9-12:コニーの侍女活動
今回は少し短めです。
9-12
俺--じゃない。私。そう、私。うん、大丈夫。
私はコニー。ケイリュオン領で侍女見習いをやっている元孤児だ。だが、ただの侍女見習いじゃない。専属侍女候補だ。結構優遇させてもらっている自覚はある。私自身は元が孤児だから、少しずつ直すようにしてはいるけどガサツだ。今の待遇に見合うよう努力中。そんな私が仕えているのはケイリュオンの領主様の孫であるお姫様。
元々孤児だった私がよくこんな就職先を得られたなと、自分を褒めてやりたい。そりゃ、領主様や姫様のおかげっていうのが大きいのは分かってるけど。でも、今の立ち位置にふさわしくある様に日々努力してるつもりだ。
本来、専属侍女は筆頭侍女であるマーサさんの試験を突破した上級侍女しか就けない。それが前提条件で、あとは姫様との相性、領主様のお眼鏡に適ったら。なのに、私が就くことができる予定なのは、姫様と顔見知りだったから。縁故採用ってやつだ。
だから、他の元々は冒険者だったり、狩人、前のクソ領主の代の時に侍女だったという連中からはイビられたりもする。勿論イヤな連中ばっかじゃない。専属の先輩であるナディさんとイリーナさんは優しく教えてくれるし、マーサさんは厳しいけど、ちゃんと作法の試験に合格すれば褒めてくれる。
あとは…最初は正直怖かった亜人の2人。ララァナさんとルゥ。2人は姫様が巻き込まれたという、ある事件の時から一緒だという。侍女の中でも一番の古株だ。2人共、姫様が第一らしくって、一定以上の距離を姫様から殆ど離れない。姫様は気付いてるのかな?いや、気付いてなさそう。
まぁでも、同僚としてなら歓迎。男顔負けの力があるし、会話も普通に…ルゥはアレだけど。ララァナさんとは普通に会話もできるし。あとは、姫様の護衛のテュリス。テュリスは最初の内は「さん」を付けてたんだけど…たまに頭がおかしいような行動を取っていたので、それ以来呼び捨てにしてる。まぁ、私には実害無いからいいけど。
とにかく、今の同僚はナディさん、イリーナさん、ララァナさん、ルゥ、テュリスで姫様の専属を回している。そこに新しく後輩に当たるミュゼという子が入ってきた。
セイレーンという、下半身が魚みたいになってる亜人だ。ララァナさんもそうだけど、何で亜人の女性って美女とか美少女ばっかりなの!?納得いかない!
おっと、清楚に清楚に…
えーと、そう。とにかく今はミュゼよ、ミュゼ。私だって専属候補になる前から努力してたし、今だってそうだ。なのに、ポッと出の新人が専属入りしたのは気に食わない。
それにこの前の視察だって私だけ留守番だったし!姫様が留守の間も部屋の掃除や維持は大切なのは分かるけど酷くない!?まぁ、姫様の部屋に入り浸っているマルタやパック、モナ、ベン、ロルフと触れ合えたから、良いけど…
でも、帰ってきたら専属が増えていたというのは、酷い。そして私がミュゼの教育担当だというのだから、なおのこと心が荒む。
「あっ、わっ、ちょっ…!」
カンと甲高い音を立てて、本日4枚目の皿を落とした。貴族の皿は本来であれば毒殺を警戒して、何かあれば反応しやすい金属である銀製らしいんだけど、ここでは違う。
「今、ウチに金属製の皿を作ったり買ったりする余裕なんかないです。皿に使うくらいなら、武器や防具、開発に使います」
って、姫様が御触れを出して、木製になった。姫様はスキルで危険を察知できるらしくって、毒を盛られたら分かるらしい。領主であるリガウス様は毒が効きにくいらしい。
そんなわけで、木製の皿をいくら落としたところで割れないんだけど、洗い直しになるから面倒くさい。
「え、えへへ、ご、ごめんなさーい」
皿洗い担当の使用人にミュゼが皿を返しにいくが、ミュゼの美貌にやられて、使用人は何かを咎めるでもなく、2つ返事で皿を受け取っていた。……世の中って不平等よね。私は少し気になっている、そばかすを触る。薄いといえば薄いけど、気になる。
ミュゼがふよふよと浮きながら私の隣に戻ってくる。マルタやパックが地上で移動する方法と同じだ。水魔法の一種らしい。一応、姫様も似たことができるって聞いた。
「失敗失敗」
ミュゼは再び私の隣で皿を拭き始めた。
「ミュゼ、気を付けて」
「はい、先輩」
まぁ、ミュゼの専属入りの経緯は気に食わないけど、先輩というのは別に悪くはない。
「皿が苦手なら、カトラリーの方を拭いて。こっちなら、丸くないから落とすことはないでしょ」
「わぁ、ありがとうございます!じゃあ、こっち拭きます!」
ザクッと音が聞こえそうになるほど、ミュゼの指にフォークが突き刺さっていた。………何でそうなるのよ。
「せ、先輩〜」
