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天然皇女と公爵家の問題児たち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
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第64話 Field Mode

合理的。だが、再現性なし。

――キドの実力と、胃の限界が試される。

キドは、少し離れた場所からセディの背中を見ていた。


先ほど――ロエル様が、セディ卿に一矢報いてしまった。


(……胃が痛い……)


騎士にとって、敗北は決して愉快なものではない。


それが強くなればなるほど。

積み重ねてきたものが多いほど。


特に上級騎士――副団長クラスともなれば、なおさらだ。


セディ卿は、少なくともロエル様を“同格”とは見ていなかった。


その相手に届かなかったと知れば、心中穏やかなはずがない。


キド自身、幼い頃から騎士として育てられてきた。


勝ったこともある。

負けたこともある。

折れた仲間も、立ち直った仲間も、数え切れないほど見てきた。


長く共に育った相手なら、

軽く声をかけた方がいいのか、

それとも放っておくべきか――

その見極めもできる。


――だが。


(セディ卿のことは、よく知らない)


距離感が分からない相手ほど難しいものはない。


(……ここは、触らぬ神に祟りなしだな)


そう結論づけ、キドは小さく息を吐いた。


その時だった。


「騎士団長殿」


「わっ」


思わず声が漏れた。


視線を下げると、すぐ目の前にセディが立っていた。


本当に、いつの間にか。


「……何ですか?

そのように驚かれて」


訝しむような視線が向けられる。


「い、いえ。急に声がしたので……少し驚きました」


(この人、気配なく近づいてくるんだよな……)


心の中でだけぼやく。


セディはじっとキドを見たまま、淡々と続けた。


「……騎士団長殿は、気配を読むのが苦手なのですか?」


遠慮がない。


「それで騎士団長として問題はないのですか?」


さらに踏み込んでくる。


「は、はい……まぁ……何とかやっています……」


正直に答えるしかなかった。


(この人、思った以上に辛辣だな……)


キドは内心で苦笑した。


だが次の瞬間、セディの視線がわずかに訓練場へ向いた。


「……では」


短く言う。


「公爵家の“何とかやっている”というやり方。

拝見させていただきます」


キドは瞬きをした。


(ああ……そう来るか)


逃げ道は、なかった。



キドは小さく咳払いをする。


「……では、公爵家流の訓練理念から――」


「理論の説明は不要です」


間髪入れず、セディが切った。


「……拝見はしていただけるんですよね?」


「結果が伴えば」


(厳しい!!)


キドは心の中で叫ぶ。


「で、ですが、背景を理解していただいた方が――」


「必要ありません」


即答。


「再現性があり、合理的であれば評価します」


「……はい」


(胃が……)


キドは諦めた。



「では、実演します」


キドは訓練場中央へ歩み出る。


「一人ずつ、俺に向かって来てください。

形式は自由。実戦想定で」


皇室騎士団がわずかにざわつく。


「セディ副団長、よろしいのですか?」


「構いません」


視線はキドから逸れない。



最初の一人が前へ出る。


両手で剣を構え、正確な踏み込み。


無駄のない軌道。

教科書通りの一撃。


――次の瞬間。


乾いた音が鳴った。


「うわっ!?」


剣が外へ流され、体勢が崩れる。


騎士は二歩よろめき、体勢を立て直すのに精一杯だった。


「今、何を……」


「受けていない……?」


キドは構え直さない。


「次」


二人目。


打ち込む。


払われる。


三人目。


一瞬、踏み込みが速い。


だが。


手首を打たれ、剣がわずかに浮く。


「っ……!」


四人目。


角度を変えてくる。


だが重心をずらされる。


「なっ」


そして五人目。


明らかに一番自信があった。


踏み込みも鋭い。


気迫も違う。


周囲がわずかに期待する。


――が。


一歩踏み込んだ瞬間。


足元を崩される。


「え」


剣を打つ前に、体勢が完全に流された。


沈黙。


皇室騎士団の空気が、明確に揺れる。


「……速い」

「力で押していない」

「最小限で外している……」


誰も転がされてはいない。


だが。


誰一人、二撃目に入れていない。


それが事実だった。


キドは淡々と告げる。


「公爵家では、止めません」


木剣を下ろす。


「受け止めれば力比べになります。

流して、崩して、終わらせる」


説明は、それだけ。


セディが一歩、距離を詰める。


近い。


じっとキドを見上げる。


(何故睨む)


キドは内心で戸惑う。


数秒の沈黙。


やがて。


「……合理的ではあります」


周囲の空気が、わずかに緩む。


だが。


「再現性に課題があります」


(やっぱりそこ!?)


キドは思わず目を閉じた。


――胃薬を常備しよう、と固く誓った。




お読みいただきありがとうございます。

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