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公爵家の問題児たちと天然皇女  作者: angelcaido
6章 The Trigger
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第75話 まったく、手のかかる弟だ

壊れる調度品。

飛び交う長椅子。

止める気のない保護者達。


そして今日も、公爵家は平和です。

庭園に面したテラス脇の室内――


先ほどまで茶が供されていたその部屋で、

窓が大きな音を立てて砕けた。


乾いた破砕音とともに、陽光を受けていた硝子が内側へ弾け飛ぶ。

続いて、白木のティーテーブルが横滑りし、優雅な猫脚をきしませながら壁へ衝突した。


軽やかなはずの籐張りの椅子が一脚、宙を舞う。

花台が倒れ、水差しが転がり、床に薄く水が広がった。


カーテンが引き裂かれる。

飾り棚が倒れ、

積まれていた菓子皿が床へ散った。


甘い香りと粉塵が、一気に広がる。


何かが飛び、何かが壊れ、

もう何が調度品で何が破片なのか判別がつかない。


その中心で――


「腕、鈍ったんじゃねぇか?」


第二皇子が踏み込む。

滑った床を意にも介さず、蹴り上げた絨毯ごと皇太子へ叩きつけた。


対する皇太子は身をひねり、絨毯を躱しながら鬱陶しそうに袖の埃を払う。


「お前のような脳筋と一緒にするな。

 俺は戦術を組む側だ」


言い終わるより早く、倒れかけていた丸卓を足先で跳ね上げる。

卓は盾のように回転し、そのまま第二皇子へ。


「小細工だな!」


第二皇子は正面から受け止め、力任せに叩き割った。


木片が散弾のように飛び散る。


「俺に押される戦術なんて役立たずだな」


「役立たずかどうか――今、分かる」


皇太子がわずかに口角を上げる。


「時間はたっぷりあるからな」


次の瞬間、長椅子が横から滑り込み、第二皇子の足元を払った。

――投げたのではない。

皇太子が片手で押し出しただけだった。



部屋の隅。


ルードは額に手を当て、目を閉じていた。

完全に諦めた顔だった。


その隣で、キドは顔面蒼白のまま固まっている。

使用人たちも、女官たちも、全員同じ顔だった。


ただただ、青い。


背後で装飾用の柱が一本、根元から折れた。


「……こんな、なんですか?

このお二人」


呆然とキドが呟く。


ルードは目を閉じたまま答えた。


「ああ。顔を合わせるとだいたいこうなる」


「皇太子殿下……人格変わってません?」


「ラミアが避難して来た理由がわかったか?」


壁に掛かっていた風景画が、今まさに真っ二つに裂けた。


「……俺たちも避難しません?」


ルードが即座に目を開く。


「何言ってるんだ!

避難なんてしたら屋敷がめちゃくちゃになるだろう!」


その瞬間、天井の装飾板が落下した。


キドが無表情で言った。


「もう、めちゃくちゃですよ」


「この部屋から出さなきゃいい」


「止めます?」


「いや」


ルードはきっぱりと言い切る。


「止めてもまた繰り返す。一度思い切りやらせれば数日は大人しくなる」


奥で花瓶が爆散した。


「たった、数日ですか」


「たった数日だ」


沈黙。


粉塵が静かに降ってくる。


キドが真顔で言った。


「演舞場で、やってもらいません?」


「武器持たせる気か?」


「やめましょう」


即答だった。



庭園


壊滅音は、遠くからでもよく聞こえていた。


ラミアが首を傾げる。


「何だか賑やかですね?」


ロエルはちらりと建物の方を見てから、何事もないように微笑む。


「使用人達が皇太子殿下をもてなしたい、って張り切ってるんじゃない?」


「まぁ。フランお兄様、喜びますね」


花が綻ぶような笑顔だった。


ロエルも、同じように笑った。



その頃――


応接の場であるはずのそこは、すでに原形を失っていた。


皇太子が崩れた壁の縁に立つ。

足場にしているのは、さっきまで床だった板材だ。


一段高くなったその位置から、皇太子は視線を落とす。


外套はすでに脱ぎ捨てられている。

細身に見えた体躯の下から、意外なほど引き締まった腕の線が覗いていた。

だが立ち方はあくまで優雅なまま、乱暴さがまるでない。


皇太子はゆっくりと腕を組んだ。


「フハハハ」


崩れた室内を背に、第二皇子を見下ろして笑う。


腰を落としたまま、第二皇子が肩を鳴らした。


「陰気野郎らしい攻撃だな!」


皇太子は答えず、足元に転がっていた長椅子の残骸を――

軽く、つま先で払った。


それだけの動作だった。


だが次の瞬間、蹴り出された木材が矢のように滑り、

第二皇子の足元へ一直線に突っ込む。


「ちっ!」


第二皇子が踏み砕く。

粉砕された破片が跳ね上がる。


皇太子はその破片を避けもせず、わずかに体をずらしただけだった。


「力任せしか能がない証拠だ」


「今のはただの足払いだろうが!」


「十分だ。お前にはな」


「壊れてんのはお前の理屈だ!」


――さらに何かが壊れた。



数時間後。


部屋は、完全に破壊された。


壁は削れ、床は剥がれ、

かろうじて残っている柱だけが、そこが建物だった事実を主張している。


原形は、もうなかった。


お読みいただきありがとうございます。

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