第四十一章 料金所を叩き壊す帳簿
轟隆――!!!
林野の、あまりにも傲岸な怒声が響き渡った。
その瞬間、「終焉号」因果専列車は、減速するどころか――
耳をつんざくような歯車の轟音を響かせながら、さらに猛烈に加速した。
列車全体が、闇を引き裂く金色の奔流と化す。
そしてそのまま、無数の契約書の切れ端が絡み合って作られた「至高編劇会料金所」へ向かって、真正面から突っ込んでいった!
「無礼者め! 至高料金所を強行突破するつもりか!」
料金所の最前列に立っていた無面儀仗隊長が叫ぶ。
仮面の奥から響く電子音は、瞬く間に怒りへと変わった。
彼は高次元因果槍を高々と掲げる。
「絶対阻止法陣を起動!」
「この違反列車を、乗客全員の物語権限ごと、その場で剥奪せよ!」
ジャララララ――!
数百人の儀仗隊員が、一斉に因果槍を突き出した。
次の瞬間。
無数の契約鎖が空中へ飛び出した。
冷たい審判の金光を放つ鎖が、複雑に絡み合いながら巨大な網を形成していく。
瞬く間に空一面を覆い尽くしたそれは、まるで世界そのものをフォーマット化しようとしているかのような、凄まじい圧力を放っていた。
車両の隅。
相変わらず簀巻きにされたままのカルは、その光景を見るなり、鼻で笑った。
「愚かな……」
「第108号支流の阻止法陣は、編劇会本部の中央財政庫と直結している」
カルは冷笑する。
「たった三人で強行突破などすれば、待っているのは底層の文字化けデータへ同化される末路だけだ!」
「うるせえよ、お前」
レインがカルの横にある金属製の座席を、手のひらで思いきり叩いた。
ガンッ!
「毎日毎日、勝手に人を怖がらせてんじゃねえ」
レインは鼻を鳴らす。
「林野がお前の寝言なんか真に受けてたら、とっくの昔に第七街区で店じまいしてるっての!」
その言葉が終わるより早く――
林野はすでに車両の先頭側のステップへ踏み出していた。
目の前には、空を覆い尽くす巨大な審判の金網。
だが、林野は一歩も退かなかった。
体内の真気が、浮世書斎の分厚い帳簿と轟然たる共鳴を始める。
林野は腰の無刃聖剣を反手で抜いた。
両腕の筋肉が大きく盛り上がる。
そして――
下から上へ。
真正面から、巨大な金色の剣罡を叩き上げた!
轟――!!!
剣と金網が激突した瞬間。
普通のエネルギー同士がぶつかり合うような轟音は、響かなかった。
代わりに聞こえてきたのは――
まるで無数の帳簿が同時に、強引に引き裂かれていくような、乾いた紙の裂ける音だった。
ビリッ――!
林野の剣先が触れた場所から、異変が広がっていく。
絶対の秩序を象徴し、あらゆる物語権限を剥奪すると謳っていた高次元契約鎖が――
まるで粗悪な偽造帳簿であるかのように、一枚、また一枚と崩れ始めた。
そして最後には、無数の金色の紙屑となって、空中へ舞い上がっていく。
「なに……!?」
無面儀仗隊長の声が震えた。
「あり得ない!」
手にした因果槍が激しく震える。
仮面の奥にある電子眼には、隠しきれない恐怖の光が浮かんでいた。
「これは本部特別承認の最終審判通行料契約だぞ!」
「そんなクソみてえな通行料、俺は帳簿で一度も見たことねえ!」
林野は虚空を踏みしめた。
そのまま一気に跳び上がる。
片手で無刃聖剣を握り、落下の勢いをそのまま刃へ乗せる。
そして――
「だったら、最初から存在しないのと同じだろ!」
轟ッ!
林野はそのまま巨大なネオン看板へ向かって、渾身の一撃を叩き込んだ。
「――そらっ!」
カァン――!
次の瞬間。
料金所の上に掲げられていた巨大な看板に、一本の亀裂が走った。
そして――
バキッ――!!!
轟隆隆――!!!
看板は一瞬で四方八方へ砕け散った。
その衝撃は料金所全体へ伝わっていく。
「至高編劇会最強の料金所」と謳われていた巨大構造物が、中央から真っ二つに裂けた。
そこへ、林野の一太刀が引き起こした凄まじい市井の因果が流れ込む。
料金所は耐え切れなかった。
轟音とともに、崩れ落ちていく。
鮮やかな火花が虚空を舞う。
砕けた契約書の紙片が、燃えながら雪のように降り注いだ。
林野は、再び一本につながった「終焉号」のステップへ、軽々と着地した。
そして何事もなかったかのように無刃聖剣を鞘へ戻す。
衣服についた埃を手で軽く払う。
それから、呆然と立ち尽くしている無面儀仗隊員たちを横目で見た。
武器を落とした者。
逃げ出した者。
立ったまま動けなくなっている者。
林野は、そんな彼らを見て鼻で笑った。
「帰って伝えろ」
「編劇会本部の財務総監にな」
林野は腰の帳簿を軽く叩いた。
「浮世書斎の店主は、通行料なんざ払わねえ」
そして――
崩れ落ちた料金所を指差す。
「ついでに、こいつらのクソみてえな道路も、こっちで正式に差し押さえさせてもらう」
林野は笑った。
「次の行き先は――」
金色の因果軌道が、終焉号の前方で再び輝き始める。
「『鏡中浮世ワルツ』だ!」
終焉号は轟音を上げながら、再び多次元宇宙の奥へと走り出した。




