第五十一章 編劇会総本部の「資産再編」
轟隆隆――!
「最終審判裁決艦」の主制御中枢が金色の光柱の中で完全に崩壊した瞬間。
かつては高みから多次元宇宙の生死を握り、世界そのものをフォーマットしていた編劇会総本部が――
ついに。
その長い歴史の中で、初めての「破産清算」を迎えた。
無光の海を覆っていた荒れ狂う霧が、広大な市井の因果の衝撃を受けて、まるで薄い霧のように左右へと押し退けられていく。
その奥から姿を現したのは――
禁区の最深部に隠されていた、本当の中枢。
――多次元宇宙総勘定場。
その別名は――
「至高審判廷」。
それは、果てのない星海の中に浮かぶ巨大な環状宮殿だった。
無数の光ケーブルが、宇宙の底層法則そのものを象徴するかのように、四方八方からそこへと集まっている。
だが今。
その光ケーブルの大半が、契約違反を示す猩紅色の警報を明滅させていた。
巨大な宮殿全体が、かつてない混乱と機能停止に陥っている。
「おいおい……」
レインが「終焉号」を操縦し、環状宮殿に隣接する巨大な白銀の埠頭へとゆっくり停車させる。
窓の外では、慌てふためきながら逃げ回る高次元の審判官や財務担当者たちが、あちこちに溢れていた。
レインはその光景を眺めながら、思わず感嘆の声を漏らす。
「ここ、俺たちの第七街区の市場なんかより、ずっと立派じゃねえか」
そして。
「林野、この様子なら――」
レインはニヤリと笑った。
「今日は帳簿を回収するだけじゃなくて、ついでにいくつか使えそうな生産ラインまで接収できそうだな」
墨清は断剣を手に、真っ先に車両から飛び降りた。
鋭い視線で周囲に残る防衛禁制を一つ一つ見渡しながら、低い声で告げる。
「首席裁決長は敗れました」
「ですが、編劇会総本部の中枢長老会は、まだ完全に抵抗を諦めたわけではありません」
墨清の視線が、宮殿の奥へ向く。
「内部では、いくつかの極めて強力な高次元因果反応が、今まさに目を覚まし始めています」
「目を覚ましたんなら――」
林野が答えた。
無刃聖剣を片手に提げる。
もう一方の手には、これまでの清算によって分厚く膨れ上がり、眩い金色の光を放つ帳簿。
それをしっかりと抱えていた。
林野は何の焦りも見せず、「終焉号」から降りる。
そのすぐ隣では、縄でぐるぐる巻きにされたカールが、すでに顔面蒼白。
両脚から力が抜けたようになり、レインに車内から引きずり出されていた。
林野は編劇会総本部の、鏡のように磨き上げられた白銀の床へ足を踏み入れる。
コツ。
コツ。
ブーツの底が床を叩く音が、広大で静まり返った大広間に妙にはっきりと響いた。
周囲にいるのは、ついさっきまで誰も逆らえない存在だった高次元の審判官たち。
だが今は――
この「書斎の店主」を、まるで死神でも見るような目で見つめている。
誰一人として口を開かない。
手にした因果の鎖さえ、まともに握ることができない。
そして。
一人。
また一人。
無意識に、後ずさっていく。
そのときだった。
環状宮殿の正面。
虚空が突然、何度も大きく裂けた。
巨大な金色の時空の裂け目が、次々と開いていく。
その向こうから――
十二の巨大な人影が、ゆっくりと姿を現した。
古びた金色の長衣。
その顔は、まるで霧に覆われたように判然としない。
しかし。
その身から放たれる法則の威圧だけは、無光の海全体を震わせるほどに強烈だった。
彼らこそ――
何紀元もの間、編劇会総本部の奥深くに身を隠していた、最高長老会の十二人。
先頭に立つ一人の金袍の長老が、低く重々しい声を響かせた。
「林野……」
その声には、拒絶を許さないほどの威厳が込められている。
「貴様は理解しているのか?」
「最終審判裁決艦を破壊し、中央審判廷を踏み砕いたことが――」
「いったい何を意味するのかを」
金袍の長老の声が、宮殿全体へと広がっていく。
「もし貴様の行為によって多次元宇宙の秩序そのものが崩壊すれば――」
「億万の生命が、本当の虚無へと落ちることになるのだぞ!」
その言葉を聞いた林野は――
思わず鼻で笑った。
足を止める。
そして。
無刃聖剣を反転させ――
白銀の床へ、ドンッと突き立てた。
澄んだ轟音が、広間全体に響き渡る。
林野は顔を上げた。
その目には、一切隠すつもりのない荒々しさと嘲笑が浮かんでいる。
「秩序?」
「くだらねえこと言って、こっちに偉そうな帽子を被せようとするんじゃねえよ」
林野は十二人を睨みつけた。
「お前らみたいな踏み倒し屋どもが、毎日この総本部で好き勝手に脚本を書いて、他人の世界から金を巻き上げてたとき――」
「億万の生命がどうなろうと、考えたことがあったのか?」
林野は帳簿を持ち上げる。
「今日、先に言っとくぞ」
バサッ!
帳簿が大きく開かれた。
次の瞬間。
金色の光が一気に広がり――
至高審判廷全体を覆い尽くした。
林野の声が、巨大な環状宮殿の隅々まで響き渡る。
「多次元宇宙の物語総権限――」
「それから、残ってる『初期原稿』を全部出せ」
「浮世書斎による資産再編に、大人しく協力してもらう」
そして。
林野は無刃聖剣の柄を握り直した。
口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「それとも――」
「今日ここで、この十二人の老いぼれどもをまとめて――」
「このボロ宮殿ごと――」
林野は帳簿を閉じた。
「正式に破産倒産ってことにしてやろうか!」
静寂。
次の瞬間。
至高審判廷の全域で――
無数の警報が、一斉に鳴り響いた。
――第三部「北境廃墟と初期書頁」後日譚・第一章




