008
数日が過ぎた。
ついに、軍隊に参加する者の名簿が完成した。
今日、全ての新兵が大きな広場に集められた。空気は厳かで、冷たく、そして各々の顔には緊張の色がはっきりと浮かんでいた。
一人の士官が高い壇上に上がり、羊皮紙の巻物を手に、大声で読み上げた:
「告ぐ! 今年の新兵は総勢320名である!」
群衆の中からざわめきが上がった。
320人――大袈裟ではないが、少なくもない数字だ。
「諸君は8つの班に分けられる! 各班40名!」
「班分けの目的は、班同士の競争を生み出すことにある! 競争あってこそ成長がある! 比較あってこそ、誰が強く、誰が弱いかが分かる!」
「そして、様々な物事を効率的に進めるためでもある!」
太鼓の音が響いた。士官たちが次々に名前を呼び始める。
「第1班!」
「アーサー・ヘイズ!」
「ベンジャミン・コール!」
「セドリック・ヴァンス!」
「……ニコ・アラート!」
ニコは自分の名前が一番最初の班で呼ばれたことに驚いた。
「第1班か…」
彼は心の中で思った。
*「きっと父さんが手配したんだな。」*
彼は第1班の列に並び、一人の男のすぐ前に立った。その男は非常に**厳しそう**な雰囲気を漂わせていた。
**キース・ヴァンダーウッド**――彼らの班長だった。
彼は彫りの深い顔立ちをし、刃物のように鋭い目つきをしていた。手入れの行き届いた短い髭を蓄え、背筋をピンと伸ばし、両腕を胸の前で組んでいる。百戦錬磨の戦士が持つ威厳を全身にまとっていた。
彼はまだ自己紹介すらしていない。まともな言葉を一言も発していないのに、いきなり**怒鳴った**:
「**全員、黙れ!**」
班全体が一瞬で静まり返った。
「お前たち! この門をくぐった者どもよ!」
彼は列の間を歩きながら、刃のような目で一人一人を見渡す。
「俺の名はキース・ヴァンダーウッドだ! そしてこの瞬間から、俺はお前たちにとっての地獄となる!」
「この場所に参加する者は皆、屈辱に耐えねばならん! 困難に耐えねばならん! 人生で最も過酷な日々を経験することになる!」
彼の声は雷鳴のようだった。
「ここでは、怒鳴られる! 罵られる! 肉体を酷使される! お前たちが今まで誰からも言われたことのないような酷い言葉を浴びせられる!」
「**だが!**」
彼は立ち止まり、一人一人の目をまっすぐに見つめた。
「ここでは、兵士たる者は皆、我慢せねばならん! より強くなるために我慢する! 己自身を乗り越えるために我慢する!」
「**分かったか!?**」
「**ハイッ!**」――班全員が声を揃えて叫んだ。
ニコは列の中に立ち、心臓をドキドキさせていた。
*「なんてこった…入った早々、これかよ…」*
しかし、彼は隣の列に視線を向けた。
そして**見覚えのある二人の顔**に気づいた。
一人は**レイル**――彼の師匠だ。彼はまさに**第1班**の中に立っていた。相変わらず気まずそうな顔をしているが、手足は既に戦闘態勢に入っている。
*「やっぱりな! 先生も参加してたんだ!」*
そしてもう一人――
**カエル!**
あの日、教会でニコがぶつかった黒髪の少年も、**第1班**の中に立っていた。彼の顔は宝くじに当たったかのように輝いている。
カエルもニコに気づいた。彼は小さく手を振り、満面の笑みを浮かべた。
ニコもつられて笑った。心の中が不思議なほど温かくなった。
*「最高だ…ここに友達がいる!」*
---
しかし、喜びは長く続かなかった。
キース・ヴァンダーウッド――あの厳しい班長は、檄を飛ばす演説を終えると、すぐに**怒鳴り散らした**:
「**全員! 今すぐ訓練を開始する!**」
そしてその午後、第1班全員は、過酷な体力トレーニングで**完全に使い潰された**:
