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10:教育的指導


 私は苛立ってた。それはもう苛立ってた。

 毎日毎日大量の迷惑メールとスパムメールのように届いてくる陳情と嘆願書に爆発しそうだった。


 ヴィオレット様が直接言えばいいと仰っていたので、私はジェルに乗ってそれはもう猛スピードで走らせていた。


 早すぎて失神した。



「マリー様ぁぁ!」



 ハッ!

 あ、危ない。私の恥ずかしい姿を見られる所だった。キリッ!


「遅いわよ、ウィル」

「ジェヴォーダンが早すぎるのですよ……」


 ウィルはスレイプニルに乗っていた。背後にはいつものオーガさんたちもスレイプニルに乗って周囲を警戒していた。


「ここがレステンクール侯爵家の領地で間違いないわね?」

「はい」


 ふっ。秘技、目を強く細める!

 説明しよう! 秘技、目を強く細めるは、目を細めるより強めたものだ! 何をすればいいかわからない時、食らわせた相手に何かをさせるときに使う!


「すぅぅ! 我ら、魔の王マリー様の臣下である! 誰かいるか!」


 耳が痛くなるほどの大声でウィルが叫ぶと、遠くからゴゴゴと音を立てながら大量の魔人と魔物が現れた。

 彼らは現れると声を揃えて叫ぶ。


「「王ヨ! 王ヨ! 我ラガ気高キ魔ノ王ヨ!」」


 私がジェルの上からゆっくり手を上げると叫び声が収まっていく。


「ここの長は誰だ?」

「はっ! 私です、マリー様」


 見覚えのある、目がキッラキラに澄んでいる人狼が出て来た。


 おまえかーい! お前が送りまくってるのか!


「で、お前は何が言いたい?」

「我らの多くは肉食ゆえ……野菜は……」


 ふざけてんの! そんぐらい我慢して食べなさいよ!


「ふん。無様だなヴォルフ」


 え、ヴォルフって名前なの? 安直すぎない?


 私を他所に二人が口喧嘩をし始めたので手で制す。


「やめなさい、二人とも。ヴォルフ、レステンクール侯爵家のところまで案内しなさい」

「はっ!」


 ヴォルフが私に背を向けると群がっていた魔物たちは、ワッと道を開けて私を囲うようにしてまるで大名行列のようにレステンクール侯爵の家へ向かった。




 ◆◇◆




「ほう。噂に名高い寵愛の子にして魔を統べる鮮血姫の第六皇女マリーがわざわざここまで」


 う、うん? なんか長くなってない?

 いや! だめよ、私……気にしたら寝れなくなる!


 ふん! 秘技、目を細める!


「ふん。愚妹から聞いてる通り、やりづらい相手だな……だからこそ魔物たちに愛されているってわけか?」


 ヴィオレット様の兄上であるレステンクール侯爵のテオフィルさんは、腕に抱えている可愛らしい子猫の魔物を撫でながらニタニタと私に嫌らしい笑みを見せてくる。


 あなたも魔物好きなの?

 なんかますます原作と違いすぎない?


 私の視線に気づいたテオフィルさんは手を止めた。


「ふん。愚妹が魔物魔物うるさいからな。戯れに飼ってるだけだ」


 戯れにしたってすっごい懐かれようだけど……めっちゃ指を舐めてますよ、その子猫の魔物。


「魔物たちから陳情が来ております」

「わかっているよ。俺の領地にいるボンクラ貴族どものことだろ? 俺も常々忌々しいと思ってるよ」


 ん? 貴族?


「俺もそろそろ首をすげ替えるか、消そうと思っていた所だ。都合よく来てくれたおかげで、一気に潰せるようだな。おい!」


 テオフィルさんが誰かを呼ぶと騎士が二人入って来た。


「こいつらは俺の信頼できるところの息子たちだ。お前たちも話を聞いていけ」

「「はっ!」」

「話の発端は子爵と男爵だ。やつら、魔物が悪さをしなくなったと思いきや、魔物の売買を始めておってな」


 なぬぅ! なんてことを!


「しかも相手は別大陸の国だ。突き止めたのはいいが、この俺に対してそんなこと知りませんとほざいてきやがった」


 教育的指導が必要ですね……。


 私の怒りに感化されて雷が放出される。


「おいおい。ここでいきりたつな。そう言うわけで皇女様には面倒をかけるが始末して欲しいわけだ。俺がやるとどうしても公爵や辺境伯からネチネチ言われるから……な」

「承知しました。場所を教えてください」


 すぐに教育的指導してやる!


「おい」

「こちらが地図になります」


 ふむふむ、ここから北の方ね。


「直ちに魔物たちを引き連れて行きます」

「よろしく頼むよ、皇女様。ククク」


 テオフィルさんは胡散臭い笑いをしながら、優しい手つきで子猫の魔物を撫でた。



 その晩、侯爵の領地にいた大量の子爵と男爵の頭がすげ替えられ、代わりに魔物たちが領主として統治するようになった。

 魔人や魔物は人類史初、貴族としての階級と市民権を得る。



 このことは帝国で血の粛清事件と呼ばれるようになった。




 ◆◇◆




 あるむさ苦しい酒場。


「なんでも寵愛の子にして魔を統べる鮮血姫であられるマリー様が大量の貴族様を……」


 一人の男性が親指で首を切る動作をする。


「したらしい」


 強面の男性が顔を楽しそうに歪める。


「ひぇ、おっそろしいな」

「だな……だがやっていたのは昔から悪さをしていたやつらだ」

「ふん、天誅が降ったってやつだな」

「だな!」

「酒がうめぇぜ」


 ちょっと間抜けそうな男性が酒を先走って飲んでいた。


「おいおい、まだ乾杯してねぇだろ!」

「わりぃわりぃ」

「寵愛の子、第六皇女マリー様に乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 そのような話が帝国のあらゆる場所で持ちきりになっていた。


 耳聡いジェレミーはそのことを知り、いつもの嫌がらせで食事の時に話題に出す。

 自室へ戻ったマリーは枕に顔を押し付けて足をバタバタさせたという。




 無の境地に至ったアルは百キロはあるだろう鉄の塊を音も立てず、素振りをしていた。

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