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公爵家の問題児たちと天然皇女  作者: angelcaido
6章 The Trigger
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第83話 君は、怖がりだね

肝試し開催決定。


怖がり疑惑のキドと、巻き込まれる公爵家。


お化けより厄介な参加者が集まり始めた。

騎士団の訓練場では、今日も木剣の打ち合う音が響いていた。


乾いた音が何度も重なり、砂を踏みしめる足音と、掛け声が混ざる。

夏の風が吹くたび、巻き上がった砂がゆっくりと流れていった。


その喧騒から少し離れた訓練場の端に、簡素な机が一つ置かれている。


机の上には書類が山のように広げられていた。


キドは椅子に腰掛け、眉間に皺を寄せながら羽根ペンを走らせている。

背後では団員達が木剣を打ち合わせているが、キドはまったく気にしていない。


「団長」


キドは反応しない。


羽根ペンの音だけが続く。


声を掛けた団員は、ちらりと周囲を見回した。

近くで訓練していた団員達と目が合う。


団員はにやりと笑った。


何人かの団員が動きを止める。


面白いものを見る顔だった。


団員はそっとキドの肩に手を置く。


そして――耳元で声を張った。


「団長!」


「わっ!!」


キドは椅子ごと後ろへひっくり返った。


椅子が派手な音を立て、キドの体が床へ転がる。


一瞬の静寂。


次の瞬間、訓練場に笑い声が広がった。


「ははは!」


「団長、怖がりすぎですよ!」


キドは慌てて起き上がる。


「違う! 驚いただけだ!」


「でも団長、この間草むらから飛んできた蛙にも驚いてましたよね」


「それは蛙が急に!」


キドが言い返すが、周囲の笑いは止まらない。


別の団員が腕を組みながら言った。


「さては、お化けとか苦手ですか?」


団員達が一斉に顔を見合わせる。


にやにやした視線がキドに集まった。


「騎士がお化けなんて怖い訳がないだろう!」


キドが胸を張る。


その言葉を待っていたかのように、ロエルが手を叩いた。


「じゃあ、肝試しでもやるか?」


一瞬。


訓練場が静まり返る。


そして次の瞬間、団員達の顔が一斉に輝いた。


「いいですね!」


「団員がお化け役!」


「団長だけ肝試し!」


笑い声が広がる。


「待て!」


キドが叫ぶ。


「何で俺が一人で回らないといけないんだ!」


その時だった。


「それは面白そうだね」


穏やかな声が響く。


訓練場の空気がぴんと張り詰めた。


振り向くと、皇太子が立っていた。


団員達が一斉に姿勢を正す。


「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」


皇太子はゆるやかに笑う。


「私も参加させてもらおうかな」


団員達の顔色が変わる。


さらに。


皇太子の後ろから小さな影が顔を出した。


ラミアだった。


「私も参加させていただければ嬉しいです」


満面の笑顔だった。


団員達は一斉にキドを見た。


キドは静かに膝をついた。


(終わった)



「どうしてそんな事になったんだ!」


訓練場の中央で、ルードの声が響いた。


キドとロエル、数名の団員が並んで正座している。


ルードは腕を組み、険しい顔で見下ろしていた。


「だいたいキドが怖がりなのがいけないんだ!」


「怖がりではありません!」


キドが必死に言い返す。


「驚いただけです!」


「同じだ!」


ルードは額を押さえる。


「肝試しの話を皇太子とラミアに聞かれるとは……」


深いため息が落ちた。


「キドは一人で回れ」


「なんでですか!」


キドが悲鳴を上げる。


「せめてご一緒に」


後ろの団員達がくすくす笑う。


その時。


「面白いお話ですわね」


入口から声がした。


全員が振り向く。


ユアンが立っていた。


「ルード様、殿下の教育が終わった旨をお伝えしようと執務室に伺いましたの。お探ししましたわ。」


「ああ、すまんな」


ユアンは優雅に微笑む。


「その肝試し、私も参加いたしますわ」


キドが固まる。


ユアンは当然のように続けた。


「私、ルード様と一緒に回りますわ」


決定事項だった。


キドはそっと天を仰いだ。



執務室では、ルードが机に突っ伏していた。


「何でこんな事に……」


キドは落ち着かない様子で部屋の中を歩き回る。


「俺、本当に一人で回るんですか?」


ロエルが椅子に座りながら言った。


「皇太子と回れば?」


キドが凍りつく。


ルードがロエルを睨む。


「……ラミアを一人にしろと言うつもりか?」


ロエルは首を傾げる。


「俺がラミアと回るよ」


「ふざけるな!」


机を叩く音が響く。


ロエルはきょとんとする。


「え? なんで?」


「夜だぞ! 二人きりなんて許さん!」


「何言ってるんだ」


ロエルは呆れた顔をする。


「周りは団員だらけだぞ」


「だが!」


ルードは言葉に詰まる。


ロエルが肩をすくめた。


「自分を心配しろよ。ユアン嬢と二人きりなんだろ?」


ルードは真顔で言った。


「……俺は問題ない。ユアン嬢はコウノトリを信じている」


一瞬。


ロエルが吹き出した。


「なんでお前が令嬢側なんだよ」


笑いが止まらない。


ルードは真剣だった。


「だからお前の方が危険だろう!」


「ちょっと待って下さい!」


キドが割り込む。


「俺が一番危険ですよ!」


二人がキドを見る。


キドは必死だった。


「皇太子殿下を置いて逃げてしまったらどうしたらいいんですか!?」


ロエルが言う。


「……お前、怖くないんだろ?」


キドは机に手をついた。


「俺はルード様と回りたいです!」


ぐっと身を乗り出す。


「これは譲れません!」


ロエルが笑う。


「ハハっ、愛されてるなルード」


ルードはキドを見る。


少し考えてから言った。


「……キド」


「はい!」


「俺をユアン嬢から守ってくれるか?」


キドが固まる。


ロエルが腹を抱えて笑った。


「何でそうなるんだよ」


執務室にはロエルの爆笑が響いた。


その横で。


ルードとキドは真剣な顔で、静かに取引を始めていた。


お読みいただきありがとうございます。

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