表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/39

第11話 そして永い夜は明ける

「皆……。このような弔いですまないが、どうか安らかに眠って欲しい……」


 ジャックを倒した後。

 俺とブランさんは、残っていたアンデッド達を浄化し、簡易的な墓を作ることで弔った。


 ジャックの支配から解き放たれた彼等は、俺達を見ても抵抗することなく、すんなりと浄化を受け入れてくれた。

 ……一部例外はあったけれど。 


「……うめき声しかあげないゾンビなのに、浄化方法を見た女性の皆様からえらく非難された気がするんだよなぁ」

「本当にこのような弔いですまなかった……っ!」


 俺の横でブランさんが苦悶の表情を浮かべているが、心当たりは俺が指でつまんでいる女神様のパンツしかない。

 ちなみにパンツからはゾンビたちの腐臭が漂っていた。


 ……いやまぁ、俺だってこんな形で悪かったとは思うけどさぁ。


「なんかブランさんが固有奥義ってのを撃った後、急にテイム状態が解けちゃったから……」


 俺とのテイムが解けた事で、ブランさんはスキルがマイナスに働いてる状態に戻ってしまった。

 そのせいで俺達の浄化手段が、また女神様のパンツだけになっちゃったのだ。


「……どうやらクロエくんとのテイム状態は一定時間しか保たないらしいな。互いのレベル差が主な原因だとは思うが……」

「まあ、俺のステータスってかなり貧弱らしいし……」


 ブランさんは俺の【モンスターテイム】を受ける際、抵抗力をわざと極限まで下げた状態だったと言う。

 そして、奥義を放つ瞬間、魔力を爆発的に高めた為に、使用後はテイム状態を保つ事が出来なかったとか。


「高ぶった魔力が自然と霧散されるまで、しばらく再テイムはできないだろう」

「まあ他に魔物は居ないみたいだし、不幸中の幸いって奴かな」


 俺は墓に向き合い、日本式の作法で手を合わせた後、その場から立ち上がって空を見上げた。


「さて……と。色々ありがとうブランさん。俺はもう行くよ」


 ジャックを倒した事で、街を覆っていた霧は解除されている。

 灰色の雲にぽっかりと空いた晴れ間からは、夜更けの近付きつつある日の明かりが幻想的に差し込んでいた。


「もう旅立つのか?」


 ブランさんは墓と向き合ったまま訪ねてくる。


「ああ」


 正直、あんなに強かったブランさんに一緒に来てほしい思いはあるが、彼女がこの街に未練があるならば、無理強いはできない。


「ブランさんこそいいのかよ? 街の人達と一緒に成仏しなくて」

「一応、私はデュラハンだからな。日の光や、クロエくんの持つ女神様の…………その、聖装備だけでは、浄化する事はできないだろうから」


 あ、パンツって言うのを露骨に避けた。耳元も真っ赤だ。

 やっぱり恥じらいとかあったり、けっこう乙女なんだなこの人。ぷくく。


「……ふう。……それに、まだ心残りもあるしな」

「心残り?」


 内心で笑ってたのがバレてげんこつを食らった俺は、涙目になりながら聞き返す。

 するとブランさんは真面目な表情になり、俺の顔をまっすぐ覗き込んできた。

 なんだか気まずい。


「……クロエくん。貴方は自分よりもはるかに格上であるジャックに対し、勇気を振り絞って立ち向かった。

 勝つ保証はない……いや、勝つ見込みのない戦いであったのにも関わらず、だ。

 普通に考えれば、何もかもを見捨てて逃げるのが正解だろう。

 始めから強い人間が戦うのは簡単だ。しかし、自分の弱さを知る者が、勇気を奮い立たせて戦うのは難しい。

 ……クロエくん、私がこれから言いたいことを、貴方は分かるだろうか?」


 急に真面目な話になったな。


 ……まあ。うん。

 ブランさんが何を言いたいのか、バカな俺でも何となく察せられる。


「なるほどな。つまり、戦力外のクセにしゃしゃり出てんじゃねーよぼけがよって話だろ?」

「ぜんぜん違う」


 違ったらしい。


「クロエくん……。どうも君は、妙な所で自分に自信がないらしい。私が言いたい事はだな、君には人を救える強さの一片……即ち“勇気”があるという話だ」

「変態の汚名を被る勇気ならいつでも……」

「そこは自信を持たなくていい」


 こほん、と咳払いした後。ブランさんは再び真面目なムードで俺と向き直る。


「ひとつ問いたい。クロエくん、君はなぜ、勇気を持って戦う事が出来たんだ? ……あ、ちなみにおふざけは無しに答えて欲しい」


 心外だ。

 俺はいつだって全力で生きてんのに。

 だからふざける時だって全力全開。


 けど、何故と聞かれると答えは簡単だ。

 俺のモットーはいつだって決まっている。


「そりゃあ、もろちん女の子にモテたいから……」

「…………(笑顔でげんこつを構える)」

「あ、いやーえっと。……俺のモットー、『明日を笑顔でいるために』って言葉の為だよ。

 モヤモヤしたまま一日を終えたって、明日を前向きな気持ちで迎えられないからな」


 明日も、明後日も、その先も。

 ずっとずっと笑顔でいたいから。


 だから俺は、一生後悔するような事はしたくない。

 クサい言い回しだろうと構わない。

 これだけは譲れない、俺のポリシーなんだから。


「……どんなにつらい事があっても、終わってみれば楽しかった方がいいじゃん?

