『3』(全6話構成)
幸い、鹿島さん家族は死者どころかけが人は一人も出なかった。通帳とか貴重品は結衣ちゃんのお母さんがなんとか持ち出して助かったみたいだったけれど、その他のものはほとんど焼けてしまった。
そんな中、結衣ちゃんのお母さんが何とか守り通したものに、一枚の写真がある。木でできた写真立てに飾られた、一枚の写真。そこには、こっちを向いて笑顔で手を振る鹿島さん家族が映っている。燃える家から逃げる際、玄関に立ててあったのをとっさに掴んで助かったらしい。溜めてあったアルバムや、デジカメで撮った写真を保存していたパソコンも焼けてしまったから、鹿島さん家族の思い出の品は、これ一品くらいしか残っていないと言っても、言いすぎじゃないと思う。
その写真立ては、今は僕の家のリビングに飾られている。住む場所を借りる鹿島さん家族が少しでも気を張らずにくつろぐことができるように、僕のお母さんがリビングに置くことを勧めたらしい。
「サトシ、早く食べないと学校遅刻するわよ。結衣ちゃんはとっくに出てるんだから、早く食べなさい」
ぼんやり写真立てを眺めているとお母さんに怒られたので、僕は急いでご飯をお腹の中に流し込んだ。
学校に行っても、結衣ちゃんは今日もあまり元気がない。初めは、クラスの友だちも、結衣ちゃんに気を遣って火事のことを聞いたりしなかったし、ふざけて火事について聞きに行く男子は、女子からすごい攻撃を受けた。
でも、三か月も結衣ちゃんの様子がおかしいと、初めは味方だった女子も段々薄気味悪くなってくる。ちょっかい出してた男子も、あいつおかしいぞって言って近づかなくなる。結衣ちゃんは、今日も一日のほとんどを、自分の席に座ったまま過ごしている。
鹿島さんの家が焼けた原因は、放火の線が強いらしい、とテレビでやっていた。火事が起きた時、結衣ちゃんのお母さんはガスの管理はきちんとやっていたし、火をつかうようなことも何もしていなかったからだ。
火元は、裏手のゴミに投げ込まれたマッチらしい。
「斎藤、よそ見すんなって。話聞けよー」
「ごめんごめん」
机に突っ伏して寝ている結衣ちゃんの表情は、よくわからなかった。




