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浮世書斎と未亡の刃  作者: 亀


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第四十五章 第二頁の契約

轟隆――!!


林野の掌から因果契約が全力で流れ込んだ瞬間。


厚い帳簿が円形の祭壇の縁で勢いよく開き、目を刺すような、重々しい金色の光を迸らせた。


北境総館の契約鍵。


そして、第77号支流に残された因果の残響。


二つの力が、この瞬間、轟音とともに共鳴する。


それは一体の巨大な「市井の獣」へと変わった。


理屈も何もあったものではない。


ただ、人の世に生きる者たちの、乱暴で、確かな、人の世の息吹をまとっている。


その力が――


至高編劇会が自ら刻み込んだ暗号化された防衛禁制へと、真正面から叩き込まれた!


カシャン!


カシャン、カシャン――!!


多次元宇宙の至高権威を象徴すると称された法則の鎖。


そこには無数の審判条項がびっしりと刻まれている。


だが、それらが人の世の確かな息吹に満ちた契約の力に触れた瞬間――


まるで烈火にさらされた氷像のように。


一層。


また一層。


法則の鎖が、端から寸断され、崩れ、砕けていく。


無数の金色の光屑となり、虚空へと消えていった。


「こ……こんなことが……!」


少し離れた場所で五重にも六重にも拘束されていたカールが、その光景を呆然と見つめる。


編劇会総本部の最高長老会でさえ誇りとしていた防衛禁制が、目の前で無理やり引き裂かれていく。


カールの目は大きく見開かれ、唇まで激しく震えていた。


「それは編劇会が『絶対権威の物語』によって強化した禁制だぞ!」


声が裏返る。


「お前……どうして、たった一冊の古びた帳簿だけで……! あれを……強引に構造そのものから解体できるんだ!?」


「絶対権威だろうが何だろうが――」


林野は振り返りもしなかった。


「期限切れの借用書の前じゃ、全部ただの紙切れだ」


その口調は、自分の店で帳簿を確認しているときと何も変わらない。


林野はゆっくりと右手を伸ばした。


回転する因果の渦を、まっすぐに突き抜ける。


そして――


祭壇の中央に浮かんでいた「初期原稿」の残片を、力強くその掌に握り込んだ。


ヴォン――!


二つ目の原稿残片が林野の掌に触れた、その瞬間。


腰元の帳簿が、誰の手にも触れられていないというのに、自動的に開いていく。


そして――


二頁目。


そこへ、二つの古く巨大な歴史の奔流が一気に絡み合った。


次の瞬間。


それは実体を持った一本の巨大な金色の光柱となり、第108号支流の崩れかけた天穹を一直線に貫いた。


轟――!!


鏡の世界の残骸が、激しく震え始める。


それまで虚偽と抑圧と嘘によって積み上げられていた「物語の閉環」が――


この本物の歴史の奔流に押し流されるように、


完全に、


崩壊していった。


「二つ目――確保だ」


林野は、柔らかな光を放つ残片を懐へしまい込む。


そして振り返ると、手についた埃を軽く払った。


その視線が、部屋の隅で恐怖に顔を引きつらせているカールへと向く。


レインが歩み寄り、地面に転がされていたカールの身体を片手でひょいと持ち上げた。


そして、口元を吊り上げる。


「林野、この鉄面の帳場、道中ずっと口だけは達者だったからな」


カールを肩に担ぎ上げながら、レインが続ける。


「原稿も手に入った。次はどうする?」


「このまま編劇会総本部へ行って、まとめて帳尻を合わせるか?」


少し考えたあと、もう一つの選択肢を口にする。


「それとも、どっか落ち着ける場所を探して、この二つの残片をくっつけてみるか?」


墨清は断剣を収めた。


だが、その視線は依然として周囲を警戒している。


徐々に静けさを取り戻しつつある支流の虚空を見回しながら、静かに口を開いた。


「さっきの騒ぎはかなり大きかった」


「編劇会総本部の中枢探査装置なら、もうここの座標を特定しているはず」


墨清はわずかに眉を寄せる。


「次に直接総本部へ向かえば……本当の意味での正面衝突になるでしょうね」


林野の口元が、わずかに吊り上がった。


その目に恐れはない。


むしろ――


待ちきれないと言わんばかりの戦意が燃えていた。


一歩。


林野は前へ踏み出す。


そして再び、「終焉号」因果専列車の甲板へと足を乗せた。


反対の手で腰の無刃聖剣を抜き放ち、それを身体の前で横に構える。


「正面衝突?」


林野は鼻で笑った。


「俺がここまで取り立ててきたのは、柔らけえ奴らの勘定じゃねえんだよ」


林野の目が鋭く光る。


遥か多次元宇宙の深奥。


無尽の霧に包まれた、編劇会総本部の方角を見据える。


そして、冷たく笑った。


「連中が裏に隠れて、勝手に脚本を書いて、因果を弄ぶのが好きだってんなら――」


無刃聖剣を握る手に、力がこもる。


「今日はこの二頁の初期原稿を持って、連中の総本部の玄関まで乗り込んでやる」


林野は、静かに言った。


「そして――」


「この多次元宇宙そのものの、究極の請求書を……」


「徹底的に、ひっくり返してやろうじゃねえか!」

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