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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
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第66話 NO CASUALTIES

朝からろくなことにならない。

団長、本気で止めに入る。

翌朝。


 訓練場には、朝の冷たい空気がまだ残っていた。


 その空気をぶち壊すような声が響く。


「今日も俺が公爵家騎士団の面倒を見る!」


 第二皇子は朝からやたら機嫌が良かった。


「昨日は軽めだったからな!今日はもう少し実戦寄りにしよう!」


(軽め……?)


 公爵家騎士団の面々が一斉に遠い目をする。


「……何をなさるおつもりですか」

 

 セディが低く問う。


「んー、そうだな……何しようかな!」


(考えてなかったのか)


 キドの顔色がわずかに悪くなる。



「騎士団殿。本日もよろしくお願いします」


 セディは丁寧な言葉とは裏腹に、明確に睨みつけていた。


(全然よろしくの態度じゃないな)


「ああ、はい。承知しました」


 キドは一歩前に出る。


「ただし、本日は基礎確認を兼ねた対人訓練とします」


「合理的な内容のみ、でお願いします」


「……精進します」

(難しい注文だな)



男女分離・対人訓練


 訓練場が二列に分かれる。


 片側では女性騎士同士の機動訓練。

 もう片側では実戦想定の打ち合い。


 キドは無言で中央へ歩み出た。


「順番に来い」


 ただそれだけ言う。



 最初の皇室騎士が踏み込む。


 鋭い斬撃。


 だが――


キドは動かない。


 剣が届く直前。


 手首だけが動いた。


 ガン、と鈍い音。


 皇室騎士の剣が弾かれ――


空中で回転した。


「なっ……!」


 次の瞬間には、

その剣の切っ先が地面に突き刺さっていた。


 キドは相手の懐に入り込んでいる。


「重心が浮いている」


 淡々と告げる。


「その踏み込みでは、鎧相手に通らん」



二人目。


 横薙ぎ。


 キドは片手で受ける。


 止める、ではない。


 薙ぎ払った。


 剣ごと腕が持っていかれ、騎士の身体が半歩流れる。


「力を使うな。体幹を使え」


 呼吸一つ乱れていない。



三人目。

四人目。


 同じことが起こる。


 弾かれる。

 崩される。

 近づかれる。


 圧倒的だった。



 皇室騎士たちは気付く。


(重い……)


(この人……地面に根が生えてるみたいだ)


 キドの足は、一歩も滑らない。


 押しても、崩れない。


 まるで岩だ。



 セディは腕を組んだまま、その様子を見ていた。


(これが……公爵家の実戦型か)


 技ではない。


 理屈でもない。


 生き残るための動きだ。



 最後の一人が弾かれ、膝をつく。


 キドは剣を納めた。


「以上だ」


 息一つ乱れていない。



(どうして睨むかな)


 視線を感じて振り返ると、

 セディがまだこちらを見ている。


 無言で。



 そこへ。


「団長ぉぉぉ!!」


 悲鳴のような声。


 公爵家騎士団が、

泥まみれで走ってきた。


「……どうした」


「第二皇子殿下が!!」

「池に!!」

「叩き落として!!」


「ワニがいたんです!!」


 キドの思考が一瞬止まる。


(ワニはまずいだろ)


 キドは即座に前へ出る。


 公爵家騎士達を背中に庇う。


「第二皇子殿下」


 声は低かった。


「ん?」


 第二皇子が振り向く。


「ここでは皇室騎士団長だぞ?」


「では、団長」


 キドは一歩も引かない。


「訓練とは、安全が保障された上で成立します」


「命の危険を伴うものは、訓練ではありません」


「ああ?」


 第二皇子の眉が歪む。


「これが続くなら――」


 キドの声がさらに落ちた。


「我が騎士団を預けることはできません」


 空気が張り詰める。


 誰も動かない。


 ロエルは腕を組んだまま、

(おー……言うなぁ)

くらいの顔で見ている。


 止める気はない。


 第二皇子が歩み寄る。


 胸ぐらを掴む。


「俺に説教か?」


 キドは動かない。


 睨み返す。


 上級騎士たちが動くか迷う。


 ――そして。


 第二皇子の手が離れた。


「いやー」


 頭を掻く。


「流石にワニはやり過ぎたかと思ってな」


「カバだったか?」


「違います!!」

 キドが素で叫んだ。


「カバも危険です!!」


 第二皇子が大笑いする。


「はははは!」


 緊張が一気にほどけた。


 皇室騎士も、公爵家騎士も、

一斉に息を吐く。


 ロエルは、何も言わないまま肩の力を抜く。


 キドはそのまま、背後の騎士達を振り返った。


 泥と水に濡れたまま、まだ青ざめている顔が並ぶ。


「……お前達」


 誰も返事をしない。


 視線だけが揃う。


 キドは低く言った。


「俺は、お前達を死なせる訓練はしない」


 それだけだった。


 叱責も、理屈もない。


 だが、公爵家騎士達の背筋が一斉に伸びる。


 空気が、ほんの少しだけ変わった。


 だが。


 視線をキドから逸らさないまま、セディだけが拳を強く握った。


お読みいただきありがとうございます。

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