**1. 兵営周辺の無秩序なランニング**――500メートル周回コースを20周。遅れた者はさらに5周の罰走。
**2. リズムに合わせた腕立て伏せ**――300回を3セット。班全員がキースのかけ声に合わせて同時に体を下ろし、同時に押し上げる。一人でもリズムを間違えれば、全員最初からやり直し。
**3. 木造の塔登り**――高さ15メートルの塔に、ロープを使って登り、また降りる。これを10回繰り返す。手が擦りむけて血が出ても、続けなければならない。
**4. 土嚢を抱えてのジグザグ走行**――30キロの土嚢を抱え、柵、砂地、土壁などの障害物コースを走る。転んでも立ち上がって走り続けろ。
**5. 一対一の格闘**――ペアを組んでの自由格闘。防具なし。あるのは拳と意志だけだ。倒れて立ち上がれなくなった方が負け。
皆、顔を真っ赤にして、汗をびっしょりかいていた。その場で嘔吐する者もいた。膝をついて倒れる者もいたが、キースの蹴りで無理やり立たされた。
「**立て! ここは弱者のための場所ではない!**」
ニコは息を切らしながら、必死に倒れまいと踏ん張った。
*「なんてこった…初日からこれか…3年後には俺、超人になってるんじゃないか…」*
カエルが彼の横を走り抜けた。息は切れ切れだが、まだ笑っている。
「ニコ! 頑張れ! 死にはしないさ!」
「**お前、よくそんな軽く言えるな!**」――ニコは叫び返しながら、必死に足を動かし続けた。
レイルは黙っていたが、彼の目は奇妙な輝きを帯びていた。彼は全てのトレーニングを難なくこなしていた。まるで準備運動のように。
---
夜になり、皆が疲れ果てて倒れ込むように眠りについた頃、ニコはボロボロの身体を引きずって部屋に戻った。
ドアを開けると、**レイル**が既に待っていた。
「先生…師匠…今日はもう、本当に疲れました…」
レイルは少しの同情も見せずに彼を見た。
「疲れたのか?」
「はい…」
「よし。ならば今から魔法の訓練を始める。」
ニコ:「…………」
「師匠…」
「「でも」も「なんとか」もない。座れ。土を感じ取れ。」
ニコは深くため息をつき、床にドサッと座り込んだ。
こうして、彼の一日はまだ終わっていなかった。
**毎日同じだ:午前中は軍隊の訓練、夜は魔法の修行。**
しかし、不思議なことに――彼は決して諦めたいとは思わなかった。
*「この生活…確かに辛い…でも…なんか…楽しい。」*
彼は目を閉じ、魔法の流れを感じ取り始めた。
外では、月が高く昇っていた。 毎週末、兵士たちは日曜日に休息を与えられた。
それは、午前4時に起きる必要も、兵舎を20周走る必要も、腕が壊れるまで腕立て伏せをする必要もない、週で唯一の日だった。
しかしニコにとって、日曜日は休日ではなかった。
それはアレックスが彼に剣術を教える日だった。
早朝、皆がまだ眠っている頃、ニコは既に父と共に訓練場に立っていた。手には木剣、額には汗の粒。彼は基本動作の一つ一つを黙々と反復していた。
「もっと高く! 足を広げろ! 体の回転を速く!」
アレックスが絶え間なく怒鳴る。
ニコは文句を言わなかった。ただ黙って従った。
彼の頭の中に、前世の記憶が突然よぎった。
あの頃、彼はアキラだった――部屋に引きこもった敗北者。彼はよく昔の同級生たちを批判していた。
「そんなに勉強して何になる? 社会に出て何ができるんだ?」
「一日中本に埋もれて、子供時代も楽しみもない。」
「そんな生き方に価値があるのか?」
しかし今、振り返ってみると…
あの連中は――成功していた。
良い仕事に就き、幸せな家庭を築き、アキラが一度も手にしたことのない人生を送っていた。
一方、自分は?
