Episode:沈没の日(残された国土)
ショッキングな表現が含まれています。
2025年10月17日14時11分、それは、予言通りやってきた。弐本人は、それをそれぞれの避難船の中で見守っていた。最初に東都湾直下型地震、M9を記録、2分後、四州沖地震M10、さらに5分後、伊紀半島付近でM8、同時国、東弐本M8揺り返し地震、3分後、最後に愛屋県沖M8が十数分の間に起こったのである。状況は避難船のモニターや衛星映像、ドローンの映像がリアルタイムに各避難船のモニターに映し出されていった。映像を見たものは、泣き崩れ、拝むもの、持っている写真を見るもの、それぞれが思い思いのことをしながら、その時間を微動だにしない避難船の中で耐えていた。
「あの映像は、本当なのか?」
「地割れが起きているけど、この船は安全なの?」
そこに”津波第一波来ます、衝撃に備えてください”とアナウンスがあったが、船の中には衝撃は、まったく届かなかった。避難者は、外の状況と避難船内様子のギャップに戸惑いながら、地震の瞬間を耐えきった。
まもなく、続いて太洋側へゆっくり大地が傾き、海へと引きずりこまれる様子が、映像で映し出されていった。
みんなは、もう沈むんだとモニターから目をそむけた、まるで映画で見るようなシーンが続き、微動だにしない避難船の中の人々の体は、映像によって体を力ませる緊張状態が続いていた。
数時間後「ああ、大地はもう見えない」という声や嗚咽、すすり泣く声が艦内全体で共鳴していった。
艦内アナウンスが流れた『震災は落ち着きを見せています、今後について政府より通達がありますので、みなさん19時にレストランにお集まりください、尚、ご気分のすぐれない方は、無理をせず、自室のモニターでの確認をお願いします。・・・』
19時になると、ほとんどの人たちがレストランに集まった。
大モニターには、首相が映し出されていた。19時と共に首相が話し始める。
『皆さん、こんばんは。本日、我が弐本国は未曽有の巨大災害に見舞われました、我々の大地は海に沈みました。数年前から共に、この日のために準備をしてきたわけです。が、予測していたとはいえ、あまりの現実の凄惨さに、わたくしも言葉がありません。見てください、これが現在の弐本国です。』というと、衛星からの映像が徐々に拡大されていく、海は黒く濁って見えたが、そこに大地は映らなかった。ただし弐本だった海域にはポツンポツンと何かが映っている。
拡大するにつれ、それが弐本の艦隊であることを、みんなは理解した。沈まず残った北道の上と下に、沖島にひとつ、九国の上と下に、5つの艦隊が待機している。
だが、他にも、かつて弐本だった海域の20か所に同じように艦隊が待機しているのが写し出されていた。
「なんであんなところにも」と首を傾げるものもいた。
首相は続けた『わたくしは、今日を震災の日として記憶にとどめたくはない。新しい弐本の未来の始まりの日として、記憶に残していきたいと考えます。幸いなことにみんな無事でした、過去の震災では、多くの被害にあわれた方がいましたが、それよりも巨大な厄災に耐え、我々全員、無事で今を生きています、弐本国は、今日のこの日を ”希望の日” として国民の祝日と定め、新たな一歩を踏み出したいと考えます、皆さんと一緒に、シン弐本国を築いていきましょう』、首相の難しくなく、それでいて優しい言葉は、聞く人みんなの心に染み込んでいった。拍手が徐々に増していった。
艦内アナウンスからは、”皆様、本日まで大変ご苦労様でした、本日は政府より、特別メニューが届いております、どうぞお召し上がりください” と流れると、これでもかと言わんばかりの珍しい料理が、後を絶たずテーブルに運ばれていく、その時初めて、みんなは、ほとんと食事も取っていなかったことに気付いたのだった。
ある程度、食が進むと、みんなの顔色も明るいものに変わってきた。
そして誰ともなく、「避難船!動いてないか?」という声が上がりだした、多くの人がそれを実感したとき、大モニターに映し出された映像に、国民すべてが涙を流した。
避難船が一斉に動き出し、かつて弐本だった海岸線をなぞるように、避難船がかつての弐本国の姿を形どっていった。
「弐本だ!弐本が見える・・」
そこに首相が『弐本国の皆さん、全世界におられる弐本人の皆さん!弐本はここにあります、全員無事でいます』と伝え、避難船で弐本の形が完成した時、改めて、すべての艦隊の待機ポイントが、この形どられた弐本を防衛せんとする位置にあったことを国民は知った。そして、少しずつ未来の話をする声が増えていった。
これは世界中にも映像は流れ、あれだけの災害において、一人もけが人を出さなかった弐本の姿勢は、全世界の人々の心を打つものであった。
「みな、3年もの間、ご苦労じゃったの、国土は救えんかったが、人命は全員救えたのぅ、これからは、復興に向けて、力を貸してほしい、よろしく頼むわい」
「これでよかったわけねーだろう!情けない」と榊がテーブルを叩いた。
「でもさー、死者ゼロだよ、すごくない?」と神原はこの結果を吞み込もうとしていた。
御神は今までの心配ごとを、「そうですよね、みんなに信じてもらえなかったら、博士たちと会えなかったらと思うと・・・」と目に涙を浮かべ訴えた。
「僕たちは、まだまだ足りないものが多いね、いくら知識があっても、経験もないからね、早速だがリザレッド、プレート切断の再準備、シミュレーションから頼めるか」
「成神、あんたいつもほんと、クールね、感心するわ」
「うん、神原さん、僕らが少しでも早く動けば、きっと、もっと良くなるんだ・・・そして、ガルムたちは・・・」と成神はガルムを探そうとすると、すかさず康美が成神に「ガルムさんたちは、弐本のレンジャーの人たちと出かけましたよ!国際救助活動だって言って、すでに前日から、津波被害にあう予測ポイントの島に住む人々を ”浦島”に避難させていましたし・・・」
成神は「そっか、よし」というと、座っている榊たちを急き立てるように「ほらほら、地球人がいつまでも座ってないで、動いた動いた」とみんなの肩をポンッと叩いて歩きだした。
この日の世界のニュースは、こぞって「最大の被災国弐本、各国の救助活動に最初に到着!」と報道したのだった。




