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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
5章 Surviving Knight
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第63話 Imperial Mode

規律の中で、ただ一人。

ロエルだけが、別の動きをしていた。

訓練場に号令が響いた。


「――整列!」


足音が一度だけ鳴り、止まる。


それで終わりだった。


全員が、同時に、同じ姿勢で静止している。


公爵家騎士団が小声でざわつく。


「……今の合図あったか?」

「呼吸しか聞こえなかったぞ」


キドは無意識に背筋を伸ばした。


(空気が違う……)



「本日より数日間、合同訓練を行います」


副団長セディの声は低く、無駄がない。


「規律・連携・即応。

すべて皇室基準で実施します」


(皇室基準って何だ)

(付いていける気がしない)


キドの胃が、早くも嫌な予感を訴え始めた。



「まず装備確認」


団員が次々と公爵家騎士の前に立つ。


ロエルの前にも、一人が立った。


「剣の装着位置が規定より二センチ低い」


「そうか」


直す。


「顎を引いてください」


直す。


「視線は正面」


直す。


「重心が前に寄っています」


直す。


公爵家騎士団は戸惑いながらも従っていた。


――だが。


ロエルだけ、やけに早い。


セディが、わずかに黙る。


指摘が終わる前に、修正が終わっていた。


「次」


「終わってる」


「次」


「それも直した」


指摘する側が、わずかに黙る。


「他にもあるか?」


ロエルが普通に聞いた。


「……特にありません」


キドが目を瞬いた。


(なんでロエル様が一番優等生なんだ……)


数分後。


「では次に模擬戦闘――」


「質問いいか?」


ロエルが手を挙げた。


セディの眉がぴくりと動く。


「……規定内であれば」


「規定通りなら何してもいいんだな?」


「当然です。規律に従う限り」



その十分後。


「……何をしているのですか」


セディの声が低くなった。


ロエルは木陰に座っていた。


「待機だが?」


「訓練中です」

「待機位置から動くなと言いました」


「動いてないぞ」


「……」


確かに動いていない。



「日陰に入っていいとは言っていません」


「禁止とも言われてないな」


「……」



「水分補給も許可していません」


「体調管理は各自の責任だろ?」


「……」



「なぜ椅子があるのですか」


「持参した」


「持参を許可した覚えはありません」


「禁止事項にも書いてなかった」



キドが頭を抱えた。


(始まった……)



周囲の皇室騎士団員がざわつく。


「規定違反ではないのか……?」

「しかし……」


判断が揺らぐ。



セディの視線がロエルに据えられる。


「……訓練の趣旨を理解していますか」


「してるぞ」


ロエルはにこやかに答えた。


「“規定を守れ”だろ?」



沈黙。 



第二皇子が吹き出した。


「ハハ……なるほどな」


「感心してる場合ですか!!」

キドが叫ぶ。


セディは深く息を吐いた。


その声音から、わずかに苛立ちが滲む。


「……規定を追加します」


「そう来ると思った」


ロエルが立ち上がる。



「――本訓練において、

解釈による逸脱を禁止します」


一語一語、噛み締めるように告げた。


明らかに、対象は一人だった。



「――では、模擬戦を行います」


セディが静かに告げる。


「相手は?」


ロエルが木剣を軽く回した。


「私が務めます」


一瞬、周囲が息を呑む。


副団長自らだった。



セディが構える。


「その根性――叩き直して差し上げます」


「え?」


ロエルはきょとんと首を傾げた。


「俺、曲がってないと思うけど」


セディは一瞬だけ言葉を失い、

小さく息を吐いた。


「……行きます」



踏み込みは速かった。


真っ直ぐ。

迷いがない。

理想的な軌道。


だが――


ロエルは下がらない。


かわす。


受ける。


流す。


最小限の動きだけで、すべてを外していく。


二合。


三合。


五合。


打ち込むほどに、ズレが生まれる。


正確すぎる動きが、

読まれ始めていた。


手応えが、ない。

受けている感触だけが残り、捉えた実感がまるでない。



次の瞬間。


ロエルの剣先が、

セディの喉元で止まる。


静止。


音が消えた。


――皇室騎士団の空気が、凍り付く。


誰一人、声を出さない。


ただ、目だけがわずかに見開かれていた。


(速い……)

(今、何をされた?)

(副団長が、止められた……?)


息を呑む音だけが、遅れて広がった。



ロエルは笑わない。


ただ、軽く肩をすくめただけだった。


セディの奥歯が、わずかに鳴る。


「……もう一度」


「いや、時間だろ?」


ロエルはあっさり木剣を下ろし、

にっこり笑う。


「俺の根性、直してくれてありがとう」


セディのこめかみが、ぴくりと動いた。 


その空気をぶち壊したのは――


第二皇子だった。


「おい!!」


ずかずか歩み寄ってくる。


「お前、俺の時と全然違ぇじゃねーか!!」


「そうでしたっけ?」


ロエルは少し考える素振りをする。


「そうだよ!!」


周囲の皇室騎士団が、そっと視線を逸らした。



第二皇子はそのまま振り返る。


「公爵家騎士団は俺が鍛える! ついて来い!」


「えっ」

「今からですか!?」


「ロエル! お前もだぞ! 今度は逃がさねぇ!」


「逃げた覚えはないですけどねー」


ハハハ、と気楽に笑う。



公爵家騎士団は、そのまま半ば引きずられるように連行されていった。


騒がしさと、深いため息だけを残して。


お読みいただきありがとうございます。

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