何も持っていなかった。
「そうだ…」
ニコは歯を食いしばり、剣をより強く振った。
「奴らは若い頃に努力した。だから奴らの人生は、その努力に値するんだ。」
「それに対して俺は? 俺は努力しなかった。だから何も得られなかった。」
「今回こそ…今回こそ、同じ過ちを繰り返してはならない。」
訓練の最中、突然アレックスが口を開いた。
「ニコ。」
「はい?」
アレックスは深い眼差しで息子を見つめた。
「もしお前が家族を大切に思うなら…」
彼は一瞬間を置いた。
「お前は家族の他の者たちの代わりに苦しみを引き受けなければならない。」
ニコは真剣に耳を傾けた。
「お前が苦しみを引き受けないなら、お前は彼らが自分の代わりに苦しむ姿を目の当たりにすることになる。」
「お前はどちらを選ぶ?」
ニコは黙った。
彼の頭の中に、アンナの姿が浮かんだ――いつも彼を心配する優しい母。エレナの姿――銀のネックレスと、彼が旅立つ日に潤んでいた瞳。そしてアレックス――彼の目の前に立ち、教えるために汗で背中を濡らしている父。
彼は剣を強く握りしめた。
「俺は苦しみを選びます。」
アレックスはうなずき、口元をわずかに緩めた。
「良いだろう。では続けろ。」
そしてニコは再び剣を振った。
より強く。
より逞しく。
一ヶ月が過ぎた。
休みなく続く体力訓練と格闘訓練の日々。
その結果は驚くべきものだった。
ニコは部屋の鏡の前に立ち、映る自分の姿を見つめた。
彼の体は完全に変わっていた。
かつての脂肪の腹は消え、代わりに引き締まった腹筋がくっきりと浮かび上がっていた。腕はより力強く、足はよりしっかりと地を踏みしめていた。
ニコは微笑んだ。
「悪くない…」
第1班の中で、ニコは特に二人と親しくなった。
一人はレイル――彼の謎めいた師匠。
レイルは相変わらず気まずそうで控えめな外見を保っていた。しかし全ての訓練課題を、彼は易々とクリアしていた。それどころか、他の者よりも余裕さえ見せていた。ランニング? 散歩のように軽々と。腕立て伏せ? 水を飲むかの如く。塔登り? 猿のように軽快。
その結果、月末には班のメンバーたちがレイルを班長に選出した――彼が望んだからではなく、彼以上にふさわしい者がいなかったからだ。
もう一人はカエル――教会でニコが出会った黒髪の少年。
カエルはレイルとは正反対だった。活発で明るく、いつも笑い声を絶やさない。しかし訓練となると、カエルも非常に真剣だった。レイルほどは上手くないが、常に全力を尽くしていた。
この三人――レイル、ニコ、カエル――は、すぐに第1班で固い絆で結ばれたトリオとなった。
今週、訓練プログラムに大きな変更がもたらされた。
攻撃魔法の代わりに、新兵たちは治癒魔法を学ぶことになった。
そして即座に、困難が襲いかかった。
治癒魔法は、彼らがこれまで学んできたどの魔法とも異なっていた。それはミリ単位の繊細さと正確さを要求した。
講師――モルガナという中年女性――が説明した:
「攻撃魔法は岩を砕くようなものだ。十分に強ければそれでいい。」
「しかし治癒魔法は、その岩の割れ目を修復するようなもの。強すぎれば岩は粉々になる。弱すぎれば割れ目は塞がらない。」
「お前たちは、負傷者の一つ一つの細胞、血管、呼吸を感じ取らねばならない。」
「そして、適切な場所に、適切なタイミングで、適切な量のエネルギーを送り込まねばならない。」
教室は静まり返った。
難しい。
あまりにも難しい。
最初の課題:葉っぱの小さな切り傷を治すこと。
各人は、小さな切り傷をつけられた葉っぱを一枚渡された。課題は、その切り傷を完全に治すこと――まるで最初から切られていなかったかのように。
結果は惨憺たるものだった。
大半の者は失敗した。エネルギーを送り込みすぎて葉を枯らす者。力の制御ができずに葉をさらに引き裂く者。何時間座っていても何も起こらない者。
モルガナは首を振った。
「ひどい。あまりにもひどい。」
しかし彼女は、二人の前で立ち止まった。
一人はレイル。
彼の葉は完全に治っており、跡形もなかった。
モルガナは眉を上げた。
「…見事だ。」
もう一人はセレナ・ヴァンスという少女――班で唯一の金髪で、碧い瞳を持つ娘だった。彼女は物静かで、共同活動には滅多に姿を現さなかったが、誰もが彼女が生まれつきの魔法の才能を持つことを知っていた。
セレナの葉も、まるで最初から切られていなかったかのように美しく治っていた。
モルガナは満足そうにうなずいた。
「よろしい。この二人はできている。残りは…」