涙目になりながら、ミュゼがこっちを見てくる。はぁ。私は他の同僚に仕事を頼んで、ミュゼを厨房から連れ出す。何とかキン?とかがあるらしくって、怪我人は厨房に入るなってお達しがあったからだ。こんな指先の傷くらいでと思ってしまうが、相手は子供の姫様とはいえ、貴族。逆らうことはできない。姫様があの調子だからたまに忘れるけど。
「ほら、怪我した指出して」
「うぅ、はい…」
城の中にある怪我人用の一室に連れてきて、必要な道具を漁って処置する。使ったものを記録するのも忘れない。
ミュゼの怪我をした指先を洗って、新しい薄布の切れ端を軽く当てて、その上から紐で縛った。
「お、おぉ。これが地上での治療法なんですね…治癒師とかに頼まないんですか?」
「治癒師?あぁ、治癒魔法使いのこと?この城では姫様1人居れば全員治せちゃうから、居ないわよ。街の治癒魔法使いとか、教会に頼んだらべらぼうにお金取られるし」
姫様が保健所を開いてから、高過ぎた金額も落ち着いたけどね。それでも私達からすれば高い。最低でも5000Gくらい取られるし。教会もお布施ってことで、同じかそれ以上取られる。ヨアヒム司祭に変わってからは、安くなったって話だけど、あの人は姫様が関わると発狂するから会いたくない。
「へぇ、そうなんですね。里とは違って、不思議です」
「里には治癒魔法使い--治癒師?ってのが治してたの?」
「はい。治癒師のお婆さんが居たんですよ。狩りや戦いには出られないので、それが生業でした」
「ふーん」
場所が違えば勝手も違うって事なのかな?私は孤児の頃からこの街--今はキャメロットって名前に変わったけど。キャメロットから出たことはない。だから、他所については分からない。
「ん?姫様も治癒魔法使えるんですよね?何でわざわざこんな事するんですか?姫様に治してもらいましょうよ」
……私はミュゼの頭を平手で思いっきり叩いた。
「いったーい!!」
「はぁ…姫様に頼りすぎない。それに今の時間はマーサさんからの教育を受けてる時間の筈だから、よっぽどの事がない限り邪魔をしないこと。そうでなくても、この程度の怪我なら自力で治しなさい」
セイレーンの里とやらでは、よほど甘やかされて育ったんだろうか?というか、誰かに仕えた経験が無いんでしょうね。仕方のないことかもしれないけど、ここじゃ通用しない。もっとビシバシしごかなきゃ。
と、その時、扉の開く音がした。開けて入ってきたのはヴェンだった。腕に巻いた布から分かるくらい出血していた。私はそれを見て、すぐに物品棚を開けて、ポーションを取り出す。出納帳?とかに記録するのは後回しだ!
「ヴェン、これ速く飲んで!!」
「ぇ--があぼぼぼ!?」
コルクを引っこ抜いて、木製の筒に入ったポーションを無理矢理ヴェンの口に突っ込んだ。
「んぐー!んんんーーー!?」
逃げようとするヴェンの後頭部をガッチリ抑えて、ポーションを飲み切るまで流し込む。飲み切った事を確認してから、木筒をヴェンの口から退かした。
「うぇっほ!!げほっげっほっ!ぁっ、ごほっ、ごほっ!!」
ヴェンが涙目になりながら、咳き込んだので背中を軽く叩きつつ擦ってあげる。暫くすると落ち着いたのか、こっちに恨みがましそうな視線を向けてきた。………あ、焦ってたから、しょうがないと思う。
「…ごめん、ヴェン。急いで血を止めなきゃって思って、その…」
「はぁ……あー、いいよ、別に。痛みは殆ど無くなったし」
ヴェンが腕に巻いていた布を解く。よく見ると服の部分も切れてて、血が飛び散ったように真っ赤だ。
「また余計な出費が増えそうだな。レレイから小言をもらいそうだ」
ボロボロになった自分の衣服を見て、ヴェンはそう漏らした。最近だとヴェンの妹のレレイは、孤児院の職員のおばちゃんや姐さんたちから裁縫を習っているらしい。保護される前に寒い思いをしたから、もう二度とそうならないようにという事みたい。なので、その練習と称してヴェンのボロボロになった服なんかを繕ったりしてる。
レレイは姫様より少し年上くらいなのに、しっかりしてて偉い。私はお裁縫からっきしだからなぁ…
「よっ…と」
「っ!?」
ヴェンがボロボロになった服を脱いで、上半身裸になった!?な、なな…
「なに、急に脱いでんだ、バカ!!」
「は?いや、血が気持ち悪いし」
「だ、だからって、わ、私の前で脱ぐな!」
「分かった。分かったって。もう行くよ。あ、裏の洗い場って誰か使ってるか?」
「使ってない!だから、早く出てけ!」
「へいへい」
ヴェンはボロ服を肩に掛けて、部屋を後にした。
ひ、久しぶりに見たけど…な、なんかその……なんかそのーーー!!!
「へ…………うぇ、へへ」
その…いい体になってたなー…
「え、えへへ。えへへへぇ♪」
「……私、何を見せられてたんだろ?」
私はその場にミュゼが居たことなど忘れて、しばらく自分の世界に浸っていた。
あと2話ほどで、新章突入します。
ただ、新章の投稿自体はそこそこ先かもです。
お待たせして、申し訳ない!




