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公爵家の問題児たちと天然皇女  作者: angelcaido
6章 The Trigger
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第82話 夕食は、代わりに食べておこうか?

皇女殿下の一言で始まった鬼ごっこ。


気付けば、公爵・騎士団長・元侯爵家嫡男が日没まで本気で走り回る事態になっていました。

太陽が雲に隠れ、庭園の空気が少し和らいだ午後だった。


集まっていた面々の前で、ラミアがふと口を開く。


「皆様で、遊びませんか?」


胸の前で手を合わせ、小首を傾げる。

その仕草があまりに愛らしく、周囲の男達の頬が一斉に緩んだ。


皇太子が微笑む。


「いいよ。何をしたいのかな」


ラミアは少し考え、それから言った。


「私、鬼ごっこをしたことがないのですが……皆様と出来たら嬉しいです」


一瞬、空気が止まった。


だがすぐにロエルが笑う。


「そうだね。やってみようか」


「嬉しいです」


ラミアはぱっと顔を明るくした。


その笑顔を見てしまえば、もう誰も反対など出来なかった。



鬼ごっこ開始前。


庭園の端で、ルードが真剣な顔で言った。


「いいか? ラミアを捕まえるなよ?」


「当然です。殿下は歩いても捕まえられそうですし」


キドがあっさり答える。


「おい! それは不敬だぞ!」


皇太子がくすりと笑った。


「ラミアが鬼の場合はどうしようか?」


「とりあえず俺が先に捕まります」


ロエルが軽く言う。


ルードがじっとロエルを見る。


「お前はそれでラミアと一緒に鬼をやろうと言って手を繋ぎ、そのまま庭園を散歩して離脱するつもりだろう」


ロエルは視線を逸らした。


「図星ですね」


キドが呆れた声を出す。


皇太子が楽しそうに笑う。


「飽きないな、君達といるのは」


その時。


「お待たせいたしました」


ラミアが戻ってきた。


「女官の方にお聞きしたのですが、最後まで残った方の願いを叶えると楽しくなるそうです」


ルードとキドが静かに顔を見合わせた。


二人の脳裏には同じ言葉が浮かぶ。


(皇太子殿下に帰っていただく)


だが。


「私が鬼、か」


皇太子だった。


二人は固まった。


(どうします?)


(本気で逃げる訳にはいかないだろう)


こうして――


忖度鬼ごっこが始まった。



ラミアとロエルは皇太子から離れた。


だが――


キドとルードはその場から動かない。


皇太子が不思議そうに首を傾げる。


「逃げないのかな?」


キドが胸を張る。


「騎士たる者、皇太子殿下を背にして逃げる訳には参りません!」


皇太子が穏やかに言う。


「……カードの時は、私を負かして随分喜んでいなかったかな?」


「カード……ですから」


キドは顔を逸らした。


「お前は一体何をしているんだ!」


ルードの説教が始まった。


皇太子はしばらくその様子を眺めていたが、やがて静かに方向を変えた。


ラミアを追うことにした。



「皆様、お話されてますね」


ラミアが振り返る。


「そうだね。何をしてるんだろうな」


ロエルも笑った。


「あ、お兄様が来られました」


皇太子が近づいてくる。


ラミアは一生懸命走る。


だが遅い。


本人は全力のつもりだが、歩くのと大差がなかった。


「ラミア、走ると危ないよ」


皇太子が優しく声をかける。


その時だった。


ラミアの足が石につまずく。


「ラミア、危ない」


皇太子が駆け寄り、後ろから支える。


「転ばなくて良かった」


安堵の息。


しかし。


ラミアはにこりと笑った。


「捕まってしまいましたね」


皇太子は笑顔のまま固まった。


「次は私が鬼ですね」



「俺が捕まります」


ロエルが言った。


皇太子が小さく笑う。


「すまないね」


「怪我させたくないだけです」


ラミアがロエルを見つける。


「ロエル様、捕まえてしまいますよ?」


ロエルは笑った。


「ラミアなら、捕まってもいいかな」


「ロエル様、逃げてくださいね」


「はいはい」


ロエルは軽く離れる。


だがラミアはゆっくり追いかけてくる。


(……遅いな)


ふと顔を上げる。


少し離れた所で、皇太子が優雅に微笑んでいた。


(困ったな……)


ロエルは頭を押さえた。



なんとか鬼はロエルへ交代した。


「頑張ってくださいね」


ラミアが嬉しそうに言う。


ロエルは笑った。


「ありがとう」


そして。


鬼ごっこが始まってから初めて、本気で走った。



ロエルはルードとキドの前に立つ。


「で、どっちから行く?」


「残ってるのは俺とキドだけだ」


ルードが腕を組む。


キドも笑う。


「これで皇太子殿下にお帰りいただけますね」


ロエルが言った。


「あのさ」


二人を見る。


「皇太子に帰れ、って言うんだろ?」


二人が固まる。


ロエルがにやりと笑う。


「それ、どっちが言うんだ?」


沈黙。


次の瞬間。


キドが全力で走り出した。


「ずるいぞ!」


ルードも走る。


こうして本気の鬼ごっこが始まった。



少し離れた場所。


ラミアと皇太子がその様子を眺めていた。


「楽しそうですね」


「そうだね」


皇太子が微笑む。


「私達は茶でも飲んで待っていようか」


「はい」


二人はそのまま城へ戻っていった。



庭園では、まだ鬼ごっこが続いていた。


「お前らいい加減諦めろよ!」


ロエルは息が上がっている。


「俺はまだ走れますよ!」


キドも汗だく。


「俺も余裕だ!」


ルードは太い枝を杖にしていた。


鬼ごっこは、いつの間にか形を変えていた。


日が傾き、庭園の影が長く伸びる頃には、もはや追いかけっこではなく――


その頃。


城の中では――


皇太子とラミアが静かに茶を飲んでいた。


そして庭園では。


かくれんぼになっていた。


庭園のあちこちから、息の荒い声が飛ぶ。


「暗くて見えねーよ!」


「訓練が足りないんですよ!」


「まだ捕まらんぞ!」


鬼ごっこは、終わる気配がなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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