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9:陳情

 私は悲しかった。それはもう悲しすぎて、魔物たちを連れて肩で風を切るぐらいには。


 くそぉぉ! 何が寵愛の子よ!

 サンドラちゃんには学友になって欲しいって言ったのに、なんでクラスみんな舎弟感あふれてるのよ! もっと普通に接しなさいよ!


 マリーはサンドラを使って友達を作ろうとしたが、サンドラはまるで狂信者のようにクラスの子たちにマリーの素晴らしさを説いたせいで、みんなマリーを敬うようになった。



 マリーの心は荒んだ。



 家に帰らずウィルを呼び寄せ、屈強な魔物を引き連れて森を闊歩していた。

 その姿はまさしく悪鬼羅刹の王。


「うん?」


 そんな悪鬼羅刹の王は何かに気づいた。違った、マリーは気づいた。

 視線の先には最近やってきたのか、若い魔物たちが人間の女の子に絡んでいた。


 私の森で何してるのよ!


「行きなさい」


 私は凍える声で命令すると背後の魔物たちが若い魔物に群がりボコボ……教育的指導をおこなっていた。

 数分もせず顔を腫らした若い魔物たちは半殺……首根っこを掴まれて私の前に引きずられてきた。


「コレハ、ドウ、サレマスカ?」

「ウィル」

「はっ。私が責任持って教育させます」


 ウィルは若い魔物たちを嫌悪するような目で睨みつけ、オーガに連れて行けと目で合図をする。


 マリーが女の子に視線を戻すと。


「キャーッ!」


 逃げていった。


 え、えぇ……。

 無駄に綺麗なフォームでダッシュする子ね……。

 あれ、でもどこかで見たような気も……?


 って違うわ!

 今の私はイライラしてるのよ! 森で悪さする魔物たちに教育的指導をしまくってやるわ!


「どうなされますか? マリー様」

「何?」


 教育的指導に文句でもあるっての?!


「あの失礼な人間を……」


 あっ、そっちの話?


「別に構わないわ。数人連れてあの子の警護でもしなさい。あの子が街に入ったら、戻ってくるように」

「はっ。おい、行け」

「ワカリ、マシタ」


 オーガが数名ドシドシ足音を立てながら追いかけていった。



 教育的指導ぉぉ! 教育的指導ぉぉ!



 喧嘩ばかりしているゴブリンや調子に乗ってわがまま放題のオーク、下克上を企んでいた吸血鬼たちをどんどん教育的指導するマリー。

 翌日、帝国の森からは魔物の被害がぱったりなくなって安全な森になった。教育的指導は大事ですね!



 ◆◇◆



 第二皇妃ニノン様のご実家である、デュカス辺境伯の当主さんが私に会いにきた。


「いくつかの魔人と魔物を借りてもよろしいか? マリー様」


 開幕いきなりワケワカメです。

 もっとこう、説明が欲しいんですけど。


「どうしてでしょうか?」

「わかっているのにもったいぶるとは……さすがは寵愛の子にして魔を統べるマリー様」


 な、なんか増えてる……。


 ちっ、しょうがないわね。秘技! 最近会得した、目を細める! 

 解説しよう! 秘技、目を細めるとはマリーが目を細めると、なぜか相手が勝手に説明する技だ! ぜひみんなもわからない時にやってみて欲しい!


「我が領地はレステンクール侯爵家と比べるほど多くはではないが、大部分を魔の森と隣接していておりまして。絶えず魔物との戦いに明け暮れていましたが、マリー様のおかげで魔物とは友好関係を結ぶことができました」


 そ、そうなんですね。友好関係を築いているならもう大丈夫じゃない?

 というか、そんなことでわざわざ遠くからいらしたの?


 私は横に控えているウィルを見ると、強く頷いて辺境伯に近づいた。


「我が高潔なる魔の王マリー様が承諾した。貴公には我らから吸血鬼の一族と人狼の一族を一時的だが、向かわせよう。もし奴らが良いと言うのであれば引き抜きでもなんでもしろ」

「すまない。ウィル殿」


 えぇ……なんで辺境伯が魔人に頭下げてるの?

