第84話 怖い? 手を繋ごうか
肝試し開始。
お化け達は労われ、
キドは泣いた。
誰も予想していない結果だった。
肝試し当日。
結局、騎士団員達だけでなく使用人達まで巻き込み、公爵城全体で行う事になった。
普段は落ち着いた城の中も、この日は妙に浮き足立っている。
廊下の隅では白布を被った使用人が「うらめしや」と練習しており、庭では鎧を着込んだ騎士が「怖いか?」と声の出し方を試していた。
団員や使用人達は、回る側とお化け役を交代でやる為、ラミア達よりもよほど心待ちにしている様子だった。
むしろ、お化け役の方が張り切っていた。
結局、最初は
ラミア、皇太子、ロエルの三人で回り、中間地点で人を入れ替えるという流れに落ち着いた。
⸻
「お兄様と、ロエル様とご一緒なら心強いです」
ラミアは二人を見上げ、にこりと笑った。
夜の城は灯りをかなり落としてあり、昼間とはまるで雰囲気が違う。
廊下の奥は薄暗く、庭の木々が風に揺れて影を揺らしている。
正門近くから、三人はゆっくり歩き始めた。
その時だった。
ぎし、と音を立てて鎧が動いた。
道の真ん中に、動く鎧が立ちはだかる。
普通なら驚く場面だった。
だが。
「こんばんは。暑くないですか?」
ラミアが心配そうに声を掛けた。
鎧の中から慌てた声が返る。
「は、はい! 大丈夫です! ありがとうございます!」
鎧が照れている。
皇太子が穏やかに微笑んだ。
「頑張っているね」
ロエルは鎧の隙間から顔を覗かせる団員に軽く手を上げた。
「お疲れ」
待機していたお化け達が思った。
(……全然怖がらない)
⸻
その後も同じだった。
廊下の角で、顔色の悪い幽霊が現れる。
「まぁ」
ラミアが足を止めた。
「顔色が悪いです。少し休まれた方が……」
幽霊役の使用人が戸惑う。
「お、お化けなので……」
「そうでしたか」
ラミアは安心したように頷いた。
「お大事になさって下さいね」
幽霊は深々と頭を下げた。
(何で俺が労われているんだ)
ラミアはその後も、お化け一人一人に丁寧に挨拶して回った。
(殿下に挨拶されてしまった)
(怖がらせる側なのに恐縮してしまう)
(むしろこちらが怖い)
気付けば、お化け達の方が恐縮していた。
⸻
「そんなに怖くないものだね」
皇太子が言う。
「そうですね」
ロエルも同意した。
皇太子は楽しそうだった。
「しかし、こんな経験は私も初めてでね。そこは素直に楽しいのかな」
「それは良かったです」
ロエルが笑う。
「皆、ずいぶん丁寧だね」
「礼儀正しいお化けですね」
⸻
背後では、お化け達が困っていた。
(出て行きづらい)
(驚いていただけないと、こちらが恥ずかしい)
⸻
その時だった。
「……ラミアは?」
ロエルが周囲を見た。
皇太子も足を止める。
「先ほどまでいたのに、どこに行ったのかな?」
二人は周囲を見渡す。
今日は屋敷の灯りもかなり落としてある。
廊下の奥は暗く、見通しが悪い。
「ラミア」
呼ぶと、少し先の通路で人影が振り返った。
「あ、お二人共」
ラミアだった。
「すみません。道に迷ってしまいました」
皇太子が安堵したように歩み寄る。
「問題なかったかな?
離れてしまってすまなかったね」
「いえ、大丈夫です」
ラミアは笑った。
「あちらの方が教えて下さいました」
ロエルと皇太子はラミアが指す廊下の先を見る。
その廊下は行き止まりだった。
誰もいない。
「……」
「……」
ラミアは、誰もいない廊下に笑顔で手を振っている。
ロエルが静かに言った。
「ラミア、誰もいないようだけど」
「?」
ラミアが首を傾げる。
「あちらにいらっしゃいますよ」
そして再び廊下を見る。
「はい? 成仏?
それは何でしょうか?」
ラミアは楽しそうだった。
その瞬間。
皇太子とロエルが同時にラミアの手を握った。
ラミアがきょとんとする。
「お二人ともどうされたのですか?」
しかし二人は、しばらく何も言わなかった。
⸻
その頃。
別ルート。
「そろそろ行こうか」
ルードを中央に、キドとユアンが並んでいた。
(怖がるフリをして、ルード様の腕にしがみつくのは、はしたなくありませんわよね?)
ユアンは密かに考えていた。
(か弱いふりをして、可愛いと思っていただきたいですわ)
その時。
遠くから悲鳴が聞こえた。
次の瞬間。
「ギャアアアア!!」
キドが叫び、ルードの腕に飛びついた。
「やめろ! うるさいぞキド!」
「まだ歩いてもいませんわ!」
ユアンが呆れる。
(私より先にしがみつくなんて!)
ルードが怒鳴る。
「早く行くぞ! 後ろがつかえてる!」
キドが後ろを振り返る。
順番待ちの使用人や団員が並んでいた。
それを見て。
「ぎゃああああ!」
ルードに抱きついた。
「抱きつくな! 離れろ!」
後ろの使用人が呟いた。
「団長が一番怖いですね」
⸻
ようやく進み始める。
しかし。
動く鎧が現れた。
「わぁぁぁぁ!」
鎧が呆れて顔を出す。
「団長、俺ですよ」
「何だお前か」
声は落ち着いた。
だが。
キドはまだルードにしがみついていた。
⸻
お化けが出るたび。
「ぎゃああああ!」
「ごめんなさい!」
「来ないで下さいー!!」
ずっとルードに抱きついたままだった。
ユアンが怒る。
「団長!
はしたないと思いませんの?
ずるいですわ!」
「私が先にしがみつく予定でしたのに!」
キドは聞いていない。
「もう帰りたい!」
「………」
ルードは思った。
(こんな事なら……)
(ユアン嬢と二人の方がマシだったかもしれない)
キドの体温が腕に伝わる。
妙に生暖かい。
ルードは終始、悪寒を感じていた。
その頃キドは半泣きだった。
「もう許してー!」
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