 『ああ、今日もバカバカしかった』

 『明日も一日頑張ろう』

 そう思える、魔法の言葉にしたいんだ。

 『明日を笑顔でいるために』……この言葉だけには、俺は嘘をつきたくない」


 そして願わくば。

 こんなバカバカしい男の痴態を見て、こんなくだらない話があるもんだと笑って欲しい。

 ネガティブな意味ではなく、笑う事で、人生は捨てたもんじゃ無いんだと、誰かに感じて欲しいんだ。


 ……まあ、そこまで言うと照れくさいから、やっぱり俺はふざけてお茶を濁すんだけどな。


「おっぱい!!!!! おぱんつ!!!!!」

「やめなさい」


 ブランさんのチョップが飛んでくるが、力の入っていない、軽いツッコミだった。

 見やると、彼女は呆れたような笑みを浮かべていた。


「……明日を笑顔でいるために、か。マリィと同じ事を言うんだな」

「マリィ?」


 身長差があるので彼女を見上げる形で問うと、まるで年下の友人にでも向けるような、穏やかな視線が返ってくる。


「生前、私の主君であり、親友でもあった王女殿下だ。彼女もクロエくんと同じ言葉が口癖だった。

 『明日を笑顔でいるために』……素敵な言葉だ。誰かの受け売りなのか?」

「いいや。自分で考えた。良い言葉だろ?」

「ふふっ……そうだな。自画自賛しなければもっと良い」


 俺がそう言うと、ブランさんは感慨深そうに目を伏せる。


「そうか。……ひょっとするとクロエくんは、彼女の生まれ変わりなのかもしれないな」


 そんな爆弾発言を添えて。


「なんだか雰囲気がそっくりだ。バカっぽい所とか特に」


 主君をバカ呼びして良いのかそれ。


「……ていうか俺の前世が王女様? ないない!」


 俺の前世が王女様だったら、今世は王子様レベルのイケメンモテ男になってるはずだ。

 そもそも変態非モテ野郎の前世が王女とか、最悪のTS転生になっちまう。


「無いのか?」

「作者に聞かないと分からん」


 まあ前世の事は置いといて、ひとつだけ言えることはある。


「それにさ。俺と王女様の口癖が同じだって言うなら……」

「言うなら?」


 ちょっと照れくさいので、俺は視線をやや逸らすと。


「少なくともブランさんの言う……えっと、素敵な言葉を考えた人間? ……ってのが、世界には二人以上いるって思った方がお得……じゃないか?」


 するっと頭から出てきた言葉を口にして、なんだか無性に恥ずかしさを覚える。


 ……何やら大いなる意志に言わされた感があるぞ、このセリフ。


 『ケツがかゆくなる』という言い回しがあるが、まさにそんな感じだ。

 心なしか、本当にムズムズしてきて……いや、これトイレに行きたいだけだわ。


 そういや忘れてたけど、俺ってトイレに行きたいんだった。

 ジャックへの恐怖心が勝るまでは漏らす寸前だったからな。一段落ついて便意が蘇ってきた。


 一方、俺の言葉を聞いたブランさんは目を丸くしており……、


「…………ふふ。そんな所もそっくりだ」


 その笑みに、何だか懐かしい物を覚えた気がした。




「……さて。クロエくんは、冒険者になるつもりだと言っていたな」

「ああ、うん。どっかの街で冒険者になって。ひと山当てて、かわいい女の子達からチヤホヤされながら、うはうはハーレムライフを満喫する予定」

「……動機が不純だぞ」


 不純でけっこう。


「そこで相談なんだが、クロエくん。どうか、私をあなたの冒険に連れて行ってくれないか」

「それって……」

「君の仲間にして欲しい、という話だ。魔物使いとなった君の、テイムモンスターという形にはなるが……」 


 え、ブランさん仲間になってくれるのか。

 まじかよ、やったぜ。

 トイレに行きたい状況じゃなけりゃ、その場で踊り出しそうな位の朗報だ。