彼女は落胆した群衆を見渡した。
「…練習を続けなさい。今週はこれだけをずっとやるのだ。」
教室中がうめき声を上げた。
ニコは手の中の枯れた葉っぱを見つめ、ため息をついた。
「治癒魔法…本当に難しい…」
隣のカエルも愚痴をこぼした:
「ああもう、俺は五枚も葉っぱを台無しにした!」
レイルは黙って二人を見つめ、口元をわずかに緩めて謎めいた微笑みを浮かべた。
「君たちも必ずできるようになる。」
彼は軽く言った。
「ただ、十分に練習すればいいだけだ。」
ニコはレイルを見、それからセレナを見た。
そして彼は再びうつむき、自分の枯れた葉っぱで練習を続けた。
毎日は休みなく続く訓練の渦の中で過ぎていった。
朝4時に起床し、兵舎の周りを20周走る。その後はキース・ヴァンダーウッドの監視下での格闘訓練――筋肉がちぎれそうなほどのトレーニングの連続。午後は魔法訓練、攻撃魔法か治癒魔法のどちらか。そして夜、皆が疲れて眠りにつく頃、ニコはまだアレックスとの剣術訓練か、レイルとの追加の魔法訓練を受けていた。
彼のスケジュールはびっしりで、空き時間など一切ない。
しかしニコは愚痴を言わなかった。ただ黙って従い、日々を重ねていった。
なぜなら彼は知っていた――前世では、何度も何度も諦めてきたからだ。今度は、そんなことを繰り返すまいと心に決めていたのだ。
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今日は格闘訓練の後、全新兵が広場に集められた。
一人の士官が高い壇上に上がり、羊皮紙の巻物を手に読み上げた:
「告ぐ! まもなく16個班による大会が開催される!」
あちこちからざわめきが上がった。
「この大会で最も優秀な20名が、特別な班に選出される!」
「彼らは個別に育成され、本格的な訓練を受けることになる。重要な試練を乗り越えれば、正規軍に参加することが許される――軍で大成したい者にとっては、確固たる足がかりとなるだろう!」
ニコは目を細めた。
*「20名の優秀者…」*
士官は続けた:
「諸君も知っての通り、基本訓練期間は3年である。だが、全員が最後まで残れるわけではない。弱すぎる者は脱落する。」
「そして、この大会で勝利した班は…言うまでもなく、特別な注目を浴びることになる!」
広場全体がどよめいた。
ニコの血が熱くなるのを感じた。
*「来たな…自分を証明するチャンスだ。」*
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その夜、ニコは第1班の共用食堂でレイルやカエルと一緒に座っていた。
彼らの食事は質素なものだった:黒パン、野菜のスープ、少しの塩漬け肉。しかし3人は美味そうに食べながら、楽しそうに会話を弾ませていた。
「なあニコ、あの大会についてどう思う?」――カエルがパンを噛みながら尋ねた。
「いい機会だ。」――ニコは簡潔に答えた。
「うん、俺もそう思う。でもレイルなら楽勝でトップ20に入るだろうな。」
レイルはスープを一口すすると、無表情のまま言った。
「どうかな。」
「また謙遜してる!」――カエルが大笑いした。
ニコもつられて笑った。
しかしその時―
隣の席から怒鳴り声が聞こえ、楽しい雰囲気が断ち切られた。
「**何て言った?!**」
一人の青年が突然立ち上がった。顔を真っ赤にしている。彼は少し長めの茶色い髪、燃えるような深い青色の瞳を持っていた。
彼の前には、うつむいて震える一人の若い兵士がいた。
「**怖いだと?!**」――茶髪の青年が怒鳴った。「**死ぬのが怖いだと?!**」
食堂中の視線が彼らに集まった。
「**俺たちは何のために軍隊に入ったんだ?!**」
彼は若い兵士の襟を掴み、引き上げた。
「**戦うためだ! 守るためだ! 自分を守れない者たちの盾になるためだ!**」
「**それなのに、お前は怖いだと? 怖いなら、母さんのところに帰れ! ここに臆病者の居場所などない!**」
若い兵士は震え、目を赤くしていた。
「で…でも…」
「**でもも何もない!**」
茶髪の青年は襟を放し、彼を椅子に突き飛ばした。
「**兵士の理想は、息が続く限り戦い続けることだ! 敵の前で決して退かないことだ! 仲間のために、国のために、背後の大切な人々のために、喜んで犠牲になることだ!**」
彼は見渡し、食堂にいる一人一人を目で追った。
「**わかっているのか?!**」
「**もし皆が死を恐れ、自分だけのことしか考えなければ、誰が戦う? 誰がエルドリアを守る?!**」
