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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
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第71話 The Day After ― まだちょっと変 ―

距離は戻った。

――なぜか。

翌朝。


訓練場には、すでに整列が完了していた。


――完了しすぎていた。


「本日もよろしくお願いいたします!!」


やたらと通る声が響く。


声が大きい。

姿勢が良すぎる。

直立不動すぎて、むしろ動きづらそうだった。


距離も妙に遠い。


(……遠くないか?)


キドは一歩近づく。


その瞬間、さっと全員が半歩下がった。


(下がったな、今)


「本日の訓練内容ですが――」


説明しようとすると、全員が真剣な顔で頷く。

頷きすぎて首が忙しい。


誰も質問しない。

先日まであれだけ飛んできていた確認もない。


静かだ。


静かすぎる。


(……やりづらい)


キドは思わず近くにいた騎士の肩に、ぽんと手を置いた。


「……体調は問題ありませんか」


「!!?」


その騎士が跳ねた。


本当に跳ねた。


「い、いえ、その、あの、問題ありません!!」


声がやたら大きい。


(なんでそんなに緊張してるんだ……)


周囲の皇室騎士たちもなぜか一斉に緊張した。


空気が固い。

無駄に固い。


キドは眉間を押さえた。


「……あのですね」


誰も何も聞いていないのに、口が動いた。


「あの時は、ああいう状況だったからです。

 普段はあそこまで言いません」


沈黙。


誰も触れていない話題を、自分から説明してしまった。


(何を言ってるんだ俺は)


皇室騎士たちは一瞬ぽかんとし、

それから、目に見えて力を抜いた。


「あ、はい……!」

「そうですよね……!」

「安心しました……」


安心された。


なぜか団長が弁明した形になった。


(違う、そうじゃない)


そのとき。


横から、妙に軽い声が落ちてきた。


「でもまたやるぞ、あいつ」


振り向かなくても分かる。

ロエルだった。


「やりません」


即答した。


「怒ると手が付けられなくてさ」


ロエルは面白そうに笑っている。


「そんな事なかったでしょう!」


思わず声が強くなる。


公爵家騎士たちはくすくす笑っていた。

完全にいつもの空気だ。


皇室騎士たちだけが戸惑っている。


(どっちなんだ……)


そんな顔をしていた。



少し離れた場所では、セディが記録板に視線を落としていた。


「本日の行程、問題ありません」

「補給記録は後ほど提出します」


声音も態度も、いつも通りだった。


業務としては、完璧に通常運転。


ただ――


目が合わない。


キドがそちらを見る。

だがセディは顔を上げない。


視線は書類のまま。

姿勢も変えない。


避けているわけではない。

だが、合わせる気もない。


「……」


声をかける理由が見つからず、キドはそのまま視線を戻した。


(……そうか)


妙なことに気づく。


(睨むときは、わざわざ見上げてきてたんだな……)


身長差の分、少し顎を上げて。

真正面から。


(……いや)


(ありがとう、じゃないな)


(有り難くなかった!!)


内心でひとり突っ込む。


だが、今は違う。


目が合わない。


(睨まれるのと、目が合わないの、どっちがマシなんだ……)


答えは出なかった。



訓練終了後。


第二皇子が機嫌よく言った。


「今度は俺達が公爵家騎士団の方に行くぞ!」


キド、固まる。


(やめてください)



「また山揺れるぞ」


「揺れません」


公爵騎士、吹き出す。


皇室騎士は笑えなかった。


(どっちだ……)




帰還の準備が進む。


隊列が整い、装備の音が静かに重なる。


大きな衝突があったはずなのに、

終わりは妙にあっさりしていた。


セディは最後まで、こちらを見なかった。


だが、歩調も指示も、寸分違わない。


それで十分だと、

誰もが分かっていた。


キドは小さく息を吐く。


(……まあ、いいか)


完全に元通りではない。


だが、壊れたわけでもない。


それだけ確認できれば、今は十分だった。


「出発する」


号令がかかる。


隊列が動き出す。


今度は、昨日ほど固くない足音が、

山道へと続いていった。


お読みいただきありがとうございます。

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