 立場おかしくない?



 ◆◇◆



 翌日、第一皇妃ヴィオレット様のご実家でもある、レステンクール侯爵家付近に住んでいる魔物から陳情が飛んできた。


 わっ!

 ついに原作と同じで魔物憎しが来てしまったのか!


 私は急いで紙を開いて読んだ。


『ヤサイ、タベタク、ナイ』


 ビリビリに破いた。



 翌日、また同じ紙が届いたからビリビリに破いた。



 翌週五十枚ぐらい同じ紙が届いたから、暖炉に放り込んで燃やした。



 さらに翌週、数百枚の紙が届いていた。




「マリー様……侯爵家付近にいる配下から陳情が来ております」


 ウィルが片膝ついて私に悲しい表情で話しかけてきた。


「何よ?」


 そんなに改まって……。

 ハッ! もしかしてついに野菜じゃなくて本格的に、魔物を奴隷にしたり虐待を?! すぐに止めなきゃ!


「嫌いな野菜を無理やり食べさせられている……と」


 ……まーたそれか!


「我ら魔物は肉が主食なので野菜はあまり好まない仲間も多く……侯爵家の領地では嫌がらせのようにご飯時に野菜がたくさん入っているそうで……グゥ、侯爵家め!」


 えぇ、なんであんたまで歯軋りしてるのよ。


「はぁ……私からレステンクール侯爵家に、連絡が取れる第一皇妃のヴィオレット様へ話をしてみます」

「マリー様! ありがたき幸せ。我ら醜い魔物にすらその慈悲深き心……」


 ウィルは感激してザメザメ泣いた。


 や、野菜ぐらいきちんと食べなさいよ……。


 そんなやりとりをドアの隙間から血涙を流しながらアルが見ていた。


 その時、アルが掴んでいる場所がミチミチ言っていたのは……き、気のせいだろう。十二歳になったアルの身長が百七十五センチをついに超えたのも見間違えだ! いいね?




 ◆◇◆




 私はコンコンっと、ある一室をノックした。


 すると中からバタバタと騒がしい音がしたかと思えば静かになって「入りなさい」と威厳のある声が聞こえてくる。


「失礼いたします。本日もご機嫌麗しくヴィオレット様」

「ごたくはいい。何の用?」


 いつもなら長い髪が綺麗なストレートになっているのに、今のヴィオレット様の髪は乱れていた。


 どうしたんだろ?


「わふわふ」


 うん?


 音の方向を見るとクローゼットの隙間から、侍女が可愛らしい魔物の子犬を抱えていた。


「ご、ごほん。いきなり私の部屋に入ってきて、よそ見するとは良い度胸ね?」


 な、なんでこの人、魔物を部屋に入れてるの?

 ゲームじゃ魔物嫌いだったよね? そのせいでジャックが荒んだとかあった気がするんだけど……。


 主にあなたのせいです。


「あの……言いにくいことなのですが、ヴィオレット様のご実家の方で……」

「ふん? 何? 魔の王になったあなたは人の領地にまで文句を言うつもりかしら?」


 ぐぅ、さすが第一皇妃様。言葉がグサグサ刺さります……。


「魔物たちから陳情が来ています」

「で?」

「それで、なにとぞヴィオレット様からなんとか言っていただければ」

「あなたが直接言ったら?」


 うぅ……。ヴィオレット様が冷たい……。


「あっ!」

「わふわふ!」


 ちっちゃい魔物の子犬がクローゼットから飛び出し、私の周りをくるくる臭いを嗅ぎながら回る。


 なにこれ可愛い。

 こんな魔物どこにいたのかしら?


「ご、ごほん! わ、私の方で言っとくので戻りなさい!」


 あ、はい。


「ありがとうございます」


 私は裾を摘んで一礼してから部屋から出る。


 ふぅ、これで一件落着ね!




 翌日、千枚単位で嘆願書が届いた。中身は『肉の中に野菜が混じってる! 嫌だ!』という内容だった。私は一枚一枚丁寧に破り捨て暖炉に突っ込んだ。

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