彼の声は部屋中に響き渡った。
彼の背後には、腰まで届く長い黒髪の少女が黙って立っていた。墨のように深く、吸い込まれそうな黒い瞳。彼女は腕を胸の前で組み、正面を見据え、一言も発さなかった。
ニコはスープを一口すすると、平然と言った:
「へえ。いいね。なかなかの演説だ。」
茶髪の青年が振り返った。
「今、何て言った?」
「いい演説だって言ったんだ。」――ニコはスプーンを置き、彼の目をまっすぐ見つめた。「でもな…」
彼は立ち上がった。
「**お前みたいな弱虫が、偉そうに語るんじゃねえよ。**」
空気が凍りついた。
食堂中が静まり返った。
茶髪の青年は固まり、目を見開いた。
「て…てめぇ、今なんて?!」
「事実を言ったまでだ。」――ニコは相変わらず平然と、両手をズボンのポケットに入れた。「口では高尚な理想を語る。戦いについて、犠牲について。」
彼は青年を頭の先から爪先まで見渡した。
「でも俺は、お前が自分の仲間を罵る以外に何かしたところを見たことがない。」
「お前は彼を臆病者だと言う。死を恐れると言う。」
ニコは一歩前に出た。
「少なくとも彼は、自分の恐怖を認める勇気を持っている。それに比べてお前は、自分の恐怖を派手な言葉で隠して、強がってるだけだ。」
茶髪の青年の顔が怒りで真っ赤になった。
「**よくも…**」
彼は飛びかかり、ニコの襟を掴んだ。
ニコは抵抗しなかった。ただ彼の目をまっすぐ見つめ、奇妙なほど平然とした表情を浮かべていた。
「喧嘩したいのか? ここで? 皆の前で?」
彼の声は軽かった。
「いいぜ。やれよ。そしたら明日、二人とも兵舎内での喧嘩で大会から追放だ。」
「**それが望みか?**」
茶髪の青年は震えた。彼はニコの襟を強く握っていたが、やがてゆっくりと手を離した。
彼は一歩後退し、荒い息をついた。
「…チッ。運が良かったな。」
彼は背を向けて立ち去った。
黒髪の少女は相変わらず黙っていた。しかし立ち去る前に、彼女はニコを見た――長く、深く、計り知れない眼差しで。その漆黒の瞳は何かを語りかけているようだったが、やがて彼女は軽く会釈し、青年の後を追った。
ニコは立ち尽くし、二人の影が扉の向こうに消えていくのを見送った。
カエルがほっと息をついた。
「ったく…一体何なんだ、ありゃ?」
レイルは最初から最後まで黙って座っていた。しかし彼の目は細められ、何かを思い出そうとしているかのようだった。
「エルドリック。」
ニコが振り向いた。
「は?」
「あの男はエルドリック。エルドリック・ヴォス。」――レイルがゆっくりと語り始めた。「西部辺境の出身だ。奴の家族は、奴が8歳の時に起きた急襲で全滅した。奴は3日間、死体の山の下に隠れて生き延びたんだ。」
ニコは黙った。
「それ以来、奴は誓ったんだ。二度と誰にも、自分が味わったような悲劇を味わわせない、と。奴は臆病風以上に憎むものはない。」
レイルはスープを一口すすった。
「そして、一緒にいた娘は…」
彼は少し間を置いた。
「ライラ。ライラ・ヴァンス。セレナの従妹だ。彼女も同じ急襲で家族を失った。エルドリックが彼女を救った。それ以来、彼女は影のように彼に付き従っている。彼を脅かす者があれば、誰であろうと殺す覚悟でな。」
ニコは再び扉の方を見た。
頭の中には、あの漆黒の瞳がまだ焼き付いていた。
*「ライラ…」*
カエルが彼の肩を肘でつついた。
「おい、何考えてるんだ?」
ニコははっと我に返り、首を振った。
「何でもない。」
しかし心の中では、奇妙な感覚が湧き上がっていた。
*「二人とも…家族を失ったんだ。」*
*「それでも戦い続けてる。」*
彼は自分の手を見下ろした。
*「それに比べて、俺は…何を嘆くことがある?」*
---
食堂の外、冷たい月明かりの下で、エルドリックとライラは黙って歩いていた。
「ライラ。」
「…」
「あのニコって奴、どう思う?」
ライラはしばらく黙っていた。
「彼は…他の者とは違う。」
エルドリックが足を止めた。
「どういう意味だ?」
ライラは月を見上げた。漆黒の瞳が銀色の光を映していた。
「彼の目には…痛みがある。しかし同時に、決意もある。そして彼が話す時…少しも怯えていない。」
彼女はエルドリックを見た。
「彼は悪人じゃない。」
エルドリックは長い間黙っていた。
やがて彼は歩き出した。
「…分かってる。」
ライラは何も言わず、ただ黙って彼の後を追った。月明かりの下に長く伸びる影のように、常に彼を守る覚悟で。




