番安全だと思わせてみせる」

「……おっけー!」


 そのまま俺が後ろへ下がったのを確認し――。

 ブランさんは大剣をぶん回し、勢いよく地面へと突き立てた!


「――聖なる光の(いかづち)よ、無骨なる(つるぎ)に宿りて、超越の轟砲を打ち鳴らせ――!」


 ――大地が揺れる。

 震源は間違いなく、ブランさんが突き立てた光り輝く大剣。

 それは雷光のオーラを激しく震わせ。広がってゆく亀裂をものともせずに、ブランさんは目を閉じ、静かな美声で詠唱を謳いあげる。


「ブランカ・リリィベルも固有奥義を使うつもりか。……だが、このレイスナイトは、君が生前有していた奥義を越える技を放てる。

 ――さあやれ! レイスナイトよ!!」 


『【堕つる闇雷の黒刃撃アンサンダー・カリバーン】……』


 向こうはもう準備万端みたいだ。

 こっちは間に合うか……?


 ……俺の心配をよそに、ブランさんはカッと眼を見開いた。

 そして、地面を抉りながら大剣を引き抜き、逆手に構えたものをすぐさま、滑らかな回転と共に上段へ掲げる。


 ――瞬間。

 鼓膜を破らんとするほどの轟音が、天上より雄大に鳴り落ちた!

 剣に纏われた雷光のオーラはうねるように肥大し――、まるで巨神の後光であるかのように、薄暗い霧の街を真っ白に照らし出す!


 お互いに技の準備は完了。

 後はもう……純粋な力比べだッ!!


「やれぇッ! レイスナイトォォォォォォォ!!」

『――――ッ!!』

「ドンと構えてるぜブランさん!」

「ああ、任せてくれ、クロエくん。これが我が固有奥義(十八番)――!

 【雷霆・聖光刃撃ライトニング・エクスカリバー】――ッ!!」


 ――雄大なる雷霆の光刃。

 ――対するは肥大化した闇雷の黒刃。


 両雄から放たれた最強の一撃は――!

 ――拮抗する事なく、徐々にブランさんの攻撃が競り勝ってゆく……!


「――ッ!? 何故だッ! 想定よりこちらの威力が低く……いやっ!? これはまさか――弱体化している!? レイスナイトが!?」


 驚愕するジャックに対し、ブランさんは振り下ろした大剣を勢いよく突き出す!


「……この街の人間の優しさを甘く見たな。彼らはあまりにも心優しく……優しすぎたが故に、貴様たちの侵攻を許してしまった。それは策を弄した貴様たちの方がよく分かっているのではないのか?」

「くッ……!」


 よく分からないが、どうやらブランさんの自信は、この事態を見越しての事のようだ。

 残留思念を集めたとかいうジャックの固有奥義は、結果として向こうの戦力を大きく削る結果となってしまったらしい。


「ま、敗ける……? この僕が? せっかく前回生き残ったのに、こんなところですべてゼロに……? き、し、しし……これでは……道化は……僕の方……」

『…………』


 引きつった笑みを浮かべながら――、雷霆の光刃に飲み込まれるジャック。

 そしてレイスナイト。

 薄ぼやけた輪郭のレイスナイトは……、……一瞬、優しく笑ったような気がした。


 ――彼らの消え入るような断末魔を残し、雷光の奔流は広場を跡形もなく吹き飛ばす。

 ブランさんが剣を切り上げると同時に、天を貫く大きな光柱となった。


 ……後に残ったのは、激しい力のぶつかり合いで抉れた地面。

 そして、ブランさんの一撃によって消し飛んだ、分厚い雲からの晴れ間だけだった。






【本日の更新(4/4)】


明日の更新分で、第一章のエピローグとなります。

次回更新は明日の7時頃の予定です。

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