「……『力だけでは心は救えない』、……『勇気だけでは力及ばない』。私の時代には、このような格言があってな。

 ならば私は、君の『勇気』を支える、『力』となりたい」 


 ブランさんはかしこまった口調でそう言うと、その場に跪き、騎士らしく姿勢を正す。

 そして、


「クロエ・ユキテル殿。どうか我が雷光の剣技、貴殿の雷霆として振るわせて頂きたく。

 そして願わくば、未来の勇者となるかもしれないあなたを護り、導かせて欲しい。……今度こそ、な」


 傍らに置かれた錆びついた大剣を手に取り、力強くその場に突き立てた。


 勇者……俺に勇者の素質があるってか。

 俺はフッと笑うとブランさんに向けて、


「俺、めんどくさいから勇者になるつもりないよ」


 ネット小説とかの勇者ってのは、大抵ヘイト役だと相場が決まっている。

 俺は好き勝手に生きるナロー主人公ポジが良い。


 そもそも勇者召喚からハブられてる状況だし、なりたくてもなれないと思うしな。

 なれるとしたら、変態という名の勇者だけだ。


「そこは似てないのか!? ……まあいいか。たとえ宿命を背負ってなくとも、真の勇者ならおのずとその道を歩むはずだ。ふふふ」


 なんか怖いこと言ってる気がするぞ。


「これからよろしく頼む。……クロエくん」

「こっちこそよろしく。……ブランさん」


 こうして俺は、ブランさんと主従の契り? を交わしたのだった。




「……ところでついて来てくれるのはありがたいんだけどさ、その前にお願いがあるんだ」

「うん?」


 俺は脂汗を浮かべながら、腹痛で中身のなくなったカレーパ◯マンみたいな顔して尋ねる。


「………トイレ、何処にあるか知らない?」


 そろそろマジでやばい。

 およそ人体より発せられる芸術的な美しき駄音をブリリアントに奏でちゃいそうだ。


「お、大きい方か!? ちょっと待て、あたり一面吹き飛んだから、無事な建物なんて何処にもないぞ! 私はあっちで目を閉じて両耳を塞いでおくから気にせずそこで済ませて来い!」

「俺が気にするんだよぉ! 女の人の横でトイレするのはめっちゃ恥ずかしかった!」

「経験があるのか!? さ、最近の子は進んでるな……」


 詳しくは『第1話 世界で一番下品な異世界テンプレ』を参照して欲しい。


「だいたい廃墟とは言え、街の広場で堂々と大便できるほど俺の肝は座っちゃいねぇ! 綺麗好きの日本人として意地がある!」

「ああもう! じゃああっちの建物を丸ごと掘り起こしてくるからちょっと待ってろ!」


 いま建物を丸ごと掘り起こすって言ったか?

 やはりブランさんって脳筋ゴリ……、


「この状態でげんこつをすればどうなると思う?」

「間違いなく漏らしますすんませんでした」


 にこやかな顔でキレながらげんこつを震わせるブランさんに戦慄しつつ、迫りくる汚いオーケストラの伴奏にさらなる身震い。

 これはマジでヤバババーン!


「実はけっこう余裕あるだろクロエくん。……まったく、もう少し待っていなさい」

「ご迷惑をおかけします。……あ、やばい。そろそろ本気で漏れそう! 下品なオーケストラが始まっちゃう!!」

「くっ……ジャックと戦った時より大変な気がするな……! これから大丈夫なんだろうか私達は……」


 呆れながら瓦礫を掘り起こすブランさんと、顔芸をしながら苦しみ悶える俺。


 霧の晴れた広場には、朝焼けの光が舞い込んでいた。

























(およそ人体より発せられる芸術的な美しき駄音)



【本日の更新(1/2)】


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 第一章は次回